第121話 事情説明


 ギルド長と共にグレイテスト家の内見に行った翌日。

 あの後グレイテスト家だけでなく、他の候補地も見て回ったため、酒場で行われていた飲み会には参加できなかった。


 そのため二人への報告もまだできておらず、今日はまず昨日のことを伝えることが最優先。

 俺は少し早めに宿を出て、いつもの待ち合わせ場所である酒場前で待っていると……眠そうに目を擦っている二人が姿を現した。


「おはよう。二人とも随分と眠そうだな」

「ふぁーあ、おはよう。昨日はグレアムを待っていたせいで遅くまで飲んでたから。……って、昨日は何で来なかったのさ!? 飲み会するって約束してたのに!」


 眠そうな喋り方から一転、急にギアを上げて突っかかってきたアオイ。

 確かに遅くなってしまったとはいえ、顔を見せるべきだったかもしれない。


「すまん。色々と見ていたら予想以上に時間がかかってしまったから酒場に寄るのはやめた」

「事前に事情は聞いていましたし、遅くなってしまったのなら仕方がないですよ。それで、孤児院の場所の候補は決まったんですか?」

「ああ、実際に見にも行ってきた。ギルド長が複数候補を探してくれていたが……グレイテストっていう貴族の元家が圧倒的に良かったな」

「グレイテスト家って私でも聞いたことある! その家をグレアムが買うの!?」

「まだ決まってはいないが、買える額なら買いたいとは思っている」


 アオイはグレイテスト家を知っていたようで、目をキラキラと輝かせている。

 知らなかったから仕方ないとはいえ、実際に物件を見に行くのであれば、二人も連れていくべきだったな。


「凄すぎる! まさに冒険者ドリームだね!」

「確かにな。少し前までは考えすらできなかったことだ。冒険者って凄い職業だな」

「いやいや! 凄いのはグレアムさんですよ! 私なんてグレアムさんと出会う前は一ヶ月かかったのに一切稼げなかったんですよ!?」

「あはは! それはジーニアのやり方が悪かっただけだけど、グレアムが凄すぎるのも事実! 普通に強すぎるし、別に冒険者じゃなくても稼げたと思うもん!」


 二人は大分買い被ってくれているが、俺の場合も運に恵まれている部分が大きい。

 出会ったみんなから優しくしてもらったからな。


「とりあえず俺の話は置いておいて、昨日あったことはそんなところだ」

「了解! 昨日、顔を出せなかった理由は分かった! それで……今日はどうするの? 報酬の高い依頼でも受ける?」

「いや、俺達が受けられる報酬の高い依頼なんてたかが知れているからな。これまでと変わらない依頼を受ける予定だが、今日は旧廃道近くの依頼を受ける予定でいる」

「ということは、久しぶりにベインさんのところに行くんですね!」

「そういうことだ。王都から帰ってきてからしばらく経つが、バタバタしていて顔を見せに行けていなかったからな」


 ジーニアが言い当てた通り、依頼をこなすがてら久しぶりにベインに会いに行く予定。

 不在の間に何かあったかどうかも聞きたいしな。


「なら、そっち方面でいい依頼がないか見に行こう!」

「だな。伝えれば、きっと受付嬢さんが紹介してくれるはずだ」


 酒場前での話を切り上げ、冒険者ギルドに向かうことにした。

 まずは依頼をこなし、それからベインのところに行こう。



 俺達は受付嬢さんに依頼を見繕ってもらった依頼をこなした後、予定通りベインの下へと向かった。

 旧廃道は前に来たときよりも更に綺麗になっており、道もしっかりと舗装されている。


「何だか訪れる度に綺麗になっていきますね! ベインさんが綺麗にしているのでしょうか?」

「十中八九、ベインが指示して綺麗にさせているんだと思う。これぐらい綺麗なら、人もまた通るようになるかもな」

「流石に通らないでしょ! 旧廃道に誰も近寄らないのは、道がガタガタで進みにくいってことよりも『死の魔術師』を恐れてだからさ!」

「私は詳しく知らないですけど、ベインさんって有名な魔物だったんですもんね。今じゃグレアムさんに名付けてもらったことで、更なる強さを手に入れていますから……確かにいくら綺麗になっても近寄らないかもしれませんね」


 今はそれなりの強さを持っているが、進化する前のベインは大した魔物じゃなかった気がするんだけどな。

 ……まぁそれでもレッドオーガと同等くらいの力はあったし、普通の人から見たら恐怖の対象か。


 そんなことを話しながら旧廃道を進んでいると、正面からゴーストウィザードが姿を現した。

 俺は魔力感知ができるため現れることを事前に察知できるが、二人からしたら急に現れたように見えるようで、小さな悲鳴のようなものを上げている。


「グレアム様、お待ちしておりました。ベイン様の下まで案内させて頂きます」

「――急に現れるの怖すぎます!」

「本当に! もう少し考えて現れて!」

「……申し訳ございません。以後、気をつけさせて頂きます」


 二人に対し、平謝りしているゴーストウィザード。

 改めて、魔物が人間に謝罪している構図は奇妙すぎるな。

 俺はそんなことを思いながらジーニアとアオイを宥めつつ、ゴーストウィザードの案内でベインの下へと向かった。



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