第125話 やるべきこと


 久しぶりにグレアム様と会うことができたため、予想以上に舞い上がってしまった……。

 なるべくテンションを上げずにいこうと決めていたはずなのだが、グレアム様を見た瞬間にテンションが一気にマックスになってしまったのだ。


 完全にドン引きされていたのは流石に分かったが、それでもテンションを抑えることができなかったことを部屋に籠って後悔している。

 あの発言はどう思われただろうかとか、あの動きは流石に気持ち悪がれただろうかとか……。


 グレアム様が去ってから既に半日以上経っているのに、思い出しては恥ずかしさで身悶えるのを繰り返している。

 失態が多く、反省しなくてはいけないが……やはり私は心の底からグレアム様を尊敬しているということが分かったのは良かった。


 そして、そんな心の底から尊敬しているグレアム様のためにも、いつまでも部屋に籠って身悶えているのではなく、私がやらねばいけないことをしないとならない。

 まずは下僕達に冒険者に手を出さないことを命じ、それから各地にいる配下になりたいといってきたもの達への指示。


 それが終わり次第……マルクスマウンテンへと赴き、グレアム様に仇をなそうとしている不届き者の始末といこう。

 やることを明確化したら、ようやく失態に身悶えることがなくなった。


 気持ちを切り替えて部屋を出た私は、まずは下僕達に通達するために広間へと向かう。

 広間みでの廊下を歩きながら、この建物をグレアム様が気に入っていてくれたのか気になる。


 以前、ビオダスダールに訪れた際に見た建物を参考に建設させたのだが、特に反応を示してくれなかった。

 私から見てもまだまだ甘い部分があるため、もっとこだわって改善していかないといけない。


 そんなことを考えながら広間に入ると……。

 広間には見知らぬ魔物が二体立っていた。

 

 一体はグレアム様に似た――和装という格好をした真っ赤な骨の魔物。

 もう一体は三メートル弱はありそうな巨体で、漆黒の大剣と大盾を持っている真っ青な骸骨。

 

 二体共に雰囲気のありすぎる魔物であり、自身の気配を完璧に押さえ込んでいることからも魔王の手の者かと一瞬思ったが……。

 私はすぐにこの二体の魔物が何者かを思い付いた。


「もしかしてだが……お前達、アカとヨルか?」

「はい、そうでございます。グレアム様から名付けて頂いたお陰で、こうして進化することができました」

「ベイン様、我らに指示を出してください」


 私に対し、深々と頭を下げてきたアカとヨル。

 どうやら力を持ったことで勘違いし、反旗を翻すということはなさそうだが……やはりグレアム様から名を頂いたことで更なる進化を遂げたか。


 進化した時の高揚感は今でも忘れることはなく、アカとヨルに対して羨ましいという気持ちを持ってしまう。

 だからこそ、私以外には名付けて欲しくはなかったのだが、この気持ちは流石に我儘というもの。


「分かった。二人にはそれぞれ、グレアム様に降伏宣言した魔物の下に向かってもらう。そして、しっかりと発展するように見張ってくるのだ」

「「はっ!」」

「アカは平原。ヨルは森に行ってこい。くれぐれも舐められないようにだけするのだぞ」

「分かりました。必ずや指示に従わせます」

「私が舐められるということは、ベイン様、そしてグレアム様が舐められると同義。降伏してきたからには、グレアム様のために働かせます」

「それでいい。頼んだぞ」


 アカとヨルはもう一度深々と頭を下げてから、広間を出てそれぞれの場所へと向かっていった。

 釘を刺したが、魔王軍の幹部と名乗っていたボルフライとやらよりも、今のアカとヨルの方が強いため舐められることはまずないだろう。


 そうなると、今指示した任務の失敗はまずあり得ない。

 敵に目を向けるのも大事だが、私はアカとヨルにも決して負けてはならない。


 グレアム様の期待に答えるためにも、マルクスマウンテンにいる不届き者は確実に仕留めなくてはな。

 いつも以上に気合いを入れてから、移動魔法を発動させてマルクスマウンテンへとやってきた。


 先程まで温い広間だったが、一瞬にして山頂へと景色が変わった。

 そして、そんな山頂には複数の魔物がいる。


 グレーウルフとその上位種の銀狼。

 さらに一つ目の巨人サイクロプスに、不死の異名がつくほどの再生能力を持っているトロール。


 そんな大量の魔物を従えているのは、グレアム様に仇なそうとしている魔物。

 ――サウザンドハーピィの姿があった。


「ダレだ! イッタイどこからアラワレた!」

「テキシュウか!?」

「ふふ、こんな芸当ができる魔物なんて一体しかいないでしょう? はじめまして、『死の魔術師』さん」


 ほぼ裸のような格好のサウザンドハーピィが妖艶な笑みを浮かべ、私に対してそう挨拶をしてきた。


「私の異名を知ってくださっているなんて光栄です。ただ、今はベインという正式な名前がありますので、どうぞベインとお呼びください」

「ふふふ、嫌よ。その名前は憎き人間につけてもらった名前なのでしょ? そんな汚らわしい名前を口にするなんてできないわ」

「……そうですか。それなら別に構いません。あなた方は元より死を運命づけられていますからね」


 私が姿を現したというのに少しも焦っていないことを察するに、全て想定済みだったということ。

 そしてこの余裕は、私に対抗しうるだけの戦力を揃えたという自信から。


 アカとヨルに舐められるなと言いつけたのに、まさか私が舐められるとはな。

 これでは下の者に示しがつかなくなってしまう。

 …………いや、最早そんなことはどうでもいい。


 それよりも――グレアム様から頂いた素晴らしい名前を侮辱したこの下衆が許せないッ!

 こいつらを殺すことは決まっていたが、死すら生ぬるいと思わせてやろう!


「それでは――いくぞ。ここから始まるのは一方的な虐殺だ!」





 ベインの宣言通り、そこから始まったのは一方的な虐殺だった。

 ただし、サウザンドハーピィだけはギリギリまで殺してもらえず嬲られ続け、自ら死を懇願したことでようやくトドメを刺してもらうことができた。

 そして――ボルフライと同じく魔王の幹部であったサウザンドハーピィは、あまりにも呆気なく命を落としたのだった。


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