第48話 第1薬師ギルドの凋落3 ある幹部の苦悩

「おい、どうするんだ!すっかりバレてるぞ!」


「だから、俺は言ったんだ。危ない真似はよせって」


「どうする?逃げるか?」


「闇の組織が壊滅するくらいだぞ。どこへ逃げるんだ?」


「領主様に匿ってもらうのは?」


「あほか。燃やし尽くされるぞ」


「王都方面に闇の組織本部がある。そっちにも顔が聞く。ちょっと相談してみる」



 薬師ギルドが大騒動している間、

 ある男が悩んでいた。

 彼も本来ならば、その大騒動に加わるべき人物だ。

 薬師ギルドの幹部なのだ。


 しかし、彼は自宅にいた。

 彼の眼の前には自分の息子が寝ていた。

 顔は赤く、息は苦しそうだ。


 息子は熱病に冒されていたのだ。

 予断を許さない。

 そして、男は薬師であった。

 自分の息子の看病をしているのだ。


「(自分のスキルでは息子の病気を治すことができない)」


 男は血がにじむほど強く下唇を噛んだ。

 男は自分の能力を十分に理解していた。

 一般的に薬師や教会の回復魔法は

 怪我に対してはかなりの効力を持つ。

 しかし、病に関してはそれほどでもなかった。


 ましてや、息子の病状から診断するに、

 この病に対する特効薬を持ち合わせていない。

 いや、薬師ギルドには特効薬はない。


 これを治すには。

 巷で評判の清貧教会。

 だが、清貧教会は教徒になる必要がある。

 男には既に信仰する宗派があった。

 宗派替えははばかられる。


 では、冒険者ギルドで販売している薬か。

 ああ、名目上は飲み物となっているが。

 薬師ギルドへの遠慮ゆえである。

 それが清貧教会の薬と同等であると気づいていた。


 男はそこで悩んでいた。

 男は薬師ギルドの幹部である。

 冒険者ギルドに頭を下げるわけにはいかない。

 しかも、こっそり探ってみると、

 冒険者ギルドは目的の薬の在庫を切らしている。

 来月にならないと手に入らないという。


 男にはもうひとつ心当たりがあった。

 第2薬師ギルドである。

 しかし、男は第1薬師ギルドの幹部なのだ。

 しかも、闇の組織を使って返り討ちにあった。

 決定的に第1と第2は対立することになったのだ。



 男は悩んだ。

 最終的に薬師ギルドに対して辞表をかいた。

 そして、第2薬師ギルドに助けを求めた。


 彼がギルドに辞表を出した日の夜。


「うにゃ(変なの来たニャ)」

「うにゃ(赤点だニャ)」

「うにゃ(排除するニャ)」


 男が薬師ギルドの幹部であることを知ると、

 第2薬師ギルドはすぐに行動を起こした。

 

 そこで魔猫の警備を要請したのだ。

 薬師ギルドは報復処置を取る怖れがあった。


 そして、その懸念は実現しようとしていた。

 アサシンがこっそりとやってきたのだ。

 勿論、薬師ギルドに雇われている。

 このアサシンは王都方面の組織の一員だ。



 しかし、魔猫に通用するほどではない。

 魔猫は元々のスキルの高さに加え、

 キャットフードによって

 2段階ほどスキルを向上させたスーパー魔猫だ。


 こっそり近づこうとすぐに感知されるし、

 下手な攻撃魔法も通用しない。

 人間程度の物理攻撃などそよ風みたいなものだ。


「シュバッ」「ぐわっ」


 僅かな風切り音の後、

 アサシンは小さな絶叫を残して息絶えた。


 そういうのが3日続いて襲来は途絶えた。

 魔猫軍団がアサシンのアジトを突き止め、

 壊滅させたのだ。


 アジトはセリア街闇の組織の本部だった。

 しかし、セリア街の闇の組織と同じ運命を辿った。

 薬師ギルドの闇はほぼ完全に沈黙した。


 闇の組織とイキッたところで、

 しょせんは人間のやること。

 暴力においては、人間は魔物には勝てない。


 魔物は魔素の薄い場所では棲息できない。

 また、魔物が森の外で暮らすメリットがない。

 人間が森の外で大きな顔をできる理由だ。


 しかし、それも車メニューによって強化され、

 魔石を利用することを覚えた魔物の前では

 なすすべがないのだ。


 カリカリやチュールを奪おうとする人間。

 それは魔猫にとっては最優先に排除すべき存在だ。


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