第116話 休息を終えて


 千を越える魔王軍を壊滅させた俺達は、ビオダスダールに戻る前に疲れを取るべく、宿屋で休息を取った。

 俺は数時間も寝れば疲れは完全に取れたのだが、ジーニアとアオイは思っていた以上に疲労が溜まったようで、丸二日間養生に専念した。


 リア、トリシア、モードの三人は、俺達が無事に戻ってくるかをかなり心配してくれていたようだが、無事に戻ってきたことを知ってからはいつも通り。

 体力も順調に回復しているようだし、骨と皮だけといった体も少しずつ肉付いてきた感じもあり、もう過度な心配はいらないだろう。


「グレアムさん、二日間も休んでしまってすみませんでした。もう完全に回復しましたので、いつでもビオダスダールに戻ることができます!」

「いやいや。焦っていた訳じゃないし、気にしなくて大丈夫だぞ。それに二人もかなり戦っていたからな。敵の数に異様な緊張感も相まって、普段よりも体の力が入っていただろうし回復に時間がかかったのは仕方がない」

「そうそう! そんな戦っている感じしなかったけど、グレアムが異様な数の魔物を倒していただけで私達もかなり戦ったからね!」


 謝罪をしてきたジーニアにフォローを入れると、俺の言葉にアオイが便乗してきた。

 ジーニアは何故か自分を責めていたため、こういうときのアオイは本当に助かる。


「アオイの言う通りだな。二人ともよく戦ってくれていたから休んで当然だ」

「それより……私はもうすぐにでもビオダスダールに戻りたい! 戦い終わった後にも言ったけど、ビオダスダールでゆっくりダラダラしたい気分!」

「それは私もですね! 王都も決して悪いわけではないんですが、私には少し賑やかすぎます」


 俺も二人と同意見だな。

 サリースがよくしてくれていたし、何一つ不便ではないのだが……やはりビオダスダールの方が落ち着く。


「魔王軍の襲来で戻るのが延びてしまっていたが、サリースに挨拶だけしてさっさとビオダスダールに戻るか。リア、トリシア、モードの三人も戻れるくらいの体力は戻っていそうだしな」

「よーし! 戻ろう、戻ろう! そうと決まれば帰る準備をしないと!」

「サリースさんとはすぐに会えるんですかね? 後始末でバタバタしていそうな感じがありますが」

「ギルド長に聞いてみる。とりあえず午後にまた迎えに来る」


 そう伝えてから、俺は二人と一時別れた。

 まずはギルド長にサリースの件を伝えて、その後はマックスに別れの挨拶を済ませておこう。


 俺はまとめるような荷物もないし、いつでも出立できるからな。

 そんなことを考えながら、俺はギルド長が寝泊まりしている部屋へと向かった。



 ギルド長にサリースに挨拶をしたいと伝えたところ、すぐに冒険者ギルドへ赴いてくれた。

 まだ会えるかどうか分からないことから、ギルド長一人で冒険者ギルドへと行ってしまったため、俺は予定通りマックスの元へと向かうことに決めた。


 最初は一応敵味方同士だったマックスだが、王都に来てからはかなりお世話になったからな。

 魔王軍の討伐に向かった際も。リア、トリシア、モードの三人を見守ってくれていたし、流石に帰る前に挨拶をしておきたい。


 もうなんてことのない闇市を進み、【グレーボランティア】の拠点にやってきた。

 構成員には既に俺の顔を覚えられたようで、マックスの下まですぐに案内してくれた。


「あっ、グレアム様! 今回も何か頼みごとですか?」


 こう何度も短期間に訪れたら、普通は鬱陶しく思われそうなところだが……。

 俺の顔を見るなり何故か嬉しそうにし、そう尋ねてきたマックス。

 

「いや、今日はこの間のお礼を兼ねて挨拶をしにきたんだ。もう近い内にビオダスダールに戻るからな」

「えっ!? もう戻ってしまうんですか? ……せっかく運命的な再会ができたのに寂しいです」

「まぁ遊びにきたようなものだからな。また王都に来ることもあるだろうし、今のマックスならビオダスダールにだって来られるだろ。そのときは……今度は俺がビオダスダールを案内する」


 【不忍神教団】ではなくなった訳だし、ビオダスダールに入ることができるだろう。

 案内できるほど詳しい訳ではないが、俺なりのもてなしはするつもりでいる。


「本当ですか!? グレアム様に案内してもらえるだなんて光栄です!」

「ただ、あまり期待しすぎないでくれ。……とにかく今回は色々と助けられた。闇市を案内してくれたこともそうだし、三人の面倒をみてくれたことも」

「助けられただなんて、そんなそんな! これぐらいのことでしたら、いつでもやらせて頂きます! 私に何かできることがありましたら、遠慮なくいつでもお声掛けください!」

「ああ、遠慮なく頼らせてもらう。俺も、俺にできることがあれば手伝うから言ってくれ」


 俺がお礼を言いにいったのに、何故かマックスの方がペコペコと頭を下げている逆転現象に軽く笑いつつ、マックスと別れて闇市を後にした。

 闇市には色々な面を見せてもらったし、決して好きではない場所だが、俺にとっては思い入れの強い場所になったな。

 しっかりと闇市の景色をこの目に焼き付けてから――アポを取りに行ったギルド長を待つため、俺は宿へと戻ったのだった。


 

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