第112話 悪魔


 グアンザの体を乗っ取っている悪魔は、微笑みながら自分に魔法を唱え始めた。

 身体能力を強化させる魔法のようで、一瞬で複数の魔法を唱え終わると同時に、見るからにグアンザの筋肉は肥大化した。


 これで多少は動けるようになったのだろうが……所詮はグアンザ。

 ここからどう動いてこようが、一向に負けるビジョンが見えない。


「禍々しいオーラを纏い始めましたね……! グレアムさん、どう戦いますか?」

「まずは攻撃が効くのかを試したい。前に戦った悪魔には痛覚がなく、痛みを感じていないようだった。ただ、今相対している悪魔はグアンザの体に入っているし、もしかしたら攻撃が効くかもしれない」

「よく分からないけど……とりあえず攻撃するってことだよね?」

「ああ。できるならグアンザも助けたいからな。攻撃が効くようなら助けやすくなる」


 俺を殺すために悪魔と契約した馬鹿だとしても、グアンザを助けるべきだと思っている。

 助けた後のことは分からないが、悪魔に乗っ取られたことで何か得た情報もあるだろし、サリースが上手いことやってくれるはずだ。


「グレアムって本当にお人好しだよね! あんな奴魔物より悪いんだし、殺したっていいと思うんだけど!」

「俺も少しやり過ぎた部分があるからな」

「――あっ、グレアムさん! きますよ!」


 会話の途中だったのだが、悪魔の方の準備が整ったようで攻撃を開始してきた。

 漆黒に満ちた剣を握っており、身体能力の強化魔法を使ったことからも分かる通り、悪魔は近接戦を仕掛けてきた。


「俺が戦うから、二人はサポートを頼む」


 そう告げてから、俺は刀を抜かずに二人の前に出た。

 先ほど話した通り、まずは攻撃が効くのかどうかを探る。


 禍々しい漆黒の剣を振ってきた悪魔の攻撃を冷静に見極めながら、軸足のふくらはぎを狙って蹴りを入れていく。

 悪魔の仰々しい攻撃に対して、カーフキックという地味な攻撃での対応。


 俺の地味すぎる攻撃に悪魔は首を傾げながらも、漆黒の剣を振りながら魔法で黒炎を作り、俺を殺しにかかってきている。

 戦いのド素人であるグアンザの体で、ここまで戦えているのは凄いと思うが……最初から想像していた通り、やられる未来は見えない。


 そして、軸足を狙ってカーフキックを叩き込むこと五発目。

 カーフへの蹴りを嫌がり、悪魔は軸足を守るように構えを変えた。


 表情や動きに変わりはないが、この構えの変化は確実に効いている証拠。

 人に取り憑いたことで、痛覚がうまれたのであればいくらでもやりようがある。


 まずは――【重力魔法 グラビティインクリース 】。

 圧死させないように威力を調整しながら、悪魔に対して重力魔法を放った。


「体が……急に……これも魔法ですか?」

「まだ動けるのか。なら、更に重くさせてもらう」


 徐々に重さを上げていき、圧死するであろうギリギリでようやく動きを止めた。

 表情は一切変わっていないが、悪魔は一歩も動けていない。


「味わったことのない……魔法ですね」

「もう動けないだろ? 降参するか?」

「くふふふ、まさか。こんな相手と戦えているのですから、この身が朽ちるまで戦わせて頂きますよ」

「そうか。なら、容赦なく、徹底的に、いくら泣きを入れようが容赦はしない」


 これが俺なりの最後の温情だった。

 悪魔といえど、痛ぶって殺す趣味はないからな。


 ……ただ、俺の手を握らないのであれば、心を鬼にして徹底的に痛めつける。

 【重力魔法 グラビティインクリース 】を発動させたまま、追撃で【絶対零度 アブソリュートゼロ】を唱えた。


 下半身を氷付けにしたことで、完全に悪魔の動きを封じる。

 そして、ここからは完全な拷問。


「ジーニアとアオイは高台に戻っていてくれ。後は俺だけでやる」

「いえ。私も最後までお付き合いします!」

「私も! グレアムに何かあったら嫌だし!」

「見るに耐えないものだが……大丈夫か?」

「もちろんです。魔王軍と戦うとなった時から、その覚悟はできていますので」


 二人には見せたくなかったのだが、ここまでハッキリと言ってきたなら無理に戻すこともない。

 俺は無言で頷いてから、【重力魔法 グラビティインクリース 】と【絶対零度 アブソリュートゼロ】で拘束している悪魔に向き直した。


 血管が破裂するのではと思うほど、力を込めて抜け出そうとしているが、一歩も動かせる気配がない。

 俺はそんな悪魔に近づき、足元に落ちている漆黒の剣を拾う。


「ここから行うのは拷問だ。先に謝っておく。すまないな」


 一方的にそう謝罪してから、俺はグアンザの腕に漆黒の剣を突き刺した。

 ここまで無表情を突き通してきた悪魔だったが、一瞬表情を歪ませた。


 俺はすぐに剣を引き抜き、血が流れ出る前に回復魔法で治癒させる。

 後はこれを繰り返し、悪魔が音を上げるまで続けるつもり。

 姿が人間であるグアンザなのが辛いが……俺はグアンザの体から悪魔を離れさせるため、拷問を開始したのだった。


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