第133話 疑念
クルーウハミリオンを討伐した後、剥ぎ取った素材を一度巣の中に入れ、グリーを背負ってライトミラに戻ることにした。
グリーは俺の背中に乗るなり眠ってしまったため、あまり揺れないように気をつけながら、急いで街へと戻った。
予想以上に早く討伐できたということもあり、ライトミラに着いた時点ではまだ深夜。
グリーを背負いながら静まり返っている街の中を移動し、アンが待っているテントへと向かう。
正直、グリーよりも一人で残っているアンの方が心配だったのだが……どうやら無事なようで、テントの中で一人丸まって眠っていた。
報告のために起こそうか迷ったが、明日報告すればいいだけなので、特に起こすようなことはせずにアンの隣にグリーを寝かせる。
二人が眠っている姿を少し見てから、俺は再び北東の森に向かう。
ここからは剥ぎ取った素材の回収を行い、クルーウハミリオンの巣を壊しておくとしようか。
素材を背負ってライトミラに戻ってきた時には、空が既に明るくなっていた。
結局、徹夜で作業してしまった訳だが、無事にクルーウハミリオンを討伐できたし上出来だろう。
この後の動きとしては、アドウェールのところに挨拶へ行き、その後情報をくれた【モンスターハッカー】のところに向かう。
報酬はいらないといっていたが、クルーウハミリオンの素材の一部を渡すつもり。
長年クルーウハミリオンを追っていた訳だし、何かしら有効活用してくれるだろう。
このままの足で冒険者ギルドに向かってもいいのだが……流石に体の臭いが気になるため、一度宿に戻ってシャワーを浴びるか。
眠い目をこすりながら、目を覚ますことも目的にシャワーで汚れを落とすことにした。
体を綺麗にしてから、俺は冒険者ギルドへとやってきた。
時間的にもバッチリだったようで、出勤してきたアドウェールと入口で偶然出くわした。
軽い挨拶を行いつつ、そのまま一緒にギルド長室まで向かう。
「タイミングばっちりだったねぇ。クルーウハミリオンの情報をまた聞きに来たのかい?」
「いや、クルーウハミリオンは昨日の夜に討伐した。だから、その報告をしようと思って来たんだ」
「…………ん? あー、なるほどなるほど。ふっふっふ、中々良い冗談ではあるが面白さには欠けているね!」
事実を報告したつもりなのだが、変なことを言いだしたアドウェール。
もしかしてだが、クルーウハミリオンを倒したことを信じてもらえていない感じか?
「いや、一切冗談なんかではなく、本当にクルーウハミリオンを倒してきたんだが。一応、剥ぎ取ってきた素材もあるぞ」
「………………ほ、本当に倒したのかね? に、にわかには信じられんのだけど……。素材を見せてもらってもいいかい?」
「もちろん。素材を買い取ってもらえないかの交渉もするつもりだったからな」
目を見開いて驚いた様子のアドウェールに、先ほど剥ぎ取ってきたクルーウハミリオンの素材を見せた。
アドウェールは俺が持ってきた素材を一つ一つ触って確認した後、首を横に捻りながら考え込み始めた。
「どうしたんだ? もしかして俺が討伐したのはクルーウハミリオンではなかった――とかか?」
「いいや。こんな魔物を見たことがないし、限りなくクルーウハミリオンだと思うのだけどね。……いかんせん、私がクルーウハミリオンを知らないのだよ」
「な、なるほど。姿を見せないってことで有名だった魔物だから……まぁ仕方ないのか」
「とにかく、すぐにクルーウハミリオンを追っている冒険者達の下に持っていこう。今回は私もついていくよ」
「ああ。よろしく頼む」
どちらにせよ、【モンスターハッカー】の下には向かう予定だったから都合がいい。
俺は気持ちの逸っているアドウェールと共に、【モンスターハッカー】の拠点がある宿屋の地下へと向かった。
ノックをしてから中に入ると見知った二人が手前にいて、奥には見知らぬ男が立っていた。
この男が例のリーダーだろうか。
「おっ、噂をすれば何とやらっすね。この人がさっき話していた、クルーウハミリオンを倒そうとしている冒険者っすよ」
「おや、まだ出発していなかったんだね。今日はリーダーがいるから話を聞いていくといいよ」
二人の話しぶりからしても、やはりこの男がリーダーだったか。
というか、もう既に倒しているんだが……まだ出発もしていないと思われているようだ。
アドウェールの反応もそうだったが、数日で倒せる魔物ではないという認識が強い様子。
「はじめまして。俺がこのパーティのリーダーを務めているジェイコブだ。クルーウハミリオンを倒したいということなら大歓迎だし、俺が知っている情報なら何でも教えるから、遠慮せずに何でも聞いてくれ!」
「ありがたい言葉だが……既にクルーウハミリオンは倒してしまった」
「えっ!? もう倒したっていうんすか? ……いやいや、そりゃ流石にあり得ないっすよ!」
「そのやりとりは既にこの街のギルド長とやったばかりだ。俺は倒したと思っているが、本当にクルーウハミリオンか分からないから、この素材を見て判断してほしい」
アドウェールと同じように驚いた様子の三人に対し、俺は剥ぎ取ったクルーウハミリオンの素材を見せた。
真っ先に食いついたのはリーダーのジェイコブであり、顔がついてしまうぐらい間近で素材を見つめている。
「……リーダー、どうっすか? 流石にクルーウハミリオンじゃないっすよね?」
「…………いや、この体は間違いなくクルーウハミリオンだ。実際に巣の中を調べたから間違いない。――どうやって、一体どうやって倒したんだ!?」
先ほどまでの優しい雰囲気から一転、俺の肩を掴んで問い詰めてきたジェイコブ。
何でも聞いてくれと言われたばかりなのに、俺が質問される立場になってしまった。
「二人から色々と情報を貰っていたお陰もあって、昼の内に巣の目星をつけることができたんだ。そして、クルーウハミリオンが戻ってくる夜まで待ち伏せして、そのまま討伐したって流れだな」
「……そんなゴブリンを倒したみたいな簡単な報告をされても困る! まず巣を見つけるのも大変だし、何よりも――対策を講じなければクルーウハミリオンを視認することはできない! そこだけは俺でもどうすることもできなかったからな!」
そういわれてもなぁ……。
大した策もなく、臭いだけで判別していただけ。
これを説明したところで、また上手く理解してもらえないだろうし……ここははぐらかせてもらおう。
「そこは秘密ってことで頼む。とりあえず、俺が倒したのはクルーウハミリオンだったってことで間違いないよな?」
「え、ええ。リーダーであるジェイコブさんが断言するのであれば、私が疑う余地もありません。グレアムさん。今回はクルーウハミリオンを倒して頂き、本当にありがとうございました」
「礼を言われることはしていない。とにかく素材を買い取ってほしいのと、この三人への報酬も弾んであげてほしい」
「ちょっと待て。俺は報酬よりもどう倒したの方が気になるんだ!」
「それは気が向いたらってことで頼む。素材の一部を情報料として渡すから、そこは【モンスターハッカー】の三人とギルド長で上手くやってほしい。それじゃ俺はすぐに帰らないといけないから失礼する」
まだまだ逃がしてくれない雰囲気満々ではあるが、本当に時間がないため逃げるように外へと出ることにした。
ここからグリーとアンのところに行かないといけないし、ジーニアとアオイとギルド長、それからリア、トリシア、モードへのお土産も買わないといけないからな。
「ちょっと待ってくれ! もう少しだけ話を聞かせてほしい!」
「それは私もです! 買い取るのはこちらとしてもありがたいですが、買い取った分のお金をどうするかとか……後は今回の討伐してくれたお礼についても話しましょう!」
「いや、そこは上手いことやってほしい。――また気が向いたら顔を見せる」
「待つっすよ! 話を聞かせてほしいっす!」
「逃げるなんてズルいよ。私らは惜しみなく教えたでしょ!」
後ろからわーわーと聞こえているが、俺は逃げるように宿を後にして……そのままの足でグリーとアンのいるテントへと急いで向かったのだった。
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