3 野草茶
第21話 野草茶
「村の周囲はずっと畑なんですね」
村長さんとの会話だ。
実は今日は新年会を催している。
この世界は1年が365日、
日本とかと同じ暦を使っている。
春夏秋冬は日本と同じような季節感らしい。
「ええ、今ですと小麦の種まきが済んだところですね」
「やっぱり、小麦が主食なんですか」
「いや、とうもろこし、じゃがいも、ライ麦とか粟・稗とかいったところが主食になります」
「小麦は食べないのですか?」
「小麦は換金作物ですわ。街で売ったり、領主様に税として収めたり」
「はあ、結構広い畑に見えますが」
「村人300人が暮らしていくにはギリギリの広さなんですよ」
「こんなに広いのにですか」
「ええ。栽培ばかりしてはいかんのです。連作障害のため休耕地もいります。家畜用の牧草地も必要です」
そこで言葉を切り、小声で話し始めた。
「それから大きな声では
この国では畑の広さから収穫予想が立てられ、
その6割を収める必要があるという。
「6割ですか。随分と厳しいんじゃないですか?」
「ええ。経費もありますから、小麦はほとんど残らんです。借金することも珍しくありません」
「豊作・凶作関係なくですか」
「そうです。そして、どちらかというと凶作の年のほうが多いのですよ。流石に飢饉のときは情状をくんでもらえますが」
なるほど。
村が貧乏なのは重税のせいなのか。
「村としては増収の努力は当然されているとおもいますが」
「無論です。現状では対策としては3つ。開拓・肥料・商品作物です」
村長さんによると、
開拓地は5年無税。
ただ、開拓する余地がなくなっている。
肥料は決定的に不足している。
商品作物も目処が立たない。
「お茶はどうですか。ここのお茶はなかなか美味しいですし、なんだか気分がリラックスするんですよね」
「ああ、あれは村の自慢のお茶です。残念ながら、森の野生種で、量が採れないんですよ」
「量が、ですか」
「栽培自体はさほど難しくないようです。森の荒れ地を見つけてそこに種を植えるだけですね」
「荒れ地なんですか?」
「腐葉土が堆積しているような豊かな土壌を嫌うみたいでして」
「ああ、なるほど」
「荒れ地といってもある程度の魔素濃度が必要みたいです。つまり、森の奥の荒れ地が必要なんですよ」
「うーん、移動手段を確保できればいけそうですか」
「おそらくは」
僕はほうじ茶に似たあのお茶を気にいっていた。
日本でも僕は日本茶が一番好きだったんだ。
紅茶やコーヒーも好きだけど。
それと、この村の状況は目を覆わんばかりだ。
一言でいえば、スラムなんだ。
非常に貧しい。
だから、ちょっとした人助けのつもりで、
お茶栽培に乗りだしてみることにした。
◇
村長さんとお茶に詳しい村人を車に乗せて、
繁殖候補地に向かうことにした。
村人は半分魔人化しており、魔素に強い。
つまり、森に入っても大丈夫だ。
獣道のような細い道を広げつつ、
キャンピングカーが走る。
荒れ地の場所は村から5kmほど離れたところにあった。
僕がこの世界にきた時の場所と似たような広さで、
小学校の運動場程度だ。
「結構、開けてるんですね」
「ええ、どういう加減かわからんですが」
その場所では様々な野草が群生していた。
「これなんですよ」
村長さんが示したのはヨモギのような植物だった。
「ねえ、ラグ。ちょっと考えがあるんだけど」
「(なんや)」
「子猫ってさ、成長したら独立するって話でしょ?」
「(せや)」
「彼らを雇用できないかな。大きくなっても防御結界は使えるんでしょ?」
「(個別に使えるようになるな。せやから独立できるんや。でも、いい考えかもしれんな)」
「いっそのことさ、将来的には村を猫村にして防御結界を張ってしまうってのもあるんじゃない?」
「(ふむ、子猫たちに聞いてみるか。まあ、聞かなくても答えはわかるが)」
「村長さん、まだ暫定的なんだけど、ラグのしもべたちをガードマンにしたらどうかなって、ラグと相談してたんだ」
「森の守護様の子猫さまをですか!」
「村や馬車に結界を張ると、いろいろ大丈夫でしょ?彼らは喜んでやると思うんだよね」
三色昼寝付きみたいな生活と森の過酷な生活。
どちらを選ぶか、聞く前からわかってる。
勿論、ご飯はカリカリだ。
というわけで、話はトントン拍子に進んだ。
とりあえず、この荒れ地の野草茶栽培を進める。
野草茶は夏以外ならば成長するようだ。
暑いのが苦手なんだという。
現在は多分12月あたりの季節なんだけど、
野草茶は結構群生している。
(名前がないので、魔ヨモギと呼ぶことにする)
さらに他の草刈りを行い、種まきしてみた。
種を蒔いて少し土を被せた程度。
発芽は数日後。
そこからはぐんぐんと成長して
一ヶ月後には収穫可能な大きさになった。
「すごい成長速度なんですね」
「森の植物はたいていこんなもんですよ。逆に、この種を村の周囲に蒔いても発芽しないんですよね。必要なのは陽光と魔素です」
「栽培も楽そうですね」
「現状では種まいて余計な雑草を抜くぐらいですな」
もともとが非常に繁殖力の強い植物のようだ。
ただ、森は高い樹木で鬱蒼としている。
必要な陽光を得られない。
しかも、肥沃な土地を苦手としているという条件がある。
今後は村人たちが植物の管理をする。
道路はキャンピングカーが拡充した。
片道徒歩で1時間程度だ。
馬車に子猫数匹を積んで結界を張りつつ
のんびり往復すればいい。
少し前に魔狼が出たけど普段は強い魔物はいない。
ただ、しばらくは少し怖いからラグもいっしょに。
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