第108話 パラサイトマタンゴ
ジュリアンはパラサイトマタンゴのみに集中しているためか、道中で襲ってくる魔物は全て無視。
【白の不死鳥】の他の面々がサポートを行いながら、徹底してジュリアンを守る形を取っている。
後を追うサリース達も雑魚狩りに専念し、ジュリアンをサポートする選択を自然と取った。
グレアムの援護はそんな混沌とした状況の中でも際立ち、全員が嫌だなと思う位置にいる魔物を的確に【ファイアアロー】で射抜いてくれているお陰で、敵味方入り交じった大混戦の中でも誰一人欠けることなく戦えている。
そして全員が個の強い者で集まりながらも、ジュリアン以外が潰れ役を買ったこともあり、ジュリアンが無傷の状態でパラサイトマタンゴの下に辿り着くことができた。
ここまで一人で魔物を蹴散らしてきたグレアムが上で待機しているため、開戦してからグレアムが唯一倒せない敵。
自分が失敗したら潰れ役を買ってくれたみんなや、グレアムを休ませるという作戦が全て無に帰す。
その現実に強いプレッシャーを感じながらも、ジュリアンは小さく笑った。
『戦わなければもったいない』。
そんな軽い気持ちで挑んだグレアムとの一戦で、ジュリアンは確かな手応えを掴むことができた。
このパラサイトマタンゴとの戦闘は絶対に負けられない戦いであると同時に、掴んだ手応えを確かめることのできる絶好の機会である。
集中しつつも心は冷静に近づき、パラサイトマタンゴを視界に捉えた瞬間にジュリアンはスキルを発動させた。
「【血の炎鳥】」
【血の炎鳥】は、自らの血液を代償に炎の鳥を産み出すことができるとスキル。
魔法の使えないジュリアンにとっては貴重な遠距離攻撃の一つでもあるのだが、消費する血液の量で産み出される炎鳥の大きさが決まるため、身を削らなくては攻撃手段として用いるのは難しい。
その上、炎鳥といっても軽いホーミング機能のある【ファイアアロー】と同程度のため、遠距離攻撃は魔法の使える仲間に任せた方が良い。
――と、ジュリアンは以前までそう考えていたのだが、グレアムとの戦闘で遠距離攻撃の重要性を身をもって思い知った。
例え、ダメージがほとんど与えられなくとも、近距離戦闘に長けている人間が遠距離攻撃を持っているというのが大事であり、初見の相手には近接戦への警戒を薄れさせる。
初見ではない相手には、遠距離攻撃もあるということを意識させることができる。
そして今回はもちろんのことながら初見の相手であり、遠距離攻撃で戦うということをみせるために――ジュリアンは最大量の血液を消費させ、巨大な炎鳥を二羽産み出した。
パラサイトマタンゴの弱点が炎属性ということもあるからか、過剰に守りを固めたパラサイトマタンゴを見てジュリアンは静かに笑う。
以前のジュリアンにとっては力と力のぶつかり合いだった戦いが、今ではどう相手を出し抜くかの心理戦に近いものになっている。
上手く出し抜いた時の快感に酔いながらも、好機を逃さないためにギアを入れた。
守りを固めながら、距離を縮めてくるパラサイトマタンゴに対し、仲間にハンドサインを送って魔法によるバフを受ける。
バフがかかった瞬間に、産み出した炎鳥を上手く使って道を作り――パラサイトマタンゴの懐に一気に潜り込んだジュリアン。
パラサイトマタンゴにとっては意図していない動きだったのか、毒の胞子を出すタイミングが遅れた。
その僅かな隙を見逃さず、ジュリアンは得意のスキルを発動。
「【活気暴爆】【黄泉の雫】」
簡単に説明するのであれば、自爆と復活。
【白の不死鳥】のパーティ名の由来であり、敵にとって回避不能の自爆特攻。
その上、ジュリアン自身は体力が全回復するのだから、相手目線でこれほどまでに厄介なスキルはない。
この爆発は火属性であるため、パラサイトマタンゴには特攻であり……仮に弱点でなくとも、【活気暴爆】を耐えられたものはグレアムしかいない。
パラサイトマタンゴに操られ、自ら壁となりに来た魔物を巻き込み、ジュリアンを中心に超爆発が巻き起こる。
ジュリアンのスキルを知っている味方は距離を取って回避している中、一番近くにいたパラサイトマタンゴは跡形もなく消し炭となった。
そしてその爆発の威力が分かるクレーターのど真ん中で、【黄泉の雫】のスキル効果によって復活したジュリアンが勝利を意味する拳を突き上げた。
突き上げられた拳に呼応するように冒険者達から勝鬨が上がったのも束の間、サリースはすぐに冒険者達を引き攻め直し、残党の殲滅に取りかかる。
第六陣の大将であるパラサイトマタンゴを倒したものの、まだまだ魔物は残っている。
ただ、統率が完全に乱れて烏合の衆となった虫系の魔物に対し、気を引き締め直した冒険者達が負けるはずもなく――サリース主導であっという間に第六陣の魔物達を壊滅させたのだった。
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