第145話 煽り


 初めての指導から約二週間が経過した。

 この間は予定通り、週四で依頼をこなしながら、週二で遠方の魔物討伐。

 そして、残る一日を指導に当てる日々を過ごしていた。


 俺だけは休みなく働いているような状態だが、週一での指導の日は安らぎの時間でもあるし、非常に充実した日々を送ることができている。

 後は遠方の魔物を討伐しに行った際に、グリーとアンのような子がいないかも見てはいるが、今のところはまだ出会うことができていない。


 ゼロならゼロが理想的ではあるが、リア達の仕事がない状態だからな。

 困っている子供達がいれば、積極的に受け入れたいと考えてはいる。


 そんなことを考えつつ、今日も依頼を受けるために冒険者ギルドへとやってきた。

 ジーニアやアオイの実力が上がっている中、この付近の魔物に歯ごたえがないことに最近はかなり頭を捻らせている。


 そろそろ強い魔物と戦わせてあげたい――そんな思いから、何か緊急依頼でも入ってきていないかを願って冒険者ギルドに入ったのだが……。

 俺達が中に入った瞬間、ギルド職員が駆け寄ってきた。


「グレアムさん! お待ちしておりました! ギルド長がお呼びです!」

「何か緊急の用なのか?」

「はい! 他の街のギルド長が訪ねてきてまして、グレアムさんに会いたいとのことです!」

「なるほど。すぐにギルド長室に行かせてもらう」

「グレアムはギルド長からモテモテだねぇ!」

「おっさんにモテても何も嬉しくないけどな」


 軽口を叩きながら、言われた通りギルド長室に向かう。

 それにしても、俺に会いに来たギルド長か。


 候補は複数いるが、一番考えられるのはライトミラのギルド長。

 次点でサリースだろうか。

 頭の中で誰かを考えながら、俺はギルド長室に入ったのだが……中にいたのは予想外の人物だった。


「グレアムさん、やっと来てくれたか。……グアンザが謝罪をするために遥々訪ねてきたんだ」


 ギルド長の横で座っていたのは、忘れもしないグアンザ本人。

 ふくよかだった体型はかなり痩せ、髪の毛も丸刈りになっているのもあって、見違えるくらいやつれているが……間違いなくグアンザだ。


「……グレアムさん。王都では本当に申し訳ございませんでした。失礼な態度まで取った私の命まで助けて頂き、本当に感謝と謝罪の気持ちしかありません」


 座っていたところから流れるように土下座へと移行し、人が変わったような謝罪をしてきたグアンザ。

 グアンザと確信していたのだが、その態度に影武者を疑いたくなるほどの変貌っぷり。


「いやまぁ、反省しているなら責めるつもりはない。その都度、しっかりと分からせたつもりではあったし」

「本当にありがとうございます。そして、本当に申し訳ございませんでした」

「私は許してないけどね! べぇーっだ!」


 死体蹴りをするかの如く、土下座をしているグアンザにあっかんべーをしながらコケにし出したアオイ。

 気持ちは分からないでもないが、流石に可哀想なので止めさせる。


「俺もムカついていたが、今では冒険者ギルドからも追い出されて何もないおじさんだ。謝罪にも来てくれたし、水に流してあげてくれ」

「自業自得でしょ! べぇー!」

「アオイ、そこまで。ジーニア頼む」


 今度は変顔をしながら煽っているアオイを、ジーニアに頼んで外に連れ出してもらう。

 ギルド長室から出るギリギリまで変顔をしていたアオイに苦笑いしつつ、改めてグアンザの話を聞くことにした。


「それで……どういった経緯で悪魔に体を乗っ取られたんだ? 何かの策略だったのか?」

「かなり酔っていたのと、体を乗っ取られたことで記憶がはっきりとしないのですが……。酒場でお酒を飲んでいた時にグレアムさんへの復讐を持ちかけられて、酔っていた勢いのまま応じてしまったのが原因だと思います」


 ……………………。

 うん、これは擁護のしようもないな。


 アオイの言っていた通り、全てグアンザの自業自得だ。

 俺も舌を出して煽ってやりたい気持ちが芽生えたが、流石に大人のため自重する。


「今になって考えれば馬鹿だったと分かるのですが、あの時はプライドを傷つけられ、グレアムさん憎しで動いてしまいました。言い訳にもなりませんが……悪魔と結託し、魔王軍を率いて襲ってやろうとはとは思っていなかったことだけは分かってください」

「…………まぁ流石に魔王軍と結託しようとは思っていなかったとは信じたい。酒に飲まれていた隙を狙われ、操られたってことなんだろう」


 当時のグアンザを思い返せば、素面でも乗っかっていただろうなとは思うが……。

 まぁそこは触れないであげよう。


「本当にすみませんでした! お詫びといってはつまらないものですが、私の全財産を持ってきましたので受け取ってください!」


 土下座をしながら、俺の方に装飾された大きい箱のようなものを差し出してきたグアンザ。

 職を失ったグアンザを一文無しにさせるのは気が引けるが、何が入っているかは非常に気になる。

 貰うかどうかは別として、中身だけ見させてもらうとしようか。




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ここまでお読み頂きありがとうございます。

本作の書籍版が12月25日に発売予定となっております!

レーベルはMFブックスで、イラストは桧野ひなこ先生に描いて頂いております。

加筆も加わっており、web版を読んでくださっている方でも面白く読めると思いますので、是非お手に取って頂けたら幸いです!

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