第47話 第1薬師ギルドの凋落2 ある幹部の苦悩
巷では新たに発売された消毒薬や野草茶で
話題騒然としている。
当初、薬師ギルドの売上は落ちていなかった。
薬師ギルドの恩恵に預かれなかった庶民たちが
大騒ぎをしているのだ。
旧来の薬師ギルドの回復薬を購入していた層。
支配層、上級国民と言われるアッパークラス。
こちらは半分薬師ギルドへの信頼感故。
そして半分は薬師ギルドへの忖度故に
新しい製品に目が向かないのであった。
しかし、それも僅かな期間のみであった。
初級回復薬はともかく、中級・上級となると
いかな金持ちでも簡単に購入できるものではない。
ましてや、軍隊を保持しているものにとっては、
数を揃える必要があるのだ。
次第に清貧教会や冒険者ギルドに流れ始めた。
流れができると押し止めるものは何もない。
さらに加速がつく有様だ。
「値段が違い過ぎぎて最初はまがい物かと思ったが」
「ああ。傷にはかなりの効果がある」
「ずっとお世話になっている薬師ギルドには悪いが、効果は上で格安となれば使わない理由がない」
「かなりしみるのがアレだが、それさえも効き目を後押ししてる気分になるよ」
「この野草茶もいいね。飲むと気分が落ち着く。これ飲んでからイライラすることがなくなって夫婦喧嘩しなくなったよ」
「ああ。部下にも怒鳴り散らすことが減ったな」
「安いのがいいさね」
新発売の回復薬販売のどさくさにまぎれて、
メイプルシロップを入れない野草茶も発売した。
茶葉をそのまま販売したのだ。
甘い方の野草茶はそういう品種・製法上の秘密。
それで通した。
さほどの疑惑の目は持たれなかった。
今までもうっすらとした甘さであったし、
何しろ回復薬の衝撃でそれどころではなかった。
◇
「発売された回復薬ですが、実によく効きます」
「なに、他人事のように報告してるんだ。そんなことはわかっておる。見ろ。この売上高を」
「ここにきて、急激な売上高の減少。緊急事態です」
「だから、他人事をやめろ。領主様からも突き上げを食らっているぞ。これでは今月の上納金が収められない。このままではやばいぞ。領主様に燃やし尽くされるぞ」
セリア街領主は王国でも名うての魔導師だ。
王国魔導師軍だと、魔導師軍団長レベルである。
領主一人で大隊に匹敵するという噂だ。
「俺、領主様の処刑をみたことある。数人があっという間に蒸発したぞ。燃えたんじゃない。蒸発したんだ。あれにはぞっとしたぞ」
「俺は領主様の大規模魔法だ。先の隣国帝国軍との争いで領主様も出陣したよな。俺も後方支援に駆り出されたんだが、後方陣地に敵が襲いかかってきたんだ。なんらかの隠蔽魔法でも使ったのか、本当に突然現れたんだ。平野に見渡す限りの敵兵がな」
「ああ、俺もそこにいた」
「ちょうど、領主様がいて。一発だったよ。大規模魔法でな。あの目をくらます閃光、地面を揺るがす衝撃音、そして味方をも吹き飛ばすような衝撃波。みるみるうちに爆雲きのこが立ち上ってな」
「ああ、しばらくして視界が晴れたと思ったらでっかい、本当にでっかいクレーターが遠くに見えて。立ってる敵はいなかったよ」
「いかんぞ、領主様が
「だからといって、発売しているのが冒険者ギルド。そして、清貧教会。ちょっと手が出せん」
「法的に問題がない。無理を通したいところだが、冒険者ギルドは薬草を調達してもらっているし、国中の冒険者を相手にすることになる」
「清貧教会もな。傷や病気の回復や教会の十八番だ。セリア街の清貧教会はみすぼらしいが、それでも無理やりことを起こすと他宗派の教会も団結して反発してきやがる」
「ギルド長、たったいま闇の組織から報告が!」
「おお、おお、待っておったぞ……なになに?製造元にはドワーフと第2薬師ギルドが関わっていると?」
「ドワーフか。ここもアンタッチャブルだな。よほどでない限り、関われない。せいぜい第2薬師ギルドだが」
「第2薬師ギルドの面々を誘拐するか?せめて、レシピはものにできるだろ」
「相手もそれなりの防衛体制をひいているだろうからすんなりとはいかん。下手すると、こっちが危ない」
「じゃあ、どうする?俺たちも追い込まれてるんだぞ」
「うーむ、闇の組織を動かすか?」
「俺は反対するぞ」
「何言ってるんだ。ケツに火がついてるんだぞ」
◇
結果を言おう。
闇の組織とやらは失敗した。
第2薬師ギルドの面々には魔猫が警備についた。
闇の組織は魔猫の結界を突破できなかった。
反対に闇の組織のアジトを突き止められ、
魔猫軍団によって壊滅させられた。
翌日には、薬師ギルドの建物に、
闇の組織の構成員の亡骸がつるされたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます