第23話 メイプル(仮)の木発見
僕がこの世界にやってきて100日が経過した。
村人の暦を見ると、2月だ。
あっと言う間に年を越したことになる。
なんだか、感慨深い。
早朝目が覚めると、というか子猫に起こされると、
流石に寒い。
車の中はエアコンを切っていれば氷点下になる。
窓ガラスは真っ白だし、凍結している。
起きたらダッシュでエアコンをかけ、
ご飯を子猫にあげて自分はコーヒーで体を温める。
ラグも最近はコーヒーの味がわかってきたようで、
僕と同じブラックを飲んだりしている。
朝食はデニ◯ズのモーニングメニュー。
選んだ料理は『エビとハーブ鶏のスープごはん』。
それと『チキンシーザーサラダ』。
ラグも同じ。
「(アキラ、そういえばな、この時期に甘い樹液を垂らす木があるんや)」
この時期に甘い樹液を垂らす木。
地球ならばメイプルシロップか。
確か、サトウカエデとかいう木だ。
「へえ、いいじゃないか。連れてってよ」
「(結構離れてんで。多分、数日はかかるな)」
僕たちは村長さんに断って現地に向かった。
久しぶりのロングドライブだ。
距離的には大したことがないのだけど、
森を切り開きながらだから、時速は5km程度。
サスペンションが優秀だから、殆ど揺れない。
まだ転移してきたころ。
毎日不安を抱えながら森を走破していた。
あの頃に比べれば、本当に気楽で楽しい旅だ。
それでも1日10時間はハンドルを握るわけだ。
ちょっと厳しい。
目的地には3日めのお昼に到着した。
100km以上離れた場所にある。
「ああ、たしかに楓だ」
葉っぱがカナダのマークだ。
木の表面を削って舐めてみる。
甘い。
「ラグ、ナイスだぞ!」
大喜びの僕は木に穴をあけ、
村製作の金属製のパイプを穴に突き刺し、
樹液を木の樽に誘導する。
一晩待って1リットルほどの樹液を採取。
それを煮詰めてみた。
どんどん水分を蒸発させ、
最終的に鍋の底にちょっぴりの液体となった。
ドロリとした琥珀色の液体。
なめてみると、若干の風味のある繊細な甘さ。
「ラグ、朝マックのホットケーキで食べてみようか」
マックのホットケーキにはシロップとバターがのせてある。
それと食べ比べてみたけど、
メイプルシロップのほうがだんぜん美味しい。
味が鮮烈なんだ。
ほんのちょっぴりとした野趣がいい塩梅で、
味がダイレクトに伝わってくる。
「(アキラ、こりゃ比べ物にならんな)」
グルメ猫となっているラグも同意見だ。
同上している子猫たちにもお裾分けした。
例によってウマウマ言いながら舐めている。
でも、ウマウマ度がいつもよりハネあがっている。
子猫的にも好評のようだ。
僕たちはすぐに村に戻った。
帰りは道ができているから1時間程度だ。
次に村長さんたちをメイプルの現場に連れてきた。
時速100km以上でぶっ飛ばすもんだから、
村人は全員気を失ってしまったんだが。
「木が砂糖を作るわけですか!」
村長さんも村人も驚いている。
砂糖は王国では大変な高級品だ。
しかも、さほど質が高くない。
このシロップはいきなり超一等級の品質なんだ。
樹液の採取方法は難しくない。
後は採りすぎないようにすることと、
採取時期をはずさないこと。
2~3月の一ヶ月程度が収穫時期。
それよりも、運搬方法のほうが大変だ。
村から100km以上ある。
森の奥だからどんな魔物が現れるかわからない。
「ここにシロップ生産工場を作ったほうがいいですかね」
「ですね。大量の樹液も煮詰めるとほんの僅かですものね」
「あとは魔猫の防御力ですか」
「村民もいざとなれば戦えるぐらいにはしたいですな」
こうして魔猫と村民の強化プランが立ち上がった。
というか、現状でも村人総出の早朝の魔法訓練が続いている。
それに加えて、以前から漠然と感じていたことが明らかとなってきた。
チェーン店メニューやカリカリを食べると、
いろいろと強化されるんだ。
体力も魔力も。
もともと村人は半分魔人化していることで、
体力の強化が図られている。
でも、魔力の伸びは今ひとつだった。
そこで、定期的にマ◯クのハンバーガーとかを組み込んだ。
村人たちは急速に魔力を増やしていった。
そして、ラグの指導の元、
いろいろな魔法を覚え始めたのだ。
数ヶ月後には多くの村人が見違えるようになった。
実践に耐える攻撃魔法を放てるようになったのだ。
「王国の魔導師部隊にでも勝てそうですな」
村長さんは冗談交じりでそう話す。
王国魔導師軍の部隊長クラスだと、
強力な上級魔法が使えるらしい。
流石に村人はそこまでの人はいない。
でも、魔猫の防御結界がかなり強力だ。
これと併用すれば、
少々のスタンピードならば防ぐことができる
というのがラグの見立てだ。
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