第148話 情報漏洩
クリンガルクの街に行くと決めてから、あっという間に三日が経過した。
この間に色々と準備を行い、明日の朝にはクリンガルクの街に向けて出発する予定となっている。
「グレアムさん。馬車の準備は俺の方でやらせてもらったから、その馬車に乗ってクリンガルクに向かってくれ」
「分かった。色々と準備してくれてありがとう」
「礼なんかいらない。俺の方から頼んで、グレアムさんは快く引き受けてくれたんだからな。逆に今回はついていけなくて申し訳ない」
「気にしなくて大丈夫だ。ギルド長の立場じゃ、王都の時のように何か用事がないと無理だろ」
「正式に緊急要請を出してくれと、クリンガルクのギルド長に掛け合っては見たんだがな……。何故かグアンザがビオダスダールに行ったという情報を持っていて、俺の話を一切聞いてくれなかった」
そう言って、顔を俯かせたギルド長。
この間も似たようなことを言っていたが、グアンザは想像以上に嫌われているようだ。
王都に居た時の態度を、ギルド内でも行っていたのだとしたら何ら不思議ではないし、妥当とさえ思える。
……ただ、今回は俺たちもグアンザ側と見られることは確実のため、色々と気を引き締めておいた方がよさそうだ。
「自業自得とはいえ、俺たちにまで火の粉が降りかかるとなると勘弁してほしいな」
「心の底からそう思う。とにかく、嫌がらせを受けるかもしれないから、そこは上手く対処してほしい」
「分かった。くれぐれも気をつけさせてもらう」
ギルド長にそう伝えてから、俺は冒険者ギルドを後にした。
仕方がないが、グアンザの仲間だと思われるのはかなり癪。
そんなことを考えながら、俺は家へと戻ってきたのだが……。
家に入るなり、リア、グリー、アンの三人が出迎えに来た。
「グレアム。俺もクリンガルクに連れて行ってくれ」
「私も行きたいです!」
「私も! アオイ様が言っていたけど、伝説のドラゴンゾンビと戦うんでしょ!? 私も見てみたい!」
仕事でしばらく留守にするとだけ伝え、ビオダスダールを離れようと思っていたのだが……。
どうやらアオイが情報を漏らしたようだ。
こうなることは分かっていたから、しっかりと口止めしたはずなんだけどな。
『伝説の』という尾ヒレがついていることからも、アオイが3人に自慢気に話したのだが目に浮かぶ。
「駄目だ。三人にはまだ早い」
「俺は絶対に我儘言わない。クルーウハミリオンの時と同じように、見るだけでいいから」
「私も見るだけでいいです!」
「私も!」
「駄目だ。今回は相手の実力が未知すぎる。そもそも馬車に乗れないしな」
「嫌だ。行きたい」
「なんでも言うことを聞くから連れて行って?」
きっぱりと断ったのだが、三人は諦めきれないようで全く折れない。
こうなることが分かりきっていたから口止めしていたんだが……こうなったらアオイに責任を取らせよう。
「……分かった。アオイと模擬戦をして、一発でも剣を当てられたら連れていく」
「えっ、一発でいいのか? 絶対に一発当ててやる」
「グレアムさんじゃなくて、アオイさんなら当てられる!」
「グレアム様ありがとう!」
もし一発でも食らったら、アオイは留守番で当てた人を連れて行く。
口を滑らせたのだから、これぐらいの責任は取ってもらわないといけない。
……というか、アオイは舐められすぎだな。
「――ということだから、アオイ。三人と模擬戦をしてやってくれ」
「えっ!? なにその急展開! それに一発も貰っちゃいけないって厳しすぎるって!」
事の流れをリビングのソファで寝転がっていたアオイに説明すると、すぐさま飛び起きて反論してきた。
確かに急ではあるが、自分の責任なのだから仕方ない。
「口止めしたのに話すから悪い。ちなみに一発でも食らったら、クリンガルクにはアオイを連れていかずに三人を連れていくからな」
「なにそれー! 酷すぎるって!」
「酷くない。ついてきたいなら本気で戦うんだな」
「くぅー……。リア、グリー、アン。悪いけど本気でいくから!」
「絶対に一発当てる」
「アオイさん、ごめんなさい。私も本気でいかせてもらいます」
「私も手加減しないから!」
お互いに手加減をしないことを伝え合いながら、木剣を持って中庭へと移動した。
まぁ無茶苦茶な条件でアオイに丸投げしたが、俺はアオイが圧勝すると予想している。
リア、グリー、アンの三人も日に日に成長してはいるが、流石にまだ早すぎる。
しっかりと発破をかけたし、本気でやればアオイは楽々避け続けるだろう。
すぐに模擬戦が開始されたが、俺の戦前の予想は完璧に的中。
一人一人順番に戦ったのだが、アオイは三人の攻撃を軽々と避け続け、一度も攻撃が当たることなく対処した。
アオイは胸を張って得意げになっており、そんなアオイとは対照的に落ち込んでいる三人。
実力差もあったし少し可哀想ではあるが、クリンガルクの街についてくるのは諦めてくれたのは良かった。
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ここまでお読み頂きありがとうございます。
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