第135話 待機組


 グレアムさんが一人で魔物狩りに出掛けてしまった後、私はアオイちゃんと共にリアちゃん、モードさん、トリシアさんの三人を連れて、グレイテスト家の旧宅にやってきた。


「うわー、凄く広い家! グレアムはこんな大きな家を買ったんだ!」

「本当に凄いですね。中に入るのも緊張します」

「この家はグレアム様のなの?」


 私とアオイちゃんが感嘆の声を漏らしていると、リアちゃんが小首を傾げながら尋ねてきた。

 この反応から察するに、まだ何も事情を知らない様子。

 リアちゃんもこの家に住むって知ったら、きっと驚くだろうな。


「うん、そうだよ。この家はグレアムさんが購入した家なんだ。ちなみにだけど……リアちゃんもこの家で暮らすことになると思う」

「えっ!? 私がこの家で暮らす!? そんな贅沢できないよ!」

「ちなみにリアだけじゃなくて、トリシアとモードも一緒に暮らすと思うよ! グレアムが言っていた職場ってここだからさ!」

「えっ、そうなのですか? こんな豪邸で働くことになるとは夢にも思っていませんでした。私達は……家政婦的なことをするのでしょうか?」

「うーん。詳しいことは分かりませんが、恐らくそんな感じの仕事内容だとは思います」

「家事なんてしたことがないから不安だな。ダメダメだったら……捨てられてしまうのだろうか」


 モードさんは不安そうな表情でそう呟き、それに呼応してリアちゃんとトリシアさんも不安そうな表情へと変わる。

 三人は上手くやれるか心配しているみたいだけど、グレアムさんはどんなに駄目だったとしても見捨てるようなことはしない。

 それは冒険者としてダメダメだった私だからこそ、断言することができる。


「三人とも心配いりませんよ。グレアムさんはどんなに駄目でも見捨てるような人ではありませんから」

「そうそう! 何にも心配いらないから、この豪邸に住めるってことを喜んでればいいよ! ――というか、話をしていないで早く散策しよう! 待ちきれない!」

「あっ、アオイ様! 一人で行くなんてズルい!」


 待ちきれなくなった様子のアオイちゃんは、鍵を取り出すと開錠して家の中へと一人で入っていった。

 それを追うようにリアちゃんも走って中に入り、私はトリシアさんとモードさんと顔を見合わせて笑いつつ、続くように家の中に入った。


 話には聞いていたけど、中は本当に驚くほど大きくて広い。

 私はその広さに驚きが隠せず、口を大きく開けたまま放心状態で周囲を見渡していく。


「すっごーい! 本当に大豪邸だ! こんな家を買えるなんてやっぱりグレアム様は凄い!」

「ここまで大きいとは私も思ってなかった! これだけ広ければ……おにごっことかかくれんぼとかできるじゃん!」

「わっ! 私、かくれんぼやりたいな!」

「じゃあ、一通り探索し終えたら、みんなでかくれんぼしよう! 言わなくても分かると思うけど、ジーニアもトリシアもモードも参加だからね!」

「グレアムさんに怒られないですかね?」

「バレない、バレない! おにごっこして何か壊したらバレるかもしれないけど、かくれんぼなら大丈夫だって」


 そんな会話をしつつ、私達は母屋から見て回ることにした。

 玄関も広々としていて、廊下の長さも桁違い。

 玄関から見えている部屋の数だけでも私の実家よりも多いし、この家であれば孤児院を開くことは可能だと、玄関の段階で分かる。


「ジーニア、早く来て! リビングがめちゃくちゃ広いし、こっから中庭にも出られる!」

「ジーニア様! このお家、三階まであるよ! 隠れ部屋みたいで面白い!」

「こら、リア。良いと言われたとしても、あまりはしゃいではいけませんよ」


 先に入ったアオイちゃんとリアちゃんが、それぞれ別の方向から私を呼ぶ声が聞こえてくる。

 トリシアさんはそんなリアちゃんに厳しい声を掛けているけど、どこにいるのか分からないこともあって返事がない。


「上にいるリアは私達が探しますので、ジーニア様はアオイ様のところへ行っていてください」

「分かりました。リアちゃんを見つけたらリビングに来てください。それと前にもお伝えしましたが……私のことは様付けじゃなくていいんですよ? グレアムさんと同じパーティってだけですから」

「いいえ。ジーニア様もアオイ様も私達にとっては恩人ですので、グレアム様同様に敬称はつけさせて頂きます」

「そういうこと。ジーニア様も私達の恩人」


 うーん……。

 私は決して様付けされるような人間ではないんだけど、トリシアさんもモードさんも止めてくれない。


 頭を悩ませている内に、お二人は二階へと行ってしまった。

 敬称の件はまた改めて考えるとして、私もアオイちゃんを探しに行くとしよう。


 長い廊下を抜けると、広いリビングがあった。

 アオイちゃんはそんなリビングの真ん中に突っ立っており、外を見ながら放心している様子。


「アオイちゃん、どうかしたんですか?」

「ジーニア! 外を見てみてよ! めっちゃ広い庭がついてる!」


 興奮した様子で私の手を引っ張りながら、外を指さしたアオイちゃん。

 確かにリビングから外に出た先は中庭になっており……それも想像していた何十倍も広い中庭。

 中庭があることは聞いていたけど、アオイちゃんのテンションが上がるのも分かってしまう。


「本当に広いですね! こんなに広いとは思っていませんでした!」

「私も! 本当にこの中庭で稽古をつけてもらえるじゃん! ……私もこの家に住まわせてもらおうかな?」

「私も住まわせてほしいですが、住まわせてくれるんですかね?」

「分かんない! でも、これだけ広ければ住めるでしょ!」

「ジーニア様、アオイ様! 二階も凄かったよ!」


 アオイちゃんとそんな話をしていると、二階に行っていたであろうリアちゃんが戻ってきた。

 アオイちゃんに負けず劣らずのハイテンションであり、二階の造りも凄かったことが見なくとも分かる。


「わー! 二階も見るの楽しみ! 私たちが二階を見終わったらかくれんぼやろう! それで、かくれんぼの後は中庭でおにごっこ!」

「おにごっこもやるの!? やったー!」

「アオイ様は幼いリアと感性が同じ」

「モード、失礼ですよ。アオイ様は感性が若いだけです」


 トリシアさんが軽く頭を叩きながら訂正したけど、私にはあまり違いが分からなかった。

 そしてその後、公言していた通りかくれんぼとおにごっこを行い、少し遅い昼食を五人で食べ、軽くくつろいでから――グレアムさんの新居探索を終えたのだった。

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