第98話 優勝賞品
三人の体調も万全となり、もういつでもビオダスダールに戻ることができる。
王都も楽しかったが、ビオダスダールの街の方が落ち着くため早く戻りたいという気持ちが日に日に強くなっている。
……ただ、戻る前にサリースに呼び出されているため、今日は別れの挨拶も兼ねて冒険者ギルドに向かうことにした。
ジーニアとアオイは宿屋に残って三人の面倒を見てくれるとのことで、俺はギルド長と二人で冒険者ギルドへとやってきた。
「お礼をしてくれるとのことだったが、一体何をしてくれるんだろうな」
「全く検討もつかない。サリースのことだから、グレアムさんが喜ぶものを用意してくれているとは思うが」
「俺の喜ぶもの……か。俺でも分からないから普通に楽しみだ」
物欲はほとんどない。
帰りの馬車を手配してくれた――とかなら、普通に嬉しいがな。
そんなことを思考しながら、ギルド長室へとやってきた。
ノックをすると中からサリースの声が返ってきたため、扉を開けて部屋の中に入る。
「おお、グレアムとドウェインだったか!
……あれ? ジーニアとアオイの姿が見えないがどうしたんだ?」
「宿屋で留守番してくれている。闇市で奴隷を購入したから、その娘達の面倒を見ているんだ」
「ほー、グレアムが奴隷を……か」
笑顔で出迎えてくれたサリースだったが、奴隷という言葉を聞いた瞬間に表情が険しくなった。
王都のギルド長ということだけあり、奴隷というものを詳しく知っているのだろう。
敵意にも似た視線が送られているため、俺は弁明するために口を開いた。
「そう睨まないでも大丈夫だ。奴隷といっても働き手に困っていたから購入しただけ。酷い扱いをするつもりはないし、働きたくないというなら働かせるつもりもない」
「グレアムさんが言っていることは事実だ。そもそも俺が薦めて、グレアムさんは乗り気じゃなかったからな。働き手というのも孤児院のだから……サリースが思っているようなことじゃねぇ」
俺の弁明に続いて、ギルド長もフォローしてくれた。
その言葉を聞き、ようやくサリースの表情は和らいでくれた。
「いやいや……すまない。表情が強張ってしまっていたか。グレアムを疑っていたとかではないんだが、奴隷については思うことがあって険しい表情になってしまった」
「俺も同じく思うところがあるから、サリースが謝ることじゃない」
「…………まだ話していなかったのに、話が脱線してしまったな。今回訪ねてきたのは、交流戦終わりに私が呼んだからだよな?」
「ああ。近い内に王都を離れるつもりだから、その前にサリースに挨拶しておこうと思ったんだ」
奴隷について色々と話したそうにしていたが、言葉を呑み込んで話を戻したサリース。
俺としても、奴隷について王都のギルド長であるサリースと話したかったが、今は先にこっちの話をするべきだろう。
「そうか。やはりもう戻ってしまうんだな。とりあえず……私からいくつか優勝商品としてプレゼントを用意させてもらった。渡すものは一つだけだから、グレアムには選んでほしい」
「選択肢があるのか。一体どんなものか楽しみだな」
「そう期待されると困るが……早速プレゼントについて説明させてもらう」
サリースはそう言うと、机の下から一本の杖を取り出した。
パッと見はただのボロい杖にしか見えないが、使われている素材が一級品なのはよく見たら分かる。
「一つ目はこのグランドウッドの杖。普通の杖とは異なり、魔力を込めると決まった魔法が自動的に発動される特殊な杖だ」
「決まった魔法が唱えられる? その魔法っていうのは何なんだ?」
「【ヒール】の魔法だ。……おい、そうガッカリした顔を見せないでくれ。グレアムには不要かもしれないが、誰でも【ヒール】が唱えられるようになるっていうのは、凄まじく実用的なものなんだぞ?」
一瞬【ヒール】かと思ってしまい、実際に表情にも出してしまったが、確かに誰でも【ヒール】が使えるようになるというのは凄い。
ジーニアやアオイに持たせて、回復要員を一人増やしてもいいし……孤児院に置いておき、リア、トリシア、モードの三人が孤児院を運営するに当たって使用できるようにしてもいい。
俺が回復魔法を使えるから微妙というのはあまりに短絡的思考だった。
少し考えただけでも、これだけ使い方があるんだからかなり欲しい逸品。
「顔に出てしまったのはすまん。……ただ、改めて考え直したら凄い杖だな。普通にその杖が欲しい」
「本当にそう思っているのか? さっきの顔は本当に酷かったぞ?」
「いや、本当に思ってる。既に使い道もいくつか考えついているからな」
「それなら良かったが……まぁまだ用意したものはある。じっくり選んで決めてくれ」
一つ目から欲しいものだったため、この後の品も非常に楽しみ。
俺はワクワクしながら、サリースが用意してくれた二つ目の品の紹介を待った。
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