第138話 興奮


 家に向かう道中でご飯と飲み物を買ってから、グレイテスト家の旧宅へとやってきた。

 やはり何度見ても圧巻の大きさだし、俺もまだ慣れる気がしない。


「ここが今日から暮らしてもらう家だ」

「…………へ? こ、ここで俺達が暮らすのか!?」

「ああ。俺も一緒にだがな」

「す、凄い! 大きくて広いよ! 私、こんな大きな家、見たこともなかった!」

「ほ、本当にいいのか? 俺達、騙されている訳じゃないよな?」

「騙すって何をどう騙すんだ。とりあえず中に入ろう」

「入る入る! やったー!」

「いきなり家がテントから豪邸って……頭が追いつかない」


 困惑しているグリーと、素直に喜んでいるアン。

 どちらの反応も新鮮で、見ているだけで楽しい。


 俺は二人の反応にニヤニヤしつつ、鍵を開けて家の中へと入る。

 まぁニヤニヤとしたものの、俺自身もまだ数回しか訪れていないため、分からないことの方が多い。

 とりあえずリビングまで案内して、部屋決めの前に買ってきたご飯を食べるとしよう。


「うっわ! 本当に広すぎだろ!」

「お兄ちゃん見て! お庭がついてるよ!」

「本当だ。庭も広すぎるって!」

「庭も自由に使っていいぞ。その前にご飯を食べよう」


 興奮気味の二人を席に着かせて、俺はテーブルの上に買ってきたご飯を並べる。

 そして食前の挨拶を済ませてから、買ってきたご飯を食べていく。


「美味しい! 大きなお家で美味しいご飯! ほんとに夢みたい!」

「本当に……夢かと思っちゃうな」

「夢なんかじゃないから早く食べろ。冷めちゃうぞ。それと、食べた後は部屋を決めるからな」

「部屋決め!? 楽しみー!!」

「あの……俺達ってどんな仕事をさせられるんだ? こんな家に住むんだから、絶対に普通の仕事ではないよな?」


 疑心暗鬼となっている様子のグリー。

 あの環境で生活していた訳だし、疑り深くなってしまうのは仕方がないが、そろそろ俺のことは信用してほしいところ。


「仕事も普通の内容だ。この家の掃除とかをやってもらうのと、身寄りのない子供達を受け入れる予定だから、俺と一緒にサポートしてあげてほしい」

「それだけ……なのか? 受け入れた子供達を売り払う手伝いとかをさせ――」

「そんなことするわけないだろ。馬鹿なことを考えていないでご飯を食べろ」


 箸の止めて馬鹿なことを言っているグリーに飯を食わせ、全て食べ終えたところで家の中を探索して二人の部屋を決めた。

 今は誰も住んでおらず、部屋もいっぱいあるため自由に使わせてあげたいところだが、これから人が増えるにつれて必要な部屋の数も増えてくるからな。


 近々でいえば、リア、トリシア、モードの三人の部屋も用意しないといけないし、グリーとアンには悪いが同じ部屋を使ってもらうとしよう。

 そんな考えを元に、どの部屋がいいか見て回った結果、二人の部屋は二階の一番奥に決まった。


 部屋の大きさはそこそこで、二人で暮らすにしても少し大きいと感じる部屋。

 二人は同じ部屋で暮らすということに不満がなさそうだし、とりあえずここの部屋で決定だな。


「この部屋を自由に使ってくれ。どう使ってもいいからな」

「こんな広い部屋を自由に? 本当にいいのか?」

「もちろん。二人が同じ部屋なのはすまないな」

「別に大丈夫! 私達、この部屋より狭いテントで、二人で暮らしていたし! グレアムさん、本当にありがとう!! ……ございます!」

「お礼なんかいらないぞ。きっちり働いてもらうからな」


 流石にグリーもアンも嬉しそうだな。

 布団だけはまだ用意できていないのだが、タオルはいっぱいあったし、それを敷けば布団代わりになるだろう。

 

「今日は二人とも疲れているだろうし、仕事は明日からやってもらう。今日はもう休んでいいぞ」

「ああ。きっちりと働かせてもらう。グレアム、何でも言ってくれ」

「私も何でもやります!」

「そんな気張らず、慣れることを第一に考えていい。あと……風呂も自由に使っていいからな。夜、また飯を持って戻ってくるから、家からは出ないようにしてくれ」

「分かった。グレアム、本当にありがとう」

「ゆっくりさせてもらいます! ……お庭には行っても大丈夫ですか?」

「ああ。庭は敷地内だからな」

「わーい! お兄ちゃん、お風呂入る前に少し遊ぼう!」

「アン、恥ずかしいからはしゃぎすぎるなって!」


 そう言っているグリーの表情も笑顔を隠せておらず、初めて年相応の楽しそうな表情が見られた気がする。

 俺はそんな二人の楽しそうな表情を尻目に部屋を後にした。


 本当は俺も一緒にゆっくりしたいところだが、これからリア達のところに行かないといけない。

 心配させてしまっているだろうし、三人も早くこの家に住まわせてあげたいからな。


 

 そして、宿屋に戻って三人に顔を見せた後は、ジーニアとアオイと再び話し合い。

 これが一番腰が重いが……事情を説明すればきっと分かってくれるだろう。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は家を後にしてリア達のいる宿屋へと向かったのだった。


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