第123話 企み
最初の報告が魔王軍への召集が来たこと。
流石にこれ以上の報告はないだろうが、ベインからの話を聞くとしよう。
「他には何かあったか? 例えば……俺がこの近辺の主となっていた魔物を倒したことで出た影響とかはなかったか?」
「それは全くございませんでした! レッドオーガもバーサークベアもシルバーゴーレムも動きは一切ありません。ただ……」
「ただ?」
「マルクスマウンテンだけは少し騒がしいです。シルバーゴーレムではないのですが、シルバーゴーレムがいなくなったことを良いことに何か画策している気配がございますね」
マルクスマウンテンか。
ベインにも前に報告していたが、マルクスマウンテンの山頂から妙な気配を感じ取っていた。
もしかしたらそいつが何か動いている可能性がある。
「前に報告したと思うが、山頂に強い魔物の気配を感じ取った。動いているのはそいつじゃないのか?」
「可能性は非常に高いと思います。飛行能力を持っているようで、他所から魔物を運んでいるという情報もありますので」
「飛行能力……。なら、ほぼ間違いないな。俺の判断ミスで逃した魔物だし、何か企てているのであれば俺自ら倒したいな」
「いえいえ。グレアム様のお手を煩わせるつもりはありません。既にマルクスマウンテンには下僕を送っておりまして、首謀者の居所を掴み次第――私がこの手で仕留めて参ります」
ベインは不敵に笑いながら、深々と頭を下げてきた。
マルクスマウンテンに一人で出向いて、サクッと倒してくるつもりだったが、ベインがやる気満々のようだし任せるか。
「分かった。そういうことならベインに任せる」
「ははっ! 必ずや仕留めて参ります」
「……何だかベインさんを見ていると、グレアムさんが王様に見えてきます」
「確かに! ベイン……さんが下手に出過ぎているからだろうね!」
「別に下手に出ろなんて言っていなんだけどな」
「何を、何を! 私にとってのグレアム様は想像主であり救世主である神様です!!」
「まさかの王様よりも上でした!」
別に救世主でも、想像主でもないのだが……いくら咎めても崇め続けているから、もう何を言っても無駄。
それよりも俺は、アオイがベインにさん付けしたことの方が気になった。
一瞬、呼び捨てでいこうとしていたが、チラッと横目で見て止めていた。
誰にでもフランクな感じでいくイメージがあるが、サリースやベインには敬称をつけているところを見る限り、自分なりの基準がありそうだな。
「……なんでこの流れで私を見てるの!」
「いや、なんでもない。それで……報告はこんなものか?」
「いえ、後は細かなものですがまだあります! ビオダスダールから冒険者が何度か来ていること。遠方から配下になりたいと何種類かの魔物がやってきたこと。そして、私の下僕の内の二体が進化したこと。一気に報告させて頂きましたが、グレアム様のお耳に入れておいてほしいことは以上ですね」
もう大した報告はないと思っていたのだが、どれも気になる報告ばかり。
特に……ベインの下僕が進化したというのは詳しく聞きたい。
「冒険者が来ることも、遠方から魔物がやってきたこととかも気にはなるが……それ以上に下僕が進化したってどういうことだ?」
「私にも分からないのですが、何の前触れもなく私と似た形で進化したのです」
「理由が分からない? 名前を付けたとかもなく?」
「ええ。名前もつけておりません」
「本当に理由なく進化した訳か。……気になるな。ここに連れて来られるか?」
「もちろんでございます。すぐに呼んできますので少しお待ちください」
席を立ったベインは、ゴーストウィザードを引き連れて部屋から出て行った。
それから数分待っていると、二体の魔物を連れて戻ってきた。
俺はベインのような姿に変わった魔物が来ることを想像していたのだが、現れたのは至って普通の骸骨剣士とワイトナイト。
本当に進化した個体なのか疑ってしまうが、ベインが俺に嘘をつく訳がないし、見た目には表れていないだけで進化しているのだろう。
「グレアム様、お待たせいたしました。こちらの二体が進化した者達でございます」
「ぐ、ぐれあむ様……! お、お会いできて光栄でございます!」
「ぼ、下僕なんかに会いたいだなんて、本当にありがとうございます……!」
二体の魔物はプルプルと体を震わせながら、俺に対してお礼を言っている。
見た目は下級の魔物でしかないのだが、こうやって見ると可愛く見えてくるから不思議だ。
「わざわざ来てもらってすまないな。早速質問させてもらうが、この二体は他と比べて何がどう進化しているんだ?」
「骸骨剣士は骨の色が若干赤み掛かっております。そしてワイトナイトの方は瞳が青色になっております」
微々たる変化過ぎて逆に驚いてしまう。
本当に進化なのか疑ってしまうが、よく知るベインが進化したというなら進化したのだろう。
「な、なるほど。見た目に関してはそこまで大きな変化はないんだな」
「はい、そうですね。他の個体よりかは強さも上がっておりますが、何よりも会話を行えるようになったのが一番の変化です」
下級の魔物は意志疎通が図ることが難しい。
そんな中で流暢に話せていることが一番の進化の証と言えるな。
何が原因で進化したのか非常に気になる。
この二体がレア個体なのか、それとも進化に値する何かを行ったのか。
そしてレアと聞くと、この二体にも名前をつけたくなってくるが……流石にベインで懲りている。
呼びやすくしたくはあるが、ここはグッと堪えるべきだな。
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