第113話 決着
最初の内は耐えられる素振りを見せていた悪魔。
ただ、元の体には痛覚がないことから痛みには弱いようで、割と早い段階で限界を迎えた様子。
激しく体を揺らしながら、発狂に近い叫び声を上げ始めた。
それでも俺は剣を刺す手を止めず、箇所を変えながら揺さぶってグアンザの体から出て行くまで拷問を続けた結果——。
とうとう悪魔はグアンザの体を手放した。
グアンザの体から出てきた悪魔は真っ黒な人型の形をしており、呼吸は乱れていて肩で息をしている。
途中までは余裕そうな表情を見せていたが、この様子を見る限りでは相当堪えていたようだな。
もう少し続けていたら、即座に回復魔法をかけて治癒していたとはいえ、グアンザの体にも影響があったかもしれないし出て来てくれて助かった。
「――クソがァ……! 絶対にブチ殺してやる!」
「俺を殺すという契約を果たす前に体から出て良かったのか? それと……さっきまでのわざとらしい丁寧な口調はどうしたんだ?」
「人間風情が調子に乗りやがってッ……! この体となったからには本気で叩き潰してやる! いくら謝罪をしようが――許さないからなァ!」
目を血走らせ、黒い翼のようなものを羽ばたかせて怒鳴り散らかしている悪魔。
グアンザの体から出て、自分の体になったことで俺を殺せると思っているとようだが……この悪魔は一つ勘違いをしている。
「お前は一つ勘違いをしている。本来の体になったことで本気を出せるのはその通りだと思うが……逆も然りで俺も本気を出せるんだ。グアンザの体だったから手加減していたということを忘れていないか?」
「だから何だ? 人間の本気なんてたかが知れている! 悪魔の恐ろしさを思知らせて――」
俺は悪魔がそこまで言いかけたところで一気に近づいた。
ここまでは魔法での戦いだったため、ここからは刀を使った近距離戦を行うつもり。
ただ、近距離“戦”と言ったものの始まるのは一方的な攻撃。
実際に悪魔は飛び込んだ俺を目で追えておらず、先程まで俺がいた場所を睨んだまま。
そんな情けない表情を見上げながら、まずは腕を斬り飛ばした。
右腕が宙を舞って飛び、ここでようやく視線を俺に向けたが――全てがワンテンポ遅い。
悪魔がアクションを取る前に背後へと回り込み、次は羽ばたかせていた翼を捥ぐように斬った。
それから臀部についていた角のようなもの、左足の太腿、左の手首。
悪魔の体の回りを移動しながら斬り裂き――何の対応もできぬまま立てない体となった。
あれだけ目を血走らせながら、強い口調で威嚇していたのに情けない姿だな。
ただ、今の本来の体ではやはり痛覚がないようで、あれだけ発狂していた悪魔の反応が薄いのが少々面白くない。
そんな感想を抱きつつも、俺はバランスを崩して倒れた悪魔に刀を突きつけた。
「最後に言い残すことはあるか?」
「くふふふ。――ぶっ殺してやるッ!」
俺はそんな悪魔の最後の言葉を聞いてから、刀で首を斬り落とした。
撥ね飛ばした首が地面に落ちるなり、悪魔の体は灰のように崩れ去り、タイミングよく吹いた突風によって一瞬で跡形もなく消え去った。
これで王都に襲撃に来た魔王軍は完全に壊滅。
グアンザも救い出せたことだし、俺達の完全勝利といっていいはずだが……最後があっけなさ過ぎてあまり達成感のようなものはない。
せめて総大将であった悪魔の体が残っていれば、魔王軍を壊滅させた証のようになったんだけどな。
まぁ消えてしまったものは仕方がないし、サリース達も上から見ていたし大丈夫だろう。
「グレアムさん、圧勝でしたね! 必ず勝つと思っていましたが、あんな凶悪な魔物にも圧勝してしまうなんて……やはりグレアムさんは凄いです!」
「悪魔と向かい合った段階から負ける未来が見えなかったもんね! それを千近い魔物を倒した後にやってのけている訳だし……グレアムって本当にどれだけ強いの!?」
先ほどの戦いを見て興奮しているようで、体に力を入れて熱弁してくれている。
確かにメインで戦っていたのは俺だったが、今回は二人のサポートがあったから攻撃に集中できた。
二人は手放しで俺を褒めてくれるが、俺目線でいえば二人の力が本当に大きかった。
「今回は二人がサポートしてくれたってのが大きかった。集中して戦えたのは二人のお陰だし、死地での戦いに付き合ってくれて本当にありがとう」
「お礼を言われるようなことはしていません! ほとんどグレアムさんが倒した訳ですしね!」
「そうそう! 二人掛かりで後ろを守っていただけだし!」
「それが本当に大きかったんだよ。とにかくありがとう」
俺は謙遜している二人に頭を下げて礼を伝える。
「何もしていないのにお礼を言われるのは……ちょっと小恥ずかしいですね! と、とにかく戻りましょう! 後処理をどうするかをサリースさんに聞きに行きたいですし!」
「だねー! 本気で疲れたし、早くビオダスダールに戻って平和な日常を送りたい」
「そうだな。王都も楽しかったが、俺もビオダスダールに戻りたい気分だ」
アオイが漏らした吐露に賛同しつつ、俺達は高台へと戻ることにした。
申し訳ないが後処理の方はサリースに丸投げし、一足先に戻らせてもらうとしよう。
強敵はいなかったものの、千近い魔物との戦闘は流石に疲れた。
俺は軽く凝った肩をグルグルと回し、三人で感想を言い合いながら戻ったのだった。
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