第99話 急報
杖を机の上に置いた後、次は後ろの棚を探り出したサリース。
取り出したのは黒いとんがり帽子で、かなり埃を被っている。
「あった、あった。二つ目はこの帽子だ」
「その帽子? あまり身に着けたくない形の帽子だし、埃を被ってるってことは長年しまっておいたものなのか?」
「ああ。このグランドウッドの杖もそうだが、私が……いや、私の仲間が冒険者時代に使用していたものなんだ。だから埃は被っているが、決して使えないものではないぞ」
「使えるものだというのは分かる。というか、仲間との大切な品なのに俺に渡していいのか?」
「もちろん。こうして棚の中で埃を被っているより、実際に使われた方がいいだろうからな。それに思い出の品ではあるが遺品って訳ではない。気にせず選んでくれ」
笑ってそう言ってくれたサリース。
そういうことならば、特に気を使わずに遠慮なく選ばせてもらおう。
「分かった。好きなものを選ばせてもらう。ちなみに、この帽子はどんな帽子なんだ?」
「この帽子はとこしえの帽子と言って、魔力の回復を早めてくれる帽子だ。防御力も低いし、非常に被りにくい帽子ではあるが……効果はかなりのものだぞ」
「魔力の回復を早めてくれる帽子か。魔法使いには最適の装備だな」
「ああ。グランドウッドの杖もとこしえの帽子も、私のパーティの魔法使いが使っていた装備だ。魔法職には本当に最適だと思うぞ」
攻撃魔法しか使えなくとも、グランドウッドの杖があれば回復が行える。
そして、とこしえの帽子を装備していれば魔力の回復が早まる。
……相乗効果を考えたら、二つとも欲しくなる逸品だ。
「最後の三つ目の装備も同じ魔法使いが使っていた装備だ。えーっと……どこにしまっていたっけな」
次はクローゼットを探し始めたサリース。
すぐに見つけることができたようで、クローゼットから引っ張り出したのは少し錆びた青銅の盾だった。
三つの中では明らかに質で劣っている。
ただ、何かしらの特殊な効果が付与されている盾のはずだ。
「見つけた。これが最後の品なんだが……この盾は奇跡の盾というものだ」
「奇跡の盾? パッと見た限りではただの青銅の盾にしか見えないな」
「材質は青銅だから間違ってはいないな。ただし、この盾は面白い効果がついている」
「面白い効果?」
「ああ。魔力を流すと硬化するんだ。更に魔法も防げるようになる」
「へー……そんな盾があるのか。聞いたことすらなかった」
「元々は普通の青銅の盾として作られ、そして普通に売られていたみたいだからな。そんな中、とある冒険者がこの盾の特殊な効果に気がついた」
「そんな効果が付与されているのに、有名な魔道具師が作ったものとかではないんだな」
「同じ工程で作られた無数の青銅の盾を調べたようだが、この効果が付与されている盾はこの一つだけだったらしい。故に奇跡の盾と名付けられたみたいだ」
生まれた経緯も非常に面白い盾。
効果は言わずもがなだし、この奇跡の盾に関して言えば俺も使いどころのあるもの。
……まぁ片腕しかないため、盾を構えると武器が構えられなくはなるが。
「最後の品も欲しくなる逸品だな。相乗効果が凄まじいから、全て欲しくなってしまう」
「ふふ、この三つの元の所有者は同じだからな。この三つを装備することで一気に強くなることができる。……ただ、流石に三つ全てはあげられないが」
「そんな贅沢を言う気はない。一つ貰えるだけでもありがたすぎる」
どの品も金では買えないレベルのもの。
それを一つくれるというのだから、お礼を伝えることはあっても文句を言う気など更々ない。
それで何にするかだが……本当に迷うな。
俺が使うとしたら確実に奇跡の盾。
ただ俺をこれ以上強化したところでって感じもあるし、そもそも片腕の俺には盾はいらない。
それを考えたら魔力が豊富な人もいないし、杖か帽子だろう。
…………実用性を考えたら、グランドウッドの杖だな。
帽子は俺も使えなくもないが、このとんがり帽子を身に着けることはまずない。
ならば、だれでも使える杖が一番実用的なはず。
「決まった。このグランドウッドの杖を――」
俺がそこまで言いかけたところで、部屋の扉が勢い良く開いた。
ノックもなしに、扉をぶち破る勢いで入ってきたギルド職員らしき人物。
ノックもせず、そして無駄に音を立てて扉を開けたことに対し、サリースは眉をひそめている。
俺らがいる手前怒りはしなかったのだが、普段だったら確実にチクリと言われていたはず。
「ノックもしないで入ってきてどうした?」
「南の方角に大量の魔物がいるとの目撃情報が入りました! で、冒険者に調査依頼を出したところ――千に近い数の魔物の軍が王都に向かって進んでいるとのことです!」
「な、なんだと!?」
千に近い数の魔物群れ。
自然に発生することはまずあり得ない数だ。
そうなると、考えられるのは理由は魔王軍の襲撃ただ一つ。
答えが出た瞬間に、嫌な思い出がフラッシュバックし肌がヒリつく。
これは……死闘になることを覚悟した方がいいだろうな。
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