第124話 レア個体


 色々とベインには聞きたいことができた。

 フーロ村で戦っていた時は魔物のことなんか知ろうとも思わなかったが、今は興味があるし実際に聞くこともできるからな。


「ベイン、二匹のような進化した魔物というのは前から生まれてきてはいたのか?」

「いえ。私以外で進化した個体を見たのは初めてです」

「となると、この二体が進化したのはベインが進化して特殊な存在になったからっていうのが大きいのか。……ベイン、その二匹に名前をつけた方が良いと思うか?」

「それはグレアム様が決めることです。ただし、力を持つことで豹変することもあるかもしれませんので、その点だけは頭に入れておいてください」


 暗に名前をつけるなと言っているように聞こえる。

 確かにベインは変わらず忠誠心を持ってくれているが、力を持つことで変わったとしても何ら不思議ではない。

 人間ですら、力を持つことで豹変する者がいる訳だしな。


「知識欲で名前を付けたくなったが、やめておくことにする。レア個体として確立しているし、それで十分だろう」

「えー! 名前つけないの? ベインさんみたいになるかもしれないし、そうなったら色々と便利でしょ!」

「いや、ベインが言っていたように力を持ったら持ったで厄介になるケースがあるから――」

「二匹とも逆らわないよね? なんかオドオドしているし、見た感じからして逆らうってタイプじゃないでしょ! ねぇ?」

「も、もちろんです!」

「ベイン様にももちろんですが、ぐ、グレアム様に逆らうなんて……考えただけでも恐ろしいです!」


 アオイの問いかけにそう答えた二匹の魔物。

 せっかく俺の中でも諦めをつくことができたのだが、こうなると名前を付けないといけない流れになってしまった。


「それに反抗してきたところで、グレアムなら余裕で対処できるでしょ! ベインさんも部下に負けるなんてことはないよね? グレアムに迷惑が」かかっちゃうし

「それはもちろんでございます! グレアム様に逆らう者が私の部下から出たとなったら――容赦は致しません。必ずや後悔させ、グレアム様にはご迷惑をおかけすることなく潰します」


 ベインのそんな言葉を引き出し、アオイは目を爛々と輝かせながら俺を見ている。

 まぁ簡単に名前をつけては駄目だと自分を諌めはしたものの、この二匹には名前をつけたかったし……アオイに乗せられる形なのは癪だが名前をつけようか。


「……分かった。二匹に名前をつける。特徴的な部分から取って骸骨剣士の方はアカ。ワイトナイトは種族名から文字ってヨルにする」


 本当はアカとアオにしたかったのだが、アオイに名前が似てしまうためヨルにした。

 そして命名した瞬間に――大量の魔力が流れ出ていく。

 流れ出る魔力総量的が、今回は二体に名前をつけたのにも関わらずベインに名付けた時と同程度なのが気になる。

 

「グレアムさん、お体の方は大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。頭がくらくらとはするが、今回は心構えができていた分かなり楽だな」

「元気なら良かったね! それよりアカとヨルに変化はあった?」


 アカもヨルも黙っているが、変化がなかった訳でなく、溢れ出てくる力にどうしたらいいのか分からない様子。

 とにかくベインの時と同様に、力の譲渡が行われたらしい。


「ぐ、グレアム様! こんなお力をくださりありがとうございます!」

「私もアカも一生尽くさせて頂きます!」

「そんなに感謝はしなくていい。軽いノリで名付けただけだからな」

「グレアム様に名付けられるのは私だけが良かったというのが本音ですが……アカとヨルにも名付けて頂き、本当にありがとうございます! この二体にはしっかりと働かせて、グレアム様のお力になるように尽力させます!」


 ベイン、アカ、ヨルの三体は、俺に対して深々と頭を下げてきた。

 端からこの光景を見たら、魔王だと思われてもおかしくない姿。


 というか、魔物に力を与えて働かせる。

 行為自体も魔王そのものなもしれない。


「いや、俺のために働く必要はない。困った時に手助けしてくれるだけでいいんだ」

「やはりグレアム様はお心の広い御方です! 私が先陣を切ってお仕え致します!」


 ベインには何も伝わっていないようで、思わず頭を抱えたくなる。

 これ以上この話をしていても平行線を辿る未来しか見えないため、俺は別の話を尋ねることにした。


「進化した魔物についてはこれで終わりとして、他の二つも気になっている。そっちの話を聞かせてくれ」

「分かりました! 冒険者がやってくる件につきましては、それ以上でもそれ以下でもないのですが……殺しはせずに軽傷を負わせて追い返しております。この対応でよろしいでしょうか?」

「ああ。配慮してくれてありがとう。勝手な物言いだが、人間は殺さないようにしてほしい」

「分かりました。下僕達にもしっかりと言い聞かせておきます」

「ああ、助かる。冒険者の方は俺がなんとかする」

「お手を煩わせてしまいますが、よろしくお願い致します」


 ギルド長に頼めば何とかしてくれるだろう。

 ベルセルクベアのいた森と同じように、立ち入り禁止命令を出してくれれば、きっと誰も近寄らなくなるはず。


「それで、もう一つの配下になりたいと言ってきた魔物というのはなんだ?」

「ゴールドゴーレム、フレイムオーガ、ベルセルクベアを討伐したという話を聞き付けて、遠方から魔物がやってきております。現在は怪しい動きのあるマルクスマウンテン以外の場所に留まらせているのですが、グレアム様はどうお考えでしょうか?」


 どうお考えでしょうかと聞かれてもな……。

 どう指示したらいいのかも分からない。


「基本的にベインが統治すればいい。いなくなったオーガやバーサークベアの代わりに、収まるところに収めればいいんじゃないか?」

「グレアム様が私と同じ考えで安心いたしました! 配下に加わりたいと言ってきた魔物達にはそれぞれの場所に住まわせ、発展させていきたいと思います」

「あ、ああ。上手いことやってくれ」

「かしこまりました!」


 俺の頭ではこれからどうなるか想像もつかないが、ベインなら上手くやってくるだろう。……多分。

 とにかくこれで報告を全て聞き終えた。


 想定していた以上に色々あったようで聞いている分には楽しかったが、ベインの方も色々と忙しくなりそうな感じがする。

 これからは頻度を上げて報告を聞こうと心に決めた。


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