第131話 魔物の巣
俺はグリーを抱き抱え、ひとまず明るいうちに森の中を調べてみることにした。
今のところは強い気配はないため、情報通りクルーウハミリオンはまだ森にはいない様子。
まぁ、気配を意図的に抑えている可能性はあるけれど。
それと、森にいると言っていたリーダーにも会ってみたかったのだが、それらしき反応も見当たらない。
これは何もかも手探りの状態で探さないといけなさそうだ。
「――ちょ、ちょっと! は、速い! と、止まって!」
「心配しなくても大丈夫だ。絶対に障害物には当たらない」
「お、俺が大丈夫じゃないんだって!」
ジーニアやアオイと同じように、俺に抱えられながら喚き散らしているグリー。
止まってあげたい気持ちもあるが、森の中では立ち止まる訳にはいかない。
徹底的に魔物を避けつつ、俺は反応を探って気になった場所へと向かった。
辿り着いたのは森の中心部にある、大きな葉が織られて造られた簡易的な家のようなものの前。
雑さ加減を見ても、いかにも魔物の巣という感じだし、ここまでの道中にも似たような巣は何個か見た。
……が、何故この魔物の巣に一直線でやってきのかと言うと、森の中心部にありながら、この巣の周りにだけ生物の反応が一切感じ取れないから。
この場所を完全に避けているようであり、魔物はおろか獣の反応すらない。
「……はぁー、はぁー。や、やっと止まってくれた……。目的地に着いたの?」
「いや、気になる場所の一つってだけだな。ちょっと中を調べるから、俺の服の裾を握ってついてきてくれ」
「嫌だ。、なんでそんなとこに……分かったよ! 怖い顔で睨まないで!」
グリーに俺の服の裾を握らせ、気になっていた魔物の巣を調べてみることにした。
中は顔をしかめたくなるほどの悪臭で満ちており、入ったばかりだがもう出たくなっている。
臭いは獣臭と腐敗臭、それから血の臭い。
入る前から分かっていたが、この巣はただならぬ生物の巣のようだ。
「うぇっ! 臭すぎるって! 外に出ちゃ駄目なの?」
「駄目だ。鼻をつまんで少し我慢してくれ」
「……分がっだ」
とは言ったものの、俺もここには長居したくない。
さっさと調べて外に出よう。
ここまでの情報から、ここがクルーウハミリオンの巣と予想していたのだが、泥や血なんかが乾いていることから、どうやら現行で使われている巣ではないようだ。
ただ葉の裏の部分に、ねちゃっとした粘液が付着していることから、最近まで使われていたことは分かる。
まだ確定情報ではないが、この巣はクルーウハミリオンが最近まで使っていた巣とみていい。
既に巣を変えてしまったとはいえ、この森にクルーウハミリオンがいることは分かった。
森に入ったばかりで、クルーウハミリオンに繋がる手掛かりを見つけられたのは大きい。
後は似たような巣を見つければいいだけ。
それからすぐに巣を後にした俺達は、再び森の中を駆け回って先程のものと似た巣を探して回った。
そして約三時間ほどの捜索により、臭いや巣の内部に残っていた粘液から、恐らく現行で使われている巣の発見に成功。
後はこの巣の前で待ち伏せをし、クルーウハミリオンが戻ってきたところを討伐するだけ。
本当ならこの近くで待機し続けるのだが、グリーの体力が限界を向かえているようなので一度森の外に出ようか。
森の外に出て、日が暮れるまでグリーを木陰で休ませた。
自力で森の中を歩いていないとはいえ、この道中は自分の足で歩いたし、緊張と警戒で常に体の力が入っていたから疲れてしまうのも無理はない。
本当はもう少し寝させてあげたいが、そろそろ日が落ち切ってしまう。
クルーウハミリオンが戻ってくる前に、巣の前で張り込みたいため、俺はグリーを起こすことにした。
「グリー、起きてくれ。もう森の中に戻るぞ」
「…………うぅん。……もう戻るの?」
「ああ。クルーウハミリオンがそろそろ森に戻ってくるからな」
「――分かった。顔を洗う!」
グリーが顔を洗うのを待ってから、事前に見つけておいた巣まで急いで戻った。
着いた頃には完全に日は暮れており、魔物や獣の声しか聞こえない真っ暗な森になっている。
ただ、まだクルーウハミリオンは戻ってきていないようで巣の中は空。
近くで身を隠し、戻ってくるまで待機するしかない。
一番最悪なのは、クルーウハミリオンが森に戻ってこないこと。
グリーは既に体力ギリギリな上、今も体を小さく震わせている。
二日目に突入するのは難しいことを考えると、今日の内に仕留めたい。
心の中で早く戻ってこいと願いながら、身を潜めること約一時間。
巣に近づいてくる人影のようなものが見える。
そう――人影だ。
気配もほとんどなく、街の中ですれ違っていたら一切怪しむことなくスルーしていたであろう。
魔力等の反応もないため、もし姿を変えているのであれば固有の特性によるもの。
森にいると言っていた【モンスターハッカー】のリーダーである可能性は極僅かにあるが……これは断言していいだろう。
あの人間の形をした何かは――クルーウハミリオンだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます