第152話 アイドル的人気
街で【紅の薔薇】についての聞き込みを行ったのだが、予想していたよりも簡単に情報を集めることができた。
クリンガルクの街ではアイドル的な人気がある上に、実力的にも最上位に位置するようで、声を掛けた全員が知っていたほどの高い知名度を彼女たちは誇っていたことですぐに情報が集まったのだ。
「情報をまとめますと、夕方までは依頼をこなしているため街にはおらず、夕方以降は『アンチェルト』というお店によくいるということで間違いないですかね?」
「間違いないと思う。声を掛けたみんながそう言っていたからな。それにしても……有名になるとやはり大変だ。行動全てを見られることになるんだもんな」
「確かに! 追っかけみたいな変な奴もいるって言ってたしね! 漠然と有名になりたいって願望があったけど、変なのに付け回されるぐらいなら今ぐらいのが気楽でいいのかもとか思っちゃった!」
「絶対に今ぐらいの方がいいに決まっている。だから、なるべく目立たないように心掛けよう」
「いやいや! 気をつけようって、目立つのはグレアムだけでしょ!」
「ですね。私達は目立とうとしても目立てませんので、気をつけるのはグレアムさんだけですよ」
確かにその通りではあるが……。
ただ、二人も最近は力をつけてきているし、ビオダスダールの中ならトップクラスの実力者だからな。
「いや、美人な若い女性冒険者ってだけで注目される上、二人は実力もつけてきているからな。普通に俺よりも知名度は高いだろ」
「び、美人!? 私って美人なの?」
「グレアムさん、そんな褒めないでください! 何も出ませんからね!」
割と真面目に忠告したのだが、照れるばかりでまともな返答をしない二人。
俺は軽くため息をつきつつ、浮かれている二人をよそに『アンチェルト』へとやってきた。
まだ昼過ぎだし【紅の薔薇】はいないだろうが、事前に店主さんに聞いておきたい。
俺は営業中であることを確認してから、『アンチェルト』の中に入った。
「いらっしゃいませ。三名様でしょうか?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあって訪ねてきたんだが、話を聞かせてもらうことってできるか?」
「お話……。【紅の薔薇】についてでしょうか?」
「ああ、その通りだ。このお店に通っているのかどうかを尋ねた――」
「残念ですが、お答えできません。守秘義務がありますので」
強い意志できっぱりと断ってきた店主。
対応からみても、俺たちだけでなく色々な人が【紅の薔薇】目当てで訪ねてくるのかもしれないな。
この感じからして、どんなに粘ったところで教えてはくれない。
なら用件だけ伝え、すぐに引いた方が円滑に進む可能性が高いだろう。
「分かった。そういうことなら、もし【紅の薔薇】に一つ伝言をお願いしたい。王都で戦った片腕のおっさんが訪ねてきたとだけ伝えてくれ」
「先に言っておきますが、来るかどうかもお答えしませんからね」
「それで構わない。ただ、来たら必ず伝えておいてくれ。よろしく頼む」
頑固な店主に念を押してそう告げてから、俺は『アンチェルト』を後にした。
俺にとって良い店なのかは分からないが、【紅の薔薇】からしてみればありがたいほどに良い店に感じるだろうな。
だからこそ、この店を贔屓にしているのだろう。
「【紅の薔薇】も不発でしたね。直接会うことができたら、きっと情報をくれると思うんですけど……」
「さっきの店主さんが伝えてくれたら何とかなるんじゃない? わかんないけど!」
「そう信じて、また後で訪ねるしかないだろうな。それまでは……暇だし、クリンガルクの街を見て回ろうか」
「やったー! 疫病も流行っているみたいだし、今回は街を見て回れないかと思ったけど楽しみ!」
「くれぐれも病にかからないように気をつけてくれ」
「手洗いとうがいはちゃんとします!」
夜までの間、俺達はクリンガルクの街を見て回ることにした。
はっちゃけることはできないが、帰りに買うお土産の目星くらいはつけておきたい。
人通りを避けつつ、クリンガルクの街を見て回ること約五時間。
良い具合に時間を潰すことができ、辺りもすっかりと暗くなってきた。
「ふぅー、楽しかった! 街並みから変わってたけど、やっぱ売っているものも変わったものばっかだった!」
「大通りを見て回れなかったのは残念でしたが、意外と裏道の方がこの街の特色を見ることができて良かったかもしれませんね」
「だな。お土産の目途も立ったし、そろそろ『アンチェルト』に戻ろう」
「店主さん、ちゃんと伝言を伝えてくれていますかね?」
「こればかりは分からん。伝えてくれなかったとしても、腹が減っているし『アンチェルト』で飯を食って帰ろう」
「いいね! あそこのお店、美味しそうだったもんね!」
ということで、俺達は来た道を戻って『アンチェルト』へと向かった。
これで駄目だった場合は諦め、別のルートでの情報を集めを行うつもり。
とはいっても、今のところどう情報を集めればいいのかすら分からないため、【紅の薔薇】に話が通っていてほしい。
心の中で願いつつ、俺達は本日二度目の『アンチェルト』に入ったのだった。
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