第136話 到着


 グリーとアンを背負って走ること約五時間。

 途中途中で休憩を入れたため予想よりも遅くなってしまったが、無事にビオダスダールの街が見えてきた。


「グリー、アン。ビオダスダールが見えてきたぞ」

「……うえっ。……やっと着いたのか。本当に……おえっ、死ぬかと思った」

「グリーは本当に大袈裟だな。アンは平気そうだぞ」

「最初は怖かったけど、慣れたら楽しかったかも。グレアムさんはあのクルーウハミリオンを一日で倒しちゃったし、落ちるって心配はなかったからさ」

「ほらな。お兄ちゃんなのに情けないぞ」

「アンがおかしいだけで……俺は普通だ!」


 顔は青ざめているが、元気はあるようだし大丈夫だろう。

 二人を下ろし、そのままの足で街の中を目指す。


 グリーとアンが街の中に入れるかが唯一不安なところだったが、二人が幼いということもあって特に探られることなく入ることができた。

 まぁ最悪の場合、ギルド長に何とかしてもらうつもりだったし、どっちみち中に入ることはできたはず。


 というわけで、まずはギルド長のところに行こう。

 二人を住まわせることも伝えないといけないし、手続きが必要な場合は何とかしてくれるだろうからな。


「へー、この街も随分と大きいな。ライトミラよりも大きい気がする」

「多分だが大きいと思うぞ。一応ではあるが、ビオダスダールは王国で五本の指に入る街みたいだしな」

「そんなに栄えているんだ! それで……私達はそんな大きな街のどこで働くんですか?」

「うーん……。まだ働く場所がないから説明しづらいな。俺がやろうとしていることの……手伝い的なものをして貰うつもりだ」

「グレアムさんがやろうとしていること……?」

「なんだそれ。何か全く分からない」

「まぁとにかく悪いような仕事じゃないから安心してくれ」


 ないようを簡単に説明するのであれば、二人のような子供たちを受け入れること――なのだが、それはこの二人の前では口にできないからな。

 詳しい説明は省かせてもらう。


 キョロキョロと街の中を見渡している二人を連れて、冒険者ギルドにたどり着いた。

 そのままギルド職員に話を通してもらい、ギルド長室へと向かう。


 ギルド長室の中は相変わらずぐちゃぐちゃであり、そんな大量の書類に囲まれて仕事をしているギルド長の姿があった。

 留守じゃなくてひとまず安心。


「おお! グレアムさん、戻ってきたのか!」

「ああ。色々あって遅くなってしまった」

「無事なら何より。ジーニアとアオイが何回も俺のところに訪ねて来たから、二人のところに行っていないなら早く行ってあげた方がいいぞ。そろそろ探しに行ってしまいそうな感じがあったからな」


 やはり二人には心配をかけてしまっていたか。

 楽観していたが、先にジーニアとアオイの下に行くべきだったかもしれない。


「そうなのか。押し掛けさせてすまない」

「別に気にしなくていい。それより……戻ってくるのが遅くなったのは、グレアムさんの後ろにいる二人が関わっているのか?」


 グリーとアンは俺の背中に隠れるようにしており、見つかってもまだ隠れたまま。

 ギルド長は意外に圧が強いし、警戒しているのかもしれない。


「ああ。教えてもらったライトミラの街で出会った。二人も働かせようと思ってな」

「……なるほど。良い案だと思う。俺はこの街の冒険者ギルドのギルド長を務めているドウェインだ。よろしくな」


 ギルド長は何かを言い掛けたが、すぐに事情を察してくれた。

 色々と変な部分は多いが、ギルドの長なだけあって察しが良くて助かる。


「――ほら。二人も挨拶するんだ」

「え、えーと……アンです。よろしくお願いします」

「……俺はグリー。よろしく……お願いします」

「アンとグリーだな。俺はギルド長のドウェインだ。よろしくな」

「というわけだから、何か手続きが必要ならお願いしたいと思っている」

「いや、今は特に必要ないと思うぞ。後々、何か必要になったときは任せてくれ」

「そうなのか? なら、必要になった時はよろしく頼む」


 よし。ギルド長への顔合わせも済ませたし、来たばかりだがもう出るとしよう。

 クルーウハミリオンのことや、ライトミラのギルド長のことも報告したいが、今はジーニアとアオイに会うことを優先するべき。

 今こうしている間にも、すれ違いで俺を探しに行ってしまうかもしれないからな。


「それじゃギルド長、ジーニアのところに行かないといけないから、早いが失礼させてもらう」

「ああ。また時間があるときに話を聞かせてほしい」

「ああ、分かった」

 

 軽い挨拶をしてからギルド長室を後にした。

 グリーとアンも、ギルド長に小さく頭を下げてから外に出た。


「グレアム、もう行くの?」

「ああ。先に顔を会わせたい人達がいるからな」

「次に会うのはさっきの人みたいな……怖い人じゃない?」

「さっきの人も怖い人じゃないぞ。どちらかといえば優しい人だ。少し変わってはいるけどな」

「へー。グレアムもそうだけど、人は見かけによらないんだな」

「グリーはちょいちょい失礼だな。……まぁいい、これから会う人達は見た目も怖くない。女の人だからな」

「女の人なのかぁ……。優しい人だったら嬉しいな」


 ジーニアは優しいと断言できるが、アオイは少し心配だな。

 でも、あの性格なら二人ともすぐに仲良くなれそうだし、グリーもアンも気に入ってくれるだろう。


 それよりも……俺が怒られないかが非常に心配。

 二人を連れていかなかった上に、連絡なしで戻るのが遅れている状態だからな。

 一瞬、足取りが重くなったが、うだうだしていても仕方がないため、俺は酒場を目指して歩を進めたのだった。


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