第109話 先頭を歩くもの
ジュリアンが無事にパラサイトマタンゴを倒したことで、一切の統率が取れなくなった虫系の魔物達。
既に押され気味だった中で統率を乱した魔物達は、あっという間に冒険者達の手によって壊滅させられた。
「グレアムさん、お疲れ様でした。ジュリアンさんが凄かったですね!」
「ジーニアも見ていたのか?」
「はい! 最後だけでしたが、ジュリアンさんがパラサイトマタンゴと戦っていたところは全て見ていましたよ!」
「見えていたって絶対におかしい! 私も見たけど、米粒くらいの大きさだし何が起こってるのかここからじゃ分からないでしょ!」
「えっ? 私は普通に見えてましたけど……」
「俺も見えてはいたな」
「二人の目が良すぎるって!」
アオイは全く見えていなかったようで喚いており、同じく【白の不死鳥】のヒーラーであるセシルも見えていなかった様子。
目が良い自負がある俺でもギリギリ見えるぐらいの距離だったし、普通の視力なら何が起こっていたか分からないのが普通か。
「かなりハッキリと見えてたんですけどね。パラサイトマタンゴを出し抜いたところとか、攻撃手段として使っていた炎の鳥を囮にしたフェイントとか、本当に凄かったですよ!」
「ジーニアはそんなにハッキリと見えてたの? 当てずっぽうで適当なことを言っているとかじゃなくて?」
「俺はそこまでハッキリ見えていなかったな」
「当てずっぽうではないと思いますよ。ジュリアンは炎の鳥を産み出すスキルを持っていますので」
となると、本当に全て見えていたのか。
やはりジーニアの目の良さは図抜けている。
前々から分かってはいたが、この驚異的な視力は想像している以上に強力な武器になるはずだ。
「まだ色々と話したいが、感想についてはこの辺りに留めておこう。すぐに第七陣が来るだろうし、ここからはまた俺達の出番だ。……二人共、体力の回復はできたか?」
「はい! セシルさんとギルド長のお陰もあってバッチリです!」
「私も全快してる! 後方の魔物は任せておいて!」
二人もすっかり回復したようだし、前線で頑張ってくれた冒険者達の分も気合い入れて戦うとしようか。
頬を軽く叩いて気合いを入れ、俺達はサリース達と入れ替わるように再び前線へと赴いた。
第七、第八陣を難なく殲滅に成功させ、残る魔物も僅かとなってきた。
千を越える魔物を相手にするということで、途方もないようにも思えたが、終わりが見えたことで再び元気が沸いてきた。
「魔物の気配的にも残るは第九、第十陣で終わりだと思う」
「もう一生分の魔物を倒した気分だけど、もう一発気合いを入れて頑張る!」
「途中で休憩を入れることができたのが本当に大きかったですね! 私もまだまだ戦えますよ!」
ジーニアとアオイの体力も持ちそうだし、俺も魔力をまだ温存できている。
サポートする際に魔法を若干使用したが、それでも余力はまだまだあるからな。
ここからは魔力を温存することを考えず、全力で戦ってもいいかもしれない。
そんなことを考えた瞬間――奥に見えている魔物の動きに変化が生じたのが分かった。
どうやら第九陣と第十陣を一塊にしたようで、これまで以上に大きな塊となって迫ってきている。
二百近い魔物の塊は流石に迫力があるな。
「なんか……数が多くない!?」
「今までと同じ形式だとやられるだけだから、残りの魔物をまとめたんだろ。やることは特に変わらないし、何ならまとまってくれた方が戦いやすいまである」
「絶対に百体ずつぐらいのが戦いやすいけど……最終戦って感じで、怖さとワクワクで変な感じ!」
アオイがテンションを上げている横で、ジーニアの表情は一転してかなり曇っている。
数が多くなったぐらいで怖じ気づくような性格じゃないと思うんだが、何か感付いたことでもあったのだろうか。
「ジーニア、何か気づいたことでもあったのか?」
「……はい。気のせいかとも思ったのですが、魔王軍の先頭にいるのって――人間じゃないでしょうか?」
ジーニアがそう呟いたことで、俺は慌てて魔王軍の先頭を歩いているものを見る。
まだ遠くてぼやけているのだが……確かに人の形をしているように見える。
ただ、魔王軍に人間がいるとは思えないし、人形の魔物のだけなはす。
それか魔人の可能性もあるが……そこまで思考した時、何かに気がついたであろうジーニアが大きな声を出した。
「ぐ、グレアムさん! 先頭を歩いている人……ギルド長のグアンザさんです!」
「…………は? グアンザってあのグアンザか?」
「間違いありません! 確実にグアンザさんです!」
こんなつまらない嘘をつく訳がないし、そうなるとジーニアの見間違いかとも思ったが……目の良いジーニアが見間違えるのはほぼほぼありえないこと。
それにグアンザは今回の召集に応じなかったどころか姿すら見当たらなかったようだし、あの性格の悪さからも魔王軍に加担していてもおかしくはない。
……が、仮にも冒険者ギルドのギルド長が魔王軍と通じていた何てあり得るのか?
軍の先頭にいるということは、短い付き合いではなく長年関わっていたことになるだろうし……。
思考は一向にまとまらないまま、俺の肉眼でも捉えられる距離に近づいてきた。
確かにその姿は紛れもないグアンザであり、何が起こっているのか理解できないまま、俺は近づいてくる魔王軍を傍観することしかできなかった。
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