第137話 謝罪


 酒場に入ると、準備を整えていたジーニアとアオイの姿があった。

 雰囲気的にどこかへ出発するという感じのため、あと少し遅れていたら本当に俺を探しに行っていたかもしれなかった。


「あーっ! グレアムだ! 何の連絡もしないでどこに行ってたのさ!! ずっと心配してたんだから!」

「はぁー、良かったぁ。元気そうで本当に良かったです! アオイちゃんも言ってましたが、本当に心配したんですよ!?」


 珍しくジーニアも声を荒げており、本当に心配させてしまっていたのだと痛感する。

 飛ばせば距離もそう遠くはない訳だし、一度戻って報告するべきだったかもな。


「心配かけてすまなかった。色々と予想外のことが起きて……少し戻るのが遅くなってしまったんだ」

「そうだとしても、一言は連絡するべきです! 私達はグレアムさんの居場所が分かりませんが、グレアムさんは私達の居場所を知っている訳ですから!」

「そうそう! リア達のメンタルが心配とか言ってた癖に、グレアムが心配かけてどうするのさ!」

「確かに……返す言葉もない。本当にすまなかった」


 言い訳の余地もなく、今回の件は俺が悪い。

 ジーニアとアオイに詰められ、俺はひたすらに謝っていると……後ろでその様子を見ていたグリーが何故か吹き出した。


 吹き出したことで、俺以外にも誰かいることにようやく気がついた二人。

 首を傾げながら、グリーとアンについて尋ねてきた。


「グレアムさん、後ろにいる二人の子供は誰ですか?」

「俺が行った街で出会ったんだ。両親がいなくて路頭に迷っていて、仕事もなさそうだったから働いてもらうために連れてきた」

「いやいや、そんな説明じゃ全然分からないから! ねね、名前は何ていうの?」

「アン……です」

「俺はグリー」

「へー、アンとグリーね! 私はアオイで……」

「私はジーニアです。グレアムさんと一緒の冒険者パーティです」


 すぐに自己紹介をした四人。

 グリーは吹き出したものの、今は壁を作る感じでツンケンした態度を取っているが、アオイもジーニアも気にする様子なく接してくれている。


「グレアム。この二人絡みでビオダスダールに戻ってくるのが遅れたの?」

「そう……です。グレアムさんが私とグリーの両親の仇を取ってくれたんです。だから、あまり怒らないであげて……ください」

「仇……。何か深い事情ありそうだし、これ以上グレアムを責められないじゃん!」

「そうですね。良いことをしてきたということであれば、連絡しなかったことを許してあげます」

「それはありがたい。とにかく詳しく話すと長くなるから、また後でゆっくりと説明する」


 アンが庇ってくれたお蔭で、何とか二人から一時的に許してもらえた。

 

「分かった! 何があったかは後で聞く! それとは別で、一つ気になったんだけどさ……何でグレアムに仇を討ってもらったのに、グリーはグレアムが責められていて吹き出したの?」

「……酷い移動をしたから。そんなグレアムが情けなく謝っていたから笑っちゃった」

「えー! あの荒すぎる移動を二人にもしたの!? グレアムから何か言われた!?」

「う、うん。情けないって」

「グレアムさん、それは酷いですよ! あの速度は具合が悪くなったとしても情けなくありません!」


 またしても風向きが変わり、俺が責められる流れになった。

 せっかく解放されかけていたのに、グリーが余計なことを……。


「早く帰るために仕方がなかったんだ。二人もさっきは怒っていただろ。それに速度は落とした……つもりだ」

「それはそれ、これはこれ! グレアムの『つもり』は信用できないから!」

「そうですよ。グレアムさんのことは信頼していますが、加減が上手だとは思えません。なので、私は全面的にグリー君を支持します!」

「これは……駄目だ。アンもグリーも逃げるぞ」

「えっ?」


 俺は二人を連れて、酒場から逃げ出すことにした。

 二対一の状況は不利すぎるし、これ以上は俺の精神的によくない。


「グレアム、待て! 逃げるな!」

「まだ話は終わっていないですよ!」

「グリーとアンは長旅で疲れているからな。休ませないといけない」


 そんな言い訳を残し、俺は酒場を後にした。

 色々と言われてしまったが、とりあえず出立前に顔を見せられたし良かっただろう。

 後は少し時間を置いてから、お土産で機嫌を直してもらう予定。


「面白い二人だね。グレアムがあんなにペコペコするとは思ってなかった」

「いつもは対等な関係だぞ。というか、グリーのせいでまた怒られただろ」

「だって、情けないって言われたのは本当だし」

「まぁこれからあの二人とは頻繁に会うことになるだろうから、グリーもアンも仲良くしてあげてくれ」

「うん。仲良くできると思います」

「俺も」


 心の壁がある二人だけど、ジーニアとアオイは上手いこと取っ払ったようだ。

 これなら問題ないだろうし、また改めて顔を合わせてもらうとしよう。

 俺はそんなことを考えながら、グリーとアンがこれから暮らすグレイテストの旧宅に向かって歩を進めたのだった。

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