第129話 クルーウハミリオン
アドウェールに教えてもらった場所に着いた。
その場所とはごく普通の宿屋の地下室で、クルーウハミリオンを追っている冒険者パーティはここを拠点にしているらしい。
中に人がいるのを確認してから扉をノックすると、すぐに中から返事があった。
俺は躊躇することなく扉を開け、部屋の中へと入る。
「珍しいっすね。客人っすか?」
「敵意はないし、客みたいだね。ここを知っているってことはギルド長に教えて貰ってきたのかい?」
中にいたのは太った清潔感のない男と、食堂で働いていそうな格好をしたおばさんの二人。
危険な魔物を追っているということで、凄腕の冒険者を想像していたのだが……少々想像とは違った二人だな。
「察しの通り、アドウェールから教えて貰って尋ねてきた。クルーウハミリオンを追っている冒険者というのは二人で間違いないか?」
「そうっすよ。僕たちがクルーウハミリオンだけを追っている冒険者パーティ【モンスターハッカー】っす」
「まぁ私達の他にリーダーがいるんだけど、今は外に出張っているからいないよ」
うーむ……この二人を含む、三人チームの冒険者パーティなのか。
リーダーがめちゃくちゃ優秀という可能性はあるが、気配的にこの二人は下の上ってところだし期待はできないかもしれない。
「失礼だとは思うが、冒険者には見えない見た目だな。本当にクルーウハミリオンを追っているのか?」
「本当に失礼っすね! 確かに僕とミネさんは戦えないっすけど、情報集めに関してはプロっすよ!」
「そういうことね。私たちのお陰でクルーウハミリオンによる被害が最小限になっているといっても過言ではないよ」
「本当に追っているなら失礼した。そういうことなら、クルーウハミリオンの情報を教えてほしい」
二人に謝罪をしてから、俺は情報提供を求めた。
「……まぁいいっすけど。なんでクルーウハミリオンの情報が欲しいっすか?」
「もちろん討伐するためだ。ビオダスダールから強い魔物を求めて来たんだが、クルーウハミリオンの情報を聞いて倒してみたいと思った」
「なんだいその理由は。そんな英雄のようなアホな思考の人間がまだいるんだね」
「言葉を返すっすけど、おじさんも全然強そうに見えないっすよ。まぁ情報は教えるっすけど、完全に自己責任でお願いするっす」
「ああ。その点は大丈夫だ」
ここまで色々と長くなってしまったが。そこからは二人が持っている情報を全て教えてくれた。
信憑性が高く具体的な情報ばかりであり、本人が言っていたように情報を集めることに関してはプロなのは話を聞いてすぐに分かった。
とりあえず貰った情報の要点をまとめると、クルーウハミリオンは北東の森に棲み家を作っている。
ただし、棲み家は短いスパンで変えるため特定することはほぼ不可能。
日中は獲物を狩るために北東の森から出ることが多いようで、姿を自在に変えられることもあって見つけるのは困難。
森自体はかなりの広いようだが、確実に存在している日暮れの森を探す方が見つけやすいらしい。
ちなみに直近で目撃されたのは、三日前の南東方面のしっかりと舗装された道のど真ん中。
商人の馬車ごと襲われ、卸者、護衛、商人全員が殺されているとのこと。
「詳しく情報を教えてくれてありがとう。助言通り、日が暮れてから北東の森を探してみる」
「本当に気をつけるっすよ。小賢しいだけでなく、強いのがクルーウハミリオンが脅威とされている理由っすから」
「もしあれだったら、うちのリーダーにも話を聞いてみるといいよ。日中の北東の森にいるからね。もしかしたら今の棲み家を見つけている可能性もあるしさ」
「ああ、分かった。もし棲み家を見つけられなかったら、尋ねさせてもらう。それと討伐できた時は報告に来る」
「討伐できなくても来てほしいっす。生存報告してくれた方が寝覚めがいいっすからね」
「分かった。失敗しようが成功しようが、生きていたら顔を出す。今回は本当に助かった」
俺は二人に深々と頭を下げ、宿屋の地下室を後にした。
ちなみに情報料なのだが、ギルドから報酬を受け取って調べているからいらないと断られた。
個人的には、クルーウハミリオンを討伐した際に得たお金の二割は渡してもいいと思えたほどの情報だったが、断固として拒否されてしまった。
まぁ俺が討伐できるとは思っていないって感じでもあったが。
とにかく……これでクルーウハミリオンの居場所の見当はついた。
後はグリーとアンに報告してから、二人の仇討ちをしつつクルーウハミリオンの素材を売って金を稼ぐ。
変幻自在に体の色を変えられる皮膚であれば、非常に高く売れる可能性があり、強いとされていることからそれ以外の部位の期待値も高い。
二人のためでもあり、俺のためでもある今回の討伐。
絶対に失敗しないように気合いを入れて臨むとしよう。
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