第117話 最後の会話
宿屋に戻ると、既にギルド長が戻ってきており、どうやらすぐにアポを取ることができたらしい。
サリースは冒険者ギルドで待っているとのことなので、ジーニアとアオイを呼んですぐに向かうとしよう。
魔王軍が向かってきていたということもあり、冒険者ギルドはまだ喧騒としている。
冒険者達でもみくちゃになっている間を抜け、俺達はギルド長室へと向かった。
「おお! グレアム、ジーニア、アオイ。もう来てくれたのか」
「忙しそうなところすまないな。もうビオダスダールに戻ろうと思っているから、最後の挨拶を済ませたいと思って来させてもらった」
「グレアムは王都を救ってくれた英雄なのだから、時間を取るのは当たり前だ。それにしても……もう戻ってしまうのか。もう少し落ち着いてから、盛大に労おうと思っていたのだが」
「王都には長居し過ぎたからな。労いは今回の戦いに参加し、王都に残っている冒険者達にしてあげてくれ」
「グレアムがそう言うのであれば、冒険者達を労わせてもらうとするよ」
サリースは複雑な表情をしつつも、俺の言葉に従ってくれると約束してくれた。
「そうしてくれるとありがたい。とにかくサリースには本当によくしてもらった。初めての王都を満喫できたのはサリースのお陰だ。本当にありがとう」
「グレアムが礼を言うのはやめてくれ。王都に呼び出したのは私の方だし、助けてもらったのも確実に私の方。この恩は一生忘れない。私にできることなら何でも言ってくれ。大抵のことはできるだろうし、グレアムのためならするつもりだ」
マックスに続き、サリースまでも嬉しいことを言ってくれる。
深い交遊関係が作れただけでも、王都に来て良かったと思えるな。
「これは心強いな。困った時は互いに助け合おう」
「ああ、そうだな。これまで以上にビオダスダールとは頻繁に連絡を取り合っていきたいと思っている。その辺りの複雑な話はドウェインとするとして……グレアムにはプレゼントを渡さないとな」
「この間のやつか? それは遠慮なくもらっておきたいな」
途中でギルド職員から魔王軍襲来の報告があったため、アイテムを受け取っていないままだった。
誰でも【ヒール】が使用できる杖は欲しいため、これだけは受け取っておきたい。
「ああ。私も受け取って欲しいと思っていたんだ。えーと、確かこの棚にしまったはず。――あった!」
サリースは後ろの棚を漁り、この間見せてくれた三種のアイテムを取り出した。
そして俺の前に置くと、受け取るように促してきた。
「この間は三つの内から一つと言ったが、やはり全て受け取って欲しい。どれも使えるアイテムだから役に立つはずだ」
「いやいや、流石に三つ全ては受け取れない。仲間の形見のアイテムなんだろう?」
「形見といっても生きているし、思い出の品ってだけだからな。グレアムが有効活用してくれた方が良い」
サリースはそう言ったが、流石に三つも受け取るのは悪い気がしてしまう。
どれも金で買えるアイテムではないし、更に形見の品となったら余計にな。
「いや。やはりこの間言ったように【ヒール】の使用できる杖だけ――」
「グレアムさん。ここは受け取ってあげて欲しい。同じギルド長だから分かるが、これを受け取ってもらえないと引け目を感じたまま過ごすことになる」
俺が断ろうとしたところ、ギルド長がそう進言してきた。
他の人よりも多く魔物を倒しただけなのだが……サリースも力強く何度も頷いているし、ここは受け取ってあげた方が良いのかもしれない。
「……サリース、本当に大丈夫なのか?」
「もちろん。ドウェインが言っていたことが全てだ。私のためにもグレアムには受け取ってほしい」
「分かった。そういうことならば遠慮なく受け取らせてもらう。本当にありがとう」
「グレアムに必要なアイテムかどうかは怪しいところだが、大事に使ってくれたら嬉しい」
「もちろんだ。大事に使わせてもらう」
頭を下げて礼を伝えてから、グランドウッドの杖、とこしえの帽子、奇跡の盾を受け取った。
俺が実際に使う機会がありそうなのはとこしえの帽子くらいだが、ジーニアやアオイは確実に装備するべきアイテムのため、大事に使わせてもらうとしよう。
「私からのプレゼントは以上だ。後はビオダスダールまでの馬車を手配させてもらう。明日の朝一で大丈夫か?」
「明日の朝一で大丈夫だ。何から何まですまないな」
「これぐらいは当たり前の対応だぞ。それでは馬車を手配しておく。……せっかく仲良くなれたのに寂しくなるな。一つ提案があるのだが、グレアムさえ良ければ――」
「駄目だ! サリースと言えど、グレアムさんへの勧誘は許さねえぞ!」
「チッ、……まだ何も言っていないだろうが」
「言わんとすることがすぐに分かった! 勧誘だけは絶対に認められない!」
「ギルド長が途中で遮ったが……俺自身の意見としても王都に移り住むことはない。誘ってくれたのは素直に嬉しいが、ビオダスダールでやらなければならないことがあるんだ」
「……そうか。グレアムがいてくれたら百人力なんだが、それならば仕方がない」
「やはり勧誘しようとしていたんじゃねぇか!」
ギルド長はサリースに食ってかかっており、俺を守るように両手を広げて反論している。
俺達はそんなギルド長を見て笑いながら、サリースとの最後の会話を済ませたのだった。
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