第97話 快調


 三人の奴隷だった女性を連れ帰ってから二日が経過した。

 ご飯をしっかりと与えつつ、眠っている間は回復魔法をかけるということを行っていたため、二日前はかなり衰弱していた様子の三人だったが、今はかなり元気になってくれている。


「グレアム様、今日もご飯をありがとうございます」

「本当にありがとう。グレアム様のお陰ですっかり体が良くなったよ」


 一番年上であろう女性は、俺が姿を見せるなり深々と頭を下げてきた。

 褐色の女性はサバサバとした感じではあるが、感謝の気持ちは凄く伝わる。

 ちなみに一番幼かった獣人の女の子は、俺の足に抱きついている状態。


「とにかく元気になったみたいで良かった。何か困っていることとかはないか?」

「何もございません。奴隷なんかの私たちのために、ここまでしてくださり本当にありがとうございます」

「それならいいんだが、まずは自己紹介からしようか。まだ名前も名乗っていなかったからな」


 誰に聞いたのかは分からないが、三人共に俺の名前を知っているみたいであるが、まだ自己紹介をしていない。

 そもそも会話できるような状況じゃなかったからな。


「俺の名前はグレアムだ。三人を購入したが、奴隷のように扱う気は一切ないから安心してほしい」


 俺が自己紹介がてらそう伝えると、驚いたような表情を見せた二人。

 やはり相当稀なケースではあるようだ。


「全然コキ使ってくれて構わないぞ? グレアム様になら殴られても恨むことはないと断言できる」

「殴る訳がないだろ。働いてはもらうつもりだが、奴隷として扱うことはないと断言する」

「…………本当によろしいのでしょうか? 私たちはただの奴隷ってだけでなく、欠損部位のある不良品。グレアム様が期待してくださる働きもできない可能性があります」

「そういうことなら俺も同じだ。俺も左腕がないし、出来ないことを頼むつもりはない。それに……自分のことを不良品なんてもう二度と言わないでくれ」


 あまりにも悲しすぎる言葉。

 ……不良品という言葉は常に言われ続けてきた言葉であり、年長者である彼女は特に刷り込まれているのだろう。


「そんな慈悲のお言葉をかけて貰ったのは……もしかしたら初めてかもしれません。グレアム様、本当にありがとうございます」

「当たり前のことであり、お礼を言われるようなことじゃない。……三人には名前はあるのか? あるなら教えてほしい」


 俺がそう尋ねると、俺の足に抱きついていた獣人の女の子が服の裾を軽く引っ張ってきた。


「……ん? どうかしたか?」

「名前はあったけど、グレアム様につけてほしい。……駄目?」


 獣人の女の子は上目遣いでそう懇願してきた。

 名前すらも酷い記憶と結びついているからこそのお願いなのかもしれない。

 俺は頭を優しく撫でながら、名前をつけてあげることに決めた。


「分かった。名前は――リア。今日からリアと名乗ってほしい」

「……リア。……ふふ、ありがとう。大事にするね」

「二人にも名前をつけてもいいか?」

「もちろん。グレアム様につけてほしい」

「私も是非お願い致します」

「トリシアとモード。二人は今日からそう名乗ってくれ」


 年長者である女性にはトリシア。

 褐色肌の女性にはモードと名乗るように伝えた。


 気に入らない名前だったら、すぐにでも変えるつもりだったのだが……。

 二人共に嬉しそうに微笑んでくれており、俺が付けた名前を気に入ってくれた様子。


「グレアム様、ありがとうございます。今日からトリシアと名乗り、グレアム様のために生きることを誓います」

「私も同じく。頂いたモードの名に恥じぬよう、グレアム様のために命を賭して生きることを誓う」

「その気持ちはありがたいし嬉しいが、そんなに気負わなくて大丈夫だ。これまで辛かっただろうししばらくは何も考えずに楽しく過ごしてくれ」


 凄まじい忠誠心を見せてくれているが、孤児院で働いて貰いたいだけだからな。

 働きたくないなら、別に強制的に働かせるつもりもないし……酷い扱いを受けていた分、これからは楽しく生きてほしい。


「私もグレアム様のために頑張る。……助けてくれて本当にありがとう」


 リアはそう言いながら、俺の足をぎゅっと力強く抱きしめた。

 俺はその悲しすぎる感謝の言葉に思わず涙が溢れそうになったが、俺が泣いていい訳がないと思い直しグッと堪える。


「私もリアと同じ気持ちです。助けて頂き、本当にありがとうございます」

「グレアム様に助けてもらっていなければ、私たちは死んでいたも同然だった。グレアム様、本当にありがとう」


 この二日間、俺の行ったことは正しかったのか常に自問自答していたが……三人からの感謝の言葉を聞き、救えて良かったと心の底から思えた。

 助け出した時に誓ったように、俺はリア、トリシア、モードの三人が生きてきて良かったと思えるように――全力でサポートし続けると改めて心に決めたのだった。


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