第126話 説得


 ベインからの報告を受けた日から、約二週間が経過した。

 この間も特に事件らしい事件も起こらず、平和な日常を送っていたのだが……。


 先日、ギルド長からグレイテスト家を購入することができたという報告があった。

 俺はその報告を受けてからすぐに冒険者ギルドに行き、手続きもその日の内に済ませてしまった。


 というわけで、あの広すぎる家は無事に俺の所有物となったのだ。

 手続きもあっさりしていたし、まだいまいち実感が湧いていないのだが、これで孤児達を受け入れる箱を手に入れることができた。


 残る作業といえば、孤児院で働いてもらうリア、トリシア、モードの教育。

 それからグレイテスト家の購入で、手持ちの金は完全にすっからかんになってしまったため、運転資金を稼がないといけない。


 ベインの建てた家には高く売れそうなものがいくつも置いてあったし、譲ってもらうことも一瞬考えたが……。

 この善行は俺がやりたいと決めて始めるものだし、ベインの忠誠心につけこんで譲ってもらうのは違う。

 そう自分を戒めて、全力で稼ぐことを決めた。


 とりあえずは遠征して、各地で悪名高い魔物の討伐でいいだろう。

 強い魔物の素材が高く売れることは既に分かっているからし、強い魔物は大抵人を困らせていることが多いからな。


「ねね、グレアム! 今日はどこ行くの?」


 まだ営業していない酒場の席に着き、俺は今後のことについてを考えていたのだが、暇そうにしていたアオイが構って欲しそうに話しかけてきた。

 今日は休養日と伝えてあったはずなのだが、何故かアオイもジーニアも準備を整えている。


「今日は休みって言っておいただろ」

「それってどこにも行かないってこと? ならさ、グレイテスト家を案内してよ! もう自由に使っていいんでしょ?」

「私は指導してもらいたいです! グレアムさん、よろしくお願いします!」

「あっ、指導は私も! 広い中庭があるって言ってたし、グレイテスト家を案内してもらうついでに指導もしてよ!」

「アオイちゃん、それいいですね!」


 金を稼ぐために一人で遠征に行こうと考えていたのだが、勝手に盛り上がり始めた二人。

 近い内に二人を案内しようと考えてはいたが、依頼終わりにと考えていたし、盛り上がっているところ悪いが今日は断らせてもらおう。


「今日は遠出をする予定だから案内できないぞ」

「えっ!? なに遠出って! 聞いてないんだけど!」

「グレアムさん一人で行くんですか?」

「ああ。もうビオダスダール近辺には強い魔物がいないから、遠出をして倒してくるつもりだ」

「グレアムだけずるい! 私も行きたい!」

「私も行きたいです!」


 ついていきたいと言ってくるだろうとは思っていたから、本当に想像通りの展開。

 だからこそ、何も告げずにこっそりと出発したかったな。


「駄目だ。日帰りの予定だから、二人がいたら時間が足らない」

「やだやだ! 私も行きたいもん! 連れて行かないっていうなら……行かせない!」


 アオイは頬を膨らませながら、酒場の扉の前で両手を広げて立ち塞がった。

 別に裏口から出ることもできるが、逃げるように出ていったところで帰ってきてからが面倒くさいからな。


「……分かった。抱っこでもいいなら連れていく。ちなみにだが、この前みたいな短い距離じゃないからな」

「だ、抱っこ……。抱っこもやだ!」

「文句ばっかり言うな。待っているか、抱っこの二択だ。……ちなみに俺も抱っこは嫌なんだからな」


 これしか取れる選択はない。

 本当なら二人にも経験を積ませたいし、連れていってあげたい気持ちもあるが、それ以上に時間は貴重。


 ベインに頼んで、移動魔法で連れていってもらうという手もあるが、ベインはベインで忙しそうだし頼めない。

 となってくると、この二つしか選択肢はないのだ。


「そ、速度を落としたりは……」

「しないな。無理だと思ったら降ろすが、拾うのは帰りになると思う」

「うくぅ……! ついていきたいけど、あの速度を長距離は無理! なら待ってるしかないじゃん!」

「わ、私も長時間は耐えられる気がしません……」

「なら、俺一人で行ってくる。何かお土産を買ってくるからそれで我慢してくれ」


 下を向いて悔しそうにしている二人にそう告げ、もう出発するために立ち上がった。

 そしてそのまま出ようとしたのだが、そこで俺は一つ思いついた。


「……というか、グレイテスト家はもう所有物なんだし、二人で勝手に見に行ってくればいいんじゃないか? 場所はギルド長が知っているし、鍵もギルド長が持っているぞ」

「えっ! 行っていいの!?」

「もちろん。二人なら自由に出入りしてくれて構わない」

「ありがとうございます! そういうことでしたら、待っている間にアオイちゃんと二人で行ってきます」

「ああ。あと嫌じゃなければ、リア、トリシア、モードの三人も連れていってあげてくれ」

「いいね! せっかくだし、三人も連れて行ってくる!」

「よろしく頼む」


 一気に元気になった二人を見て俺は笑いつつ、今度こそ酒場を後にした。

 家の中をぐちゃぐちゃにされないかは心配だが、ジーニアがいれば大丈夫だろう。

 俺は気持ちを切り替え、お金を稼ぐために強敵狩りへと出掛けたのだった。


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