第141話 感謝の気持ち
ギルド長室に入ると、いつもの大量の書類の他に大きな麻袋が入口付近に四つ置かれていた。
俺はその麻袋を避けながら、ギルド長の元に向かう。
「グレアムさん、もう来てくれたんだな。早速だがライトミラのギルド長からお礼が届いているぞ」
「ああ。いくらくらいになったのか気になって、報告を聞いてすぐに駆けつけてきた。……で、素材はいくらになったんだ?」
「俺は中身を確認していないぞ。これが渡された報酬だ」
ギルド長は机の下から、麻袋を取り出すと机の上に置いた。
金属が重なる音が部屋に響き、その重そうな音から結構なお金が入っていると予測できる。
「ありがとう。早速中身を確認していいか?」
「そりゃもちろん。それと、足らないようなら言ってくれとのことだ」
「流石に追加で求めるようなことはしないと思うが……」
俺はそう言いながら、麻袋の中身を確認する。
中に入っていたのは全て金貨。
それも確実に100枚は入っているであろう数。
倒したのはクルーウハミリオン一体だけなのだが……こんなに貰ってもいいのだろうか。
「大量の金貨が入っているが、間違った額とかではないのか?」
「俺はよく知らないが、間違っていないと思うぞ。なんでも、今回グレアムさんが討伐した魔物は、ライトミラを一年以上苦しめていた魔物って聞いたからな。希少な素材も全て渡されたって言っていたし、金貨が大量に入っていてもおかしくないと思う」
「そういうものなのか? 俺としてはありがたい限りだが」
「それと、入口にある大きい麻袋も全てグレアムさんへの報酬だぞ」
「この麻袋もそうなのか? ……これには一体何が入っているんだ?」
「さあな。報酬金同様に、中身は一切見ていないから、その麻袋に何が入っているか全く分からない」
かなりの大きさだし、この四つの麻袋に何が入っているのか見当もつかない。
片腕しかない俺には、一気に二つまでしか運べないし、中身次第では冒険者ギルドに寄付しようか。
そんなことを考えつつ、俺はこの場で麻袋の中身を確認することにした。
一番近くにあった麻袋の中に入っていたのは――恐らく鉱石類。
鉄鉱石や銅鉱石といった鉱石類が大量に入っている。
使いどころはありそうだけど……ゴロゴロとしているせいで非常に運びにくい。
他も鉱石類なのだとしたら、一袋以外は寄付していいだろう。
そんなことを考えながら二つ目の袋を開けると、中は鉱石類――ではなく大量の衣類だった。
価値の高そうなものには見えないため、一体どういう意図で持ってきたのか分からない。
……ただ、衣類系はありがたいな。
グリーやアンもそうだし、リア、トリシア、モード達の服がほとんどない。
買い与えようと思っていたところだったし、今後のことを考えてもこの新品の衣類は重宝する。
ちなみに三袋目も衣類で、最後の袋の中身は戦闘で使えそうなアイテム類。
ただし、魔道具といった高価なものではなく、煙玉や閃光玉、それからトラップとして使える粘着草といった、簡易的な戦闘アイテムのみ。
底には薬草が敷き詰められていたし、何もない中かき集めてきた感が凄まじい。
気持ちは本当に嬉しいが……この四つ目の袋だけは冒険者ギルドに寄付していいだろ。
冒険者なら欲しいという人がたくさんいるだろうしな。
「グレアムさん、中身は何だったんだ?」
「鉱石類と衣類と戦闘アイテムだった」
「……ん? なんだそりゃ」
「統一性もないからよく分からないが、感謝の気持ちということだと思う。戦闘アイテムはここに置いていくから、ルーキー冒険者にでもあげてほしい」
「無償でってことか? 普通に売れると思うがいいのか?」
「ああ。お金なら報償金でたくさん貰ったからな」
この四つの大きな麻袋を持ってくるのは大変だったろうし、そもそも報酬金で大満足のため戦闘用アイテムは無償で譲り渡していい。
しっかり好意は受け取らせて貰い、衣類や鉱石類は大事に使わせてもらうとしよう。
「そういうことなら、遠慮なく受け取らせてもらう。グレアムさん、ありがとう」
「いや、俺も貰っただけのものだから礼なんかいらないぞ。ギルド長の方で、アドウェールにお礼を伝えてくれ」
「いやいや。グレアムさんが報酬として貰ったものだから、感謝されて然るべき――」
「分かった、分かった。とりあえず報酬金はいつものように預かってほしい。それと麻袋は一気に持って帰れないから、また後で受け取りにくる」
「了解した。取りに来るまではしっかりと管理させてもらう」
俺はとりあえず麻袋から金貨を五枚だけ取ってから、残りをギルド長に全て預けた。
そして鉄鉱石の入った袋を持ち、俺は冒険者ギルドを後にしたのだった。
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ここまでお読み頂きありがとうございます。
本作の書籍版が12月25日に発売予定となっております!
レーベルはMFブックスで、イラストは桧野ひなこ先生に描いて頂いております。
加筆も加わっており、web版を読んでくださっている方でも面白く読めると思いますので、是非お手に取って頂けたら幸いです!
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