第140話 移住


 グレイテスト家の旧宅に移り住んでから、あっという間に三日が経過した。

 この間はとにかく忙しく、リア、トリシア、モード。

 それからグリーとアンにやってもらうことを一から十まで教えつつ、日中はジーニア、アオイと共に依頼をこなす日々。


 大変ではあるけど、非常に充実した毎日を過ごせている。

 一つ厄介なことは、グリーが家の手伝いではなく、俺と一緒に戦いたいと言っていること。


 俺が見守っていれば簡単な依頼には連れていけるだろうが……簡単な依頼では報酬が少なくなってしまうからな。

 こちらも一から十まで説明し、なぜ連れていけないかをしっかりと伝えたところ、折れてはくれたが、冒険者になること自体は諦めていない様子。


 グリーに感化され、アンとリアの二人も戦いたいと言ってくる始末だし、ジーニアとアオイは相変わらず修行をつけてくれとうるさい。

 今は週休二日で、俺はこの二日間で遠出して依頼料の高い魔物を狩るつもりだったが、週休三日にして、一日はみんなと過ごす日にしてもいいかもしれない。


 これで孤児院が上手く回るのか分からないが、ギルド長によれば大した額ではないのだが国から補助金が貰えるのと、冒険者ギルド内にて募金も募ってくれるらしい。

 ただ、冒険者相手だから募金額には期待しないでくれとのことだったので、やはり俺が頑張るしかない。


 いずれはこの孤児院を巣立った子達に支えてほしいと思っているが、今は俺一人の力で成り立たせる他ないからな。

 腕を組み、どうするのが正解なのか悩んでいると、ジーニアとアオイが家に遊びに来た。


「おーす! あれ、グレアム。悩んでるみたいだけどどうしたの?」

「これからの動きをどうするか悩んでいて――って、何だその大きな荷物は」

「ん? いや、今日から私もここで寝泊まりしようかなって! 私だけ宿じゃん? 寂しいから一緒の家がいいと思ってここで暮らすことにした!」

「私は止めたのですが、アオイちゃんが引かなくて……。グレアムさん、すみません」

「いや、別に謝ることじゃない。まぁ別に今さら一人増えたところで変わらないしな」

「えっ! じゃあここで暮らしていいんだ! やったー! 言ってみるもんだね!」


 アオイは大きな荷物を持ったまま、嬉しそうに小躍りし始めた。

 まぁ、元々ジーニアとアオイもここで住めれば――とは考えていたし、ここに移り住むことに何も問題ない。


「え、えぇ! そんなに簡単に許していいんですか!?」

「今は部屋が山ほど余っているからな。……ただ、ここで暮らすからには色々と手伝ってもらうぞ」

「もっちろん! 酒場に泊まる時はいつもお手伝いでしてたし、軽い雑用なら喜んでやるよ!」

「なら、構わない」

「ええー! なら、私もここで暮らします!」

「そんな簡単に決めていいのか? 酒場の店主のカイラに相談した方がいいだろ」

「大丈夫です! 酒場でのバイトは続けますし、カイラさんからは早く宿を見つけろと催促されていましたので! グレアムさん、私もここで暮らしていいですよね!?」


 グイッと前のめりになり、そう問い詰めてきたジーニア。

 もちろん構わないが……こんなに積極的な性格だったかを考え込んでしまう。

 アオイと長く一緒にいたせいで、性格が似てきた説はかなり高い。


「こっちは大丈夫だが、本当にいいのか?」

「もちろんです! なら、後で荷物を運んで来ちゃいます!」

「分かった。そういうことなら、三階の屋根裏部屋を使ってくれ。若干埃っぽいけど、窓もついているし少し換気と掃除をすれば快適に過ごせるはずだ」

「屋根裏部屋! あの広い部屋を使っていいんだ!」

「ああ。その代わり、家賃として毎月金貨二枚をこの孤児院に寄付してくれ」

「もちろん寄付させていただきます! 月で金貨二枚ということは、一泊銅貨七枚くらいですからね。安いぐらいです!」

「それに孤児院に寄付って言うのも良いね! 宿泊費を支払ってるだけなのに、気分的に良いことした感じになるもん!」

「実際にこの孤児院のために使うし、良いことをすることになるぞ」

「私達は何もしていないんですけどね」


 拒否されたら困ったのだが、二人とも快諾してくれて助かった。

 とりあえず、この家では八人で暮らすことになるのか。


 これでもまだまだ部屋が余っているし、更に離れまであるのだから、グレイテスト家の旧宅がどれだけ大きい家なのかが分かる。

 ジーニアはともかく、アオイが住むことになったら更に騒がしくなりそうだな。

 楽しみではありつつも、大変さが増さないかと心配になってくる。


「そうそう! グレアムとこの家を安く買ったギルド長のお陰……って、あっ! ここに泊まることで頭がいっぱいになって忘れてたけど、さっきギルド長が酒場に来た! ライトミラのギルド長からお金を預かったとか何とか言ってたよ!」

「言ってたよ――じゃなくて、それは先に伝えてくれ。俺は今すぐギルド長のところに行ってくるから、二人は勝手に引っ越しの準備をしてくれ」

「分かりました。荷物を持ってきて、部屋を使わせてもらいます!」

「私はこのまま屋根裏に行って掃除する!」


 二人のそんな返事を聞きながら、家を出て冒険者ギルドへと向かうことにした。

 ライトミラのギルド長からのお金というのは、きっとクルーウハミリオンの素材代だろう。


 どれくらいの値段になっているのか、全く分からないため楽しみだ。

 俺は胸を高鳴らせながら、早足で冒険者ギルドに向かったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る