第147話 引っかかり


 ドラゴンゾンビの返事は一旦保留とさせてもらい、受付嬢さんが見繕ってくれた依頼をこなしたその日の夜。

 いつもの酒場にやってきた俺達は、酒を飲みながらドラゴンゾンビの討伐についてどうするかを話し合うことにした。

 

「私は気が乗らないけどね! 私達に散々嫌な態度を取ってきたドウェインが、今更どんな顔して頼みに来たんだ! ……って感じだし!」

「さっきも言ったが、ドウェインからの依頼じゃなくてギルド長からの頼みだぞ。それに困ってるのはドウェインじゃなくて、クリンガルクに住む人達だしな」

「私は行きたいです。ドラゴンゾンビがどんな魔物か分かりませんが、討伐できるのであれば戦いたいので」


 アオイとジーニアで意見が真っ二つに割れた。

 ちなみに俺が危惧しているのもジーニアと同じ理由で、アオイとジーニアがドラゴンゾンビを倒せるのかどうかという問題。


 ドラゴンとは数回戦ったことがあるが、どれも苦戦を強いられているからな。

 特に最後に戦ったエンシェントドラゴンには、俺も腕を喰われている訳で……。

 流石にエンシェントドラゴン級のドラゴンではないにしろ、そんな危険な相手にアオイとジーニアを連れていっていいのかという疑問がある。


「だとしても、私は納得いかないんだもん! ……まぁ二人が行くっていうなら絶対についていくけどさ!」

「ちなみにですが、ドラゴンゾンビってどれほどの強さの魔物なのですか?」

「強さに関しては分からない。ドラゴンにも様々な種類がいるし、種類によって強さも大きく変わる。俺の腕をやられたのもドラゴン種だった訳だしな。――ただ、弱い個体はいないと断言できる」

「なら、割に合わないんじゃない? 仮に倒せたとして、今回の戦果でドウェインがまたギルド長に返り咲いた――なんてことになったら許せないもん!」

「そこは流石にないだろ。俺はギルド長の依頼ってことで行くつもりだしな」


 アオイだけはずっと違うところで引っかかっているようだが、アオイがついて来ないにしても俺一人でも討伐には行く予定ではいる。

 強い種族のドラゴンのゾンビであれば、下手すれば国一つなくなってもおかしくないからな。


「私達がついていって、足手まといにならないかだけが不安です。グレアムさんはもう行くと決めているんですよね?」

「ええっ!? グレアムは行くの!?」

「ああ、既に行くと決めている。この話し合いは二人がついてくるかどうかを決めるものだからな」

「なら、行く! どうせグレアムが倒すなら行った方がいいし!」

「何度も言ったと思うが、めちゃくちゃ危険な相手だぞ」

「んー、でもグレアムが守ってくれるでしょ!」


 凄まじいほどに他人事だが……まぁ俺が頑張って二人を守ればいいだけという見方もできる。

 この辺りでは、既にジーニアとアオイの相手になる魔物がいないし、強い相手と戦わせたいという思いも常にあったしな。


「……分かった。命だけは守ると約束する。ジーニアはどうする?」

「グレアムさんが良いと言ってくれるのであれば、私もついていきたいです! ドラゴンゾンビなる魔物も見たいですし、変な感情かもしれませんが戦ってみたいという思いがあります」

「別に変な感情ではないと思うぞ。二人とも確実に力はついているし、自分の腕を試したいというのはごく普通の感情だ」

「そう……なんですかね? 少し前の私なら信じられない感情でしたので。ついて行ってもいいというのでしたら、私も連れて行ってほしいです!」

「分かった。ドラゴンゾンビの討伐依頼を受けて、三人でクリンガルクの街に行こう」


 話し合いの末、三人で向かうこととなった。

 まずは何のドラゴンかを調べることが最優先だが、できるだけ二人に倒させてあげたいところ。


「乗り気じゃなかったけど、三人の遠征って考えたらめちゃくちゃ楽しみになってきた!」

「アオイは本当に感情重視だな」

「だって、意外に久しぶりな感じするし!」

「グレアムさんは一人で遠征に行ってますけど、最近は連れて行ってもらえませんでしたからね」

「行った先で何の成果もなしってのもザラだからな。わざわざ移動に時間をかけるのもアホらしいんだ。二人が移動速度を上げられるなら、喜んで連れて行くんだがな」


 俺一人で行くのに関しては、しょうがない部分が大きい。

 何かしら良い移動手段があるのであれば、購入を検討をしてもいいかもしれないな。


「そんなこと言われたら、頑張って足速くなるしかないじゃん!」

「まずは強くなってからにしてくれ」

「ちなみですが、今回はゆっくり向かうんですか?」

「ああ。クリンガルクの街は結構離れているみたいだからな。王都に行ったように、いくつかの街を経由して馬車で向かうつもりだ」

「馬車の旅はいいね! 経由する街でのご飯も楽しいんだよねー!」


 そこからは何を食べるかに話が変わり、飲み会は夜更けまで続いた。

 アオイに散々言ったものの、俺も三人での旅は非常に楽しみ。

 ただ決して気は抜かず、遠征日までしっかりと準備を進めるとしよう。



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ここまでお読み頂きありがとうございます。

本作の書籍版が12月25日に発売予定となっております!

レーベルはMFブックスで、イラストは桧野ひなこ先生に描いて頂いております。

加筆も加わっており、web版を読んでくださっている方でも面白く読めると思いますので、是非お手に取って頂けたら幸いです!

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