第120話 グレイテスト家
ビオダスダールの中心地からは離れた場所。
大きな建物がいくつも並ぶそんな場所で――案内していたギルド長の足が止まった。
「これがグレイテスト家の建物だ。中心街からは離れているが、その分建物が大きいだけでなく土地自体も広い」
「……想像していた三倍は大きくて驚いている。こんな建物を本当に買えるのか?」
「そこは交渉次第だが、俺に任せてほしい。グレアムさんのためなら安くしてみせる」
胸を叩いてそう言ったギルド長。
嬉しい言葉ではあるが、実際にこの目で見た限りでは到底買える代物とは思えない。
「頼もしい言葉だが、不安の方が圧倒的に大きいな。土地の広さも含めてあまりに想像外だった」
「まぁこのビオダスダールで三本の指に入る貴族の家だからな。とりあえず中に入ろう。合鍵を貰っているから、中を自由に見て回れる」
「中に入るのすら少し気負ってしまうな。もう中には誰もいないのか?」
「ああ。もう既に王都に移っているから誰もいない。荷物とかも全て片付けてあると聞いている」
その言葉を聞いて少し安心する。
マナーなんかさっぱりだし、貴族と話をすることなんてできないからな。
無礼と言われて、門前払いを受ける心配がないことに胸を撫で下ろしつつ、俺はギルド長の後を追って敷地内へと足を踏み入れた。
「グレアムさん、まずはどこから見ていきたい?」
「全てギルド長にお任せする。何がなんだか分からないからな」
「分かった。まずは屋敷から見ていくとしよう」
門から入り、目の前に見えている大きな屋敷から見ていくこととなった。
扉を開けると大きな玄関となっており、その先は二手に分かれている長い廊下。
その廊下の正面を進んでいくと複数の部屋があり、ギルド長の説明ではゲストルームらしい。
こんなにゲストルームがあってどうするんだと思ってしまうが、有力な貴族だからこそ訪ねてくる人も多かったのだろう。
そんな解釈をしながら進んでいくと、あまりに広すぎるリビングへと出た。
「ここがリビングだ。そして奥がキッチンだな」
「あまりに広すぎる。家具とかがないから余計に広く見えるんだろうが……模擬戦くらいならここで行えるぞ」
「はっはっは! グレアムさんらしい感想だな。まぁ孤児院にするなら広いに越したことはないだろう」
「確かにそうだが……まだ二階に離れもあるんだろ? 孤児院としても大きすぎる気がするぞ」
「いや、三階まであったはずだ。俺も初めて来たから、見てみないと分からないが」
一階でこの広さなのに三階まであるのか。
開いた口が塞がらないままだが、そんな俺の心境なんて知らないギルド長はどんどんと進んでいく。
「このリビングの先にもう一つ部屋があって、そこの窓から出た先に庭がある。見たら分かるが庭でなら一対一ではなく、複数人での模擬戦が行える広さだぞ」
「ちょっと見させてもらう。……凄いな。庭も想像の三倍は広い。迎えるのは子供たちになるだろうし、街の外に出ずとも動ける場所があるのは良いな」
「間違いない。十人以上いても走り回れるだろうし、その点の苦労はしないと思う。それじゃ玄関まで戻って、さっきの分かれ道を右手側に進んでいこう」
来た道を戻り、今度は玄関から二手に分かれていた右手側を進んでいく。
右手側にはバスルームとトイレ、それから書斎や物置といった部屋があり、その途中で上へと繋がる階段があった。
螺旋状になっている階段であり、子供が上ることを考えると少し怪我の心配を考えてしまうが……とにかく全てが規格外。
「二階は基本的に部屋がいっぱいある感じだな。決まった部屋とかはなく、自由に使うことができる部屋が並んでいる」
「小さな部屋も含めて十部屋以上か。リア、トリシア、モードにもそれぞれ一部屋ずつ使ってもらえそうだな」
「それでも余ると思うぞ。それからバルコニーがあって、あとは二階にもトイレが一つある。それから……やっぱりあった。ここが三階へと続く階段だ」
三階へは先ほどのようなちゃんとした階段ではなく、梯子式の少し古臭いもの。
屋根裏って感じであり、緊急用で使う場所なのかもしれない。
「三階は流石にグレイテスト家も使っていなかったみたいだな。埃が凄まじい。まぁそれでもちゃんとしているし、大きな部屋が三つある感じだから……荷物置きとして利用するのがいいかもしれないな」
「確かに埃は凄いが……荷物置きとして使うのがもったいないくらいに広いし、ちゃんとした造りになっている。俺が今住んでいる宿よりも広いし部屋の感じもいい」
「なら、グレアムさんが住むのもありかもしれないぞ。三部屋あるし、何ならジーニアとかアオイも住まわせてしまってはどうだ?」
「…………。ここを買うことができたらそれもありかもしれないな」
大きさ的にも十分なくらい広いし、ギルド長の言う通りジーニアとアオイを誘って住むのはあり。
まぁ二人に俺と同じ場所で寝泊まりするのが嫌と言われたらそこまでだが。
「どこの部屋をどう使うかは、グレアムさんに決めておいてほしい。とりあえずこれで屋敷の方は一通り見終わったが、この物件グレアムさん的にはどう思った?」
「気に入った――というのも烏滸がましいぐらい良い物件というのが感想だな。ここが本当に買えるのであれば、ここで決めたいと思っている」
「ふふふ、そう思ってくれたのなら良かった。後は俺が全力で交渉するだけだな」
この物件が買えるのであれば本当に嬉しいが、ギルド長のためにも過度な期待はしないでおこう。
逸る気持ちを抑えつつ、ギルド長と共に俺は残りの場所も見て回ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます