第122話 屋敷


 旧廃道に入ったところから既に綺麗になっていたが、奥は更なる進化を遂げており、大きな屋敷のようなものが建っていた。

 これもベインが建てさせたものだろうし、ここまでくると一体何を始めようとしているのか少し怖くなってくる。


「ついこの間までゴミ溜まりだったのに、立派なお屋敷が建っていますよ!」

「私たちが王都に行っている間に建てたのかな? 魔物ってこんなこともできるだね!」

「建物まで造れるということは俺も知らなかった。魔物がってより、ベインが特別っていう可能性の方が高いけどな」


 しっかりとした知識があり、正確に指示を出せるのであれば屋敷くらいなら建てられるということなのだろう。

 ベインは姿を消すことで、簡単に街の中に入ることができるのは前に街まで訪ねてきた時に分かっているし、色々と知識を得ることは容易ということ。


 このことを踏まえると、アンデッドを自由に使役することができるベインなら難しい話ではない。

 実際に魔王の領土があるわけで、魔物のみでも文明を築くことができるのは分かっているしな。


「どうぞ中にお入りください。ベイン様がお待ちしております」

「このまま入っていいのか?」

「はい。そのままお入りください」


 ゴーストウィザードに言われるがまま、俺達は建物の中に入った。

 外観だけでなく、内装もしっかりとこだわりを持って造られており、グレイテスト家ほどではないがクオリティが高い。


「中も凄い! でも室内に魔物しかいないって慣れない!」

「襲ってこないと分かっていても怖いですね」

「それそれ! 綺麗な建物の中に不気味さが凄い!」


 怖がっている二人の会話を聞きつつ、奥に進んでいくと広々とした広間にベインが立って待っていた。

 その顔は喜びを抑えきれないといった感じであり、部屋の中に入るのを少し躊躇ってしまう。


「グレアム様! お待ちしておりました! 何度王都まで行こうか考えたことか……! 本当に、本当にお会いできて良かったです!!」


 ベインの熱量に圧倒されてしまい、かける言葉を見失っていたのだが、ベインは気にすることなく駆け寄ってきた。


「グレアム様、この建物は如何でしょうか? 私の居住地でも快適に過ごしてもらえるよう、私の下部に造らせました!」

「か、かなり良いと思うぞ。それよりも……テンションが高すぎないか? それと近い」

「これは申し訳ございません! 久しぶりにグレアム様と会うことができ、ついテンションが上がってしまいました!」


 離れてはくれたが踊るような足捌きであり、テンションは未だにおかしいまま。

 これからは……なるべく日を空けずに会いに来るべきだな。

 このテンションで来られるのは鬱陶しすぎる。


「とにかく一度落ち着いて話したい。そっちの席についてもいいか?」

「もちろんでございます! このお屋敷はグレアム様のものですので、どうぞご自由にお使いください!」

「俺のっていうのは止めてほしいが……分かった。遠慮なく席につかせてもらう」


 ベインってこんなだったかと首を傾げつつ、俺達は並ぶように席についた。

 対するベインは俺達の正面に腰をかけ、これでようやく落ち着いて話ができる体勢が整った。


「早速話を聞かせてもらいたいのだが、俺達が王都に行っている間に何か変わった出来事とかはあったか?」

「ええ、いくつかございます! 一番大事なことから報告させて頂きますが、魔王軍の者がまたこの旧廃道にやってきました」

「魔王軍の者? この間やってきた幹部の……ボルなんたらの報復をしにきたのか?」

「いえ、その逆でした。魔王軍の幹部として加わらないかという勧誘をしに来たのです」


 魔王軍の幹部を殺した相手に対し、幹部にやらないかという勧誘を行ってきたという訳か。

 懐が深いというよりも、異常さをより強く感じてしまう。


「ベインさんって魔王軍の幹部を殺してしまったんですよね? その相手を勧誘するって……少し考えられないです」

「確かに! 復讐ってならずに勧誘ってなるのは考えられない!」

「幹部であるボルフライをやられたのですから、本来なら私を攻めたいところだと思いますよ。……ただ、魔王軍にはそうできない理由があるのだと思います。魔物同士で争うのは馬鹿馬鹿しいという考えもあると思いますが」


 あくまで魔王軍の敵は人間ということか。

 そのためならば、幹部を殺した魔物であろうと引き入れる。

 長年相手にしてきたから恐ろしさは身に染みて分かっているが、考え一つとっても恐ろしいものがあるな。


「それで、ベインはその話を受けたのか?」

「まさかまさか! 私が仕えるのはグレアム様だけですので! 魔王の使いの者には帰って頂きました。……まぁ魔王軍に身を置き、内部情報をグレアム様に流すということも考えたのですが、例えポーズであってもグレアム様以外に従うのは嫌でした!」


 目を輝かせながらそう言ってきたベイン。

 絶対に目を輝かせながら言うことではないが、この絶対的な忠誠心はありがたい。


「俺に牙を剥かないというのであれば、別に魔王軍に属しても良かったんだが、属さないと決めたのならベインの選択を尊重する」

「ありがとうございます! 私は一生グレアム様に尽くさせて頂きます!」


 土下座しそうな勢いで頭を下げてきたベイン。

 嬉しいことには嬉しいのだが、何でここまで忠誠を誓ってくれているのか、未だに分からないんだよな。


 やったことと言えば、名前を付けたぐらいだし。

 苦笑いを浮かべつつ、俺は次の報告を聞くことにした。

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