第146話 病


 グアンザが差し出してきた箱を手に取り、中身だけを確認させてもらう。

 中に入っていたのは大量の宝石と希少な鉱石。


 ルビーやサファイア、ダイヤモンドといった俺でも知っているメジャーな宝石から、ミスリルやアダマンタイト、ヒヒイロカネといった伝説と称されるほどの珍しく希少な鉱石が敷き詰められている。

 宝石はさほど興味ないのだが、アダマンタイトやヒヒイロカネといった希少な鉱石は正直欲しい。


 ただ、見るだけと決めていたため、物欲を抑えて他のものにも目を向けて見ると……宝石や鉱石に紛れて、一つ気になるものがあった。

 少し錆びた金のペンダントのようなもので、これだけが他と比べて完全に異質。


「グアンザ。このペンダントはなんなんだ? 誰かの形見とかか?」

「いえ、そのペンダントは魔道具になります。魔物が近くにいると光るという代物でして、ダンジョンでは非常に役立つ逸品となっています」

「探知の魔道具か。グレアムさん、その魔道具は魔道具の中でも需要が高いから、高値で取引されている代物だぞ。宝箱に擬態した魔物や、宝箱の中に隠れている魔物なんかも探知できるからな」

「宝箱に擬態? よく分からないが、価値のあるものなんだな」


 魔道具というものには惹かれたが、探知の能力にはあまり惹かれない。

 ダンジョンには詳しくなく、ギルド長の言っていることが理解できなかったというのもあるが。


 ――と、差し出してきた箱に入っていたのはこんなものか。

 元ギルド長なだけあって、ちゃんとしたお宝が入っていたが……反省しているようだし返してあげよう。


「とりあえずこの箱は返す。これがなくなったら職無しの一文無しになるんだろ? それで逆恨みとかされたら嫌だからな」

「逆恨みなんて滅相もないです! この命を救ってもらっただけでも儲けものですから! どうぞ貰ってください!」

「いや、持って帰っていい。どうしても不必要というなら、その箱のものを使って善行でもしてくれ。俺に対しての恩は困っている誰かに返してあげてほしい」

「グレアムさんは本当に心の広い方ですね。――くそっ、俺はこんな人にあんな感情を抱いていたなんて……」


 グアンザは正座をしたまま、何故かポロポロと泣き始めてしまった。

 以前のような素の姿で泣いているし、まだ情緒が不安定なところがあるのかもしれない。


「そういうことだから、箱は持ち帰ってくれ」

「……分かりました! 私はこれで困っている人の役に立つことをします!」

「ああ。大変だと思うけど頑張れよ」


 これでグアンザとの一件も完全に片付いたと言えるだろう。

 最初から因縁続きだったが、あのグアンザが改心したのなら結果オーライなはず。


「丸く収まって良かった。グレアムさん、寛大な対応をしてくれてありがとう」

「いや、ギルド長の方がグアンザに対して鬱憤が溜まっていただろうし、寛大な対応をしたのはお互い様だろう。ということで、話が終わったならもう帰らせてもらうが大丈夫か?」


 部屋の外でジーニアとアオイが待っているだろうし、戻って依頼の吟味を行いたい。

 そんな考えから、俺はもう出て行く気満々だったのだが……。


「すまないが、ついでにもう一つだけ話してもいいか? そのグアンザから今さっき聞いた話なんだが……どうやらグアンザがギルド長を務めていた、クリンガルクの街で大きな問題が起こって――」

「いや、ドウェインさん。その話はしなくていい! やはり俺が解決すると、今さっき決めた」


 依頼に行こうと思っていたのだが、こんな話の切られ方をして最後まで聞かずにいるなんてのは無理。

 待たせている二人には申し訳ないが、話を聞かせてもらおう。


「そこで話を止められてもモヤモヤする。ギルド長、続きを話してくれ」

「分かった。クリンガルクの街で大きな問題が起こっているみたいなんだ。その大きな問題というのが……原因不明の病の蔓延。まだ死者こそは出ていないみたいだが、感染者が増え続けているらしい」


 未知の病の蔓延?

 確かに大きな問題ではあるが、俺にどうにかできる話ではない気がしてしまう。


「それは大変そうだが、俺は医療に精通している訳でもないからどうにもできないと思うぞ? それとも……何かできることがあるのか?」

「実は、その病の原因は魔物によるものじゃないかっていうのがグアンザの考えらしい。半年ほど前に、クリンガルクの街の近くにある山でドラゴンが現れたみたいなんだ。そして、そのドラゴン自体は王都から派遣されてきたSランク冒険者と、グレアムさんも王都で戦った【紅の薔薇】の共同パーティーで討伐したようだが……死体自体は谷底に落ちてしまったせいで回収できず終いだったらしい」

「その死体から悪い何かが発生していて、街で病が流行している――と考えているってことか?」

「はい、そうです。俺はドラゴンゾンビに変化しているのではと睨んでいて、すぐに調査を出そうとしたんですが……」

「既にグアンザはギルド長の座をはく奪。後任のギルド長はグアンザをよく思っていなかったこともあり、グアンザの助言に対して一切聞く耳を持ってくれないらしい。それに、原因がドラゴンゾンビと分かっても、討伐自体できるかどうか怪しいというのもあるそうだ」


 本当に大変そうな事案だな。

 新しいギルド長がグアンザのことをよく思っていないというのは、完全にグアンザのせいだし同情の余地はない。


 いくら心を入れ変えようが、過去にやった行いは消えないからな。

 ただ、そのせいで病が蔓延してしまうのは見過ごせない。

 正直、腰は重いが……俺にできることがあるなら動くとしよう。




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ここまでお読み頂きありがとうございます。

本作の書籍版が12月25日に発売予定となっております!

レーベルはMFブックスで、イラストは桧野ひなこ先生に描いて頂いております。

加筆も加わっており、web版を読んでくださっている方でも面白く読めると思いますので、是非お手に取って頂けたら幸いです!

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