第94話 奴隷商
話の流れでマックスが闇市を案内してくれることになった。
『グレーボランティア』のリーダーとして動いている今も、闇市には頻繁に訪れているらしい。
顔も広いとのことで、今回の事情を説明したらマックスの方から申し出てくれた。
「危険な場所と思われがちですが、知っていればそう怖くない場所です! 行き場のない人間が集まる場所という意味合いが強いですので」
「そうなのか。ということは、マックスはそんな人達の支援を行っているって認識で合っているか?」
「はい! ですので、俺がいれば協力してくれると思います。ちなみにですが……どんな奴隷を求めているとか要望はありますか?」
奴隷の要望か……判断するというこたなら、一番下を見たい気持ちが強い。
俺が買わなければ処分されたり、殺されたりしてしまうような人。
売られている奴隷の一番下を見なければ、判断できないと俺は思っている
「長らく売れていない奴隷がいる店を案内してほしい」
「そうなりますと、奴隷商ヨハンのところですかね。……ただ、かなりショッキングですが大丈夫でしょうか?」
「ああ、覚悟して来ているから大丈夫だ」
俺の要望にマックスの空気感が変わったのが分かった。
それはジーニアやアオイも察知したようで、これまでになく真剣な表情でマックスの後についていく。
移動の際も色々と闇市のことを教えてくれたのだが、頭には一切入ってこない。
マックス以外はほぼ無言の状態で、例の奴隷商のところへとたどり着いた。
「ここが奴隷商ヨハンの店です」
「分かってはいましたが、相当汚いお店ですね」
「うん。人を売買しているとは思えないかも」
「中はもっと衝撃的です。……大丈夫ですか?」
「ジーニアとアオイ、それからギルド長は外で待っていてくれ。三人が付き合う必要はないからな」
「……俺は一緒に行く。ジーニアとアオイは外で方がいい」
「え? 私もついていきます」
「私も!」
マックスがこれだけ注意するということは余程。
オーガとの戦闘で色々と見てはいるだろうが、これはまた別種だからな。
ついてくると言っているが、二人には外で待機してもらおう。
「心意気は嬉しいが、やはりジーニアとアオイはひとまず待機していてくれ。大丈夫と判断したらすぐに呼ぶから」
「…………分かりました。不本意ではありますが、グレアムさんがそう仰るなら待機します」
「えー! 私はそれでもついていきたいけど……ジーニアが待つって言うなら待つ」
「二人ともありがとう。それじゃ先に三人で中に入ろう」
ジーニアとアオイには外で待機していてもらい、三人で見るからに怪しい奴隷商の店に入った。
外観から酷かったが、中も相当酷い。
色々とボロボロな上に薄暗く、何と言っても酷い悪臭。
野生の獣の臭いが充満しており、入った瞬間に劣悪な場所だということが分かる。
「これは……想像以上に酷い場所だな」
「闇市で一番下とのことでしたので。他の希望があるなら別のお店を紹介しますよ?」
「いや、ここでいい。というか、ここを見ないと始まらない」
見たくないという気持ちも強いが、ここで引き返す選択肢はない。
マックスを先頭に店内を進んでいき、見えてきたのは雑に作られた鉄の檻。
その鉄の檻には乱雑に金貨五枚という値札が貼られており、その鉄の檻の中には三人の女性が力なく倒れていた。
三人とも見るに耐えないほど痩せ細っていて、髪の毛や肌を見るに何十日もお風呂に入れていないことが分かる。
そして一番特筆すべきは、三人の女性ともにいずれかの四肢が欠損していること。
それが理由で売れておらず、こういう雑な扱いをされているのだろう。
店に入ったときに感じた恐怖の心は既になく、今覚えているのは激しい怒りのみ。
呼吸が荒くなるのが分かり、人が人に対してこういう扱いをしている事実に強い憤りを覚える。
「……マックス、決めた。とりあえずこの三人は全員購入する」
「えっ? そんな即決して決めていいのですか?」
「ああ。その代わり限界まで値段交渉をしてくれ。少しでも旨味があると思わせたくない。最悪、俺が武力行使に出ても構わない」
「…………わ、分かりました。グレアム様が武力行使に出たら、この場がとんでもないことになると分かっていますので、全力で値段交渉をさせて頂きます!」
マックスは自分の胸を一つ叩くと、そう気合いを入れた。
それからすぐに、この店を取り仕切っているヨハンという人物を大声で呼んだ。
「あぁん? 誰だよ。そんな大声を出すな。うぜぇな。……って、マックスじゃねぇか」
店の奥から出てきたのは、髪の薄い長髪の男。
不潔さが全面的に出ており、想像する奴隷商そのものといった容姿。
この男が、奴隷商ヨハンか。
不快度でいえば……グアンザよりも圧倒的に不快だな。
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