第46話 第1薬師ギルドの凋落

「なあ、冒険者ギルドで発売されてる消毒薬、傷薬にすごく効くんだって?」


「ああ、知り合いの冒険者、胸にざっくり怪我をおったんだが、初級の消毒薬であっという間に治ったってよ」


「薬師の回復薬と比べてどうなんだ」


「明らかに効果あるらしい。しかも、初級だと100pだ」


「初級だけじゃねえぞ。中級・上級はもっと安いぞ」


「中級が千p、上級が1万pだろ」


「薬師ギルド薬だとそれぞれ10万p、上級が100万pだもんな」


「だけど、効果はどうなんだ」


「薬師ギルド薬との比較はわからん。富裕層しか買えん値段だからな。だが、中級でも死にそうな傷が治るってよ」


「問題とかないのか」


「アルコール使ってるから、メチャクチャしみるらしい」


「ああ、それよくわかる。俺もエールかけたことある」


「噂によると、清貧教会も似た製品を販売してるらしいな」


「清貧教会は治療に使ってるだけで販売してるわけじゃないがな。それに、アルコールが含まれていないようだ」


「ああ、なるほど」


「まあ、専門の回復士が治療するから、冒険者ギルドよりは安心なんだが」


「そりゃそうだ」


「それとな、教会は病気にも強い薬を使ってるようだ」


「まずは、野草茶だな。香ばしい香りのする美味しいお茶なんだが、ほんのりと甘いんだよ」


「ああ、俺も飲んでる。教会で治療を受けるには教徒にならないといけないが、野草茶は教徒にならなくても売ってくれるからな」


「凄い行列ができてるんだろ?俺の母ちゃんが毎日並んでるぞ」


「かなり美味いからな。しかも体調が良くなる。寝覚めがいいとか、肩こりが治るとか、便秘に効くとかいろいろ言われてるが、俺も実感してるよ」


「おまけに病気にも強いってな」


「うむ。風邪ぐらいならすぐに治るな。薬師にも風邪薬はあるが、即効性はあんまりだろ?」


「だな。治るには1晩はかかるな」


「だけどさ、薬師ギルドはどうなんだよ」


「勿論、腹立ててるさ。でもな、どうやら製造元がドワーフだ」


「なるほど。そりゃ、薬師ギルドも引っ込むな」


「しかも、清貧教会にも文句を言えない」


「薬師ギルドよりも上位の独立した団体だもんな」


「冒険者ギルドもな、薬師ギルドを微妙に回避してるってよ」


「ほう」


「薬師ギルドに報告の必要のある薬ってのは、

 ①薬師ギルドにレシピのある薬

 ②薬師ギルドに登録されている薬草を使う

 この2点のいずれかの場合、報告しなくちゃいけない」


「義務じゃないんだろ?」


「義務じゃないが、報告しないと嫌がらせが飛んでくる。実質上の義務なんだよ」


「なるほど。薬師ギルドってえげつないってきくもんな」


「まあ、嫌がらせ以上のものが飛んでくるだろうな」


「でな、冒険者ギルドの消毒薬はそのいずれにも抵触していない。しかも、冒険者ってのは薬草も採取してくるだろ?薬師ギルドはあんまり強く冒険者ギルドに文句いえないんだよ」


「しかし、俺の母ちゃんがブーたれてんぞ。早朝から行列が凄いってよ」


「うーん、消毒薬はそのうち騒ぎがおさまるかもしれんが、野草茶はそうもいかんかもしれんな。あれ、日常的に飲めるからな」


「そうだぜ、しかもあの甘さはくせになる」


「果物ジュースにも甘いのはあるが、同時に酸っぱいからな」


「酸っぱいのは歯がギシギシする感じになるし、胃が荒れることもある」


「薬師ギルドは文句言えんかもしれんが、他宗派の教会は面白くないだろうな」


「しかも、あの清貧教会だからな。とびっきり貧乏な教会に人が群がってる」


「俺等的にはザマアって感じだろ。清貧教会以外の教会って強欲なところが多いからな」


「ああ。祈りを忘れたところばかりだ」


「それとな、あそこのシスター、えれえベッピンさんだろ」


「ああ、ちょっと他で見たことがないな。キレイっていうか、オーラが凄いんだよな」


「あのオーラはなんなんだよ。上品オーラ?清潔オーラ?シスターがいるだけで、部屋の空気が一気に変わるよな」


「ああ、俺も宗派を変えようか、迷ってるところ」


「だよな。俺の宗派もやたら寄進を求めてくるしな」


「そうなんだよ。取るだけはぎっちり取るくせに、与えるもんは祈りだけ」


「祈りも効果があるのかどうかわからん上に、その祈りでさえもやりたがらねえ」


「神より与えられた奇跡だからだとよ。一度も奇跡を拝んだことねえーんだが」


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