第85話 圧倒的


 審判という立場を忘れ、思わず目を奪われる圧倒的な動き。

 【紅の薔薇】の連携もよく練られていて、うごきも決して悪くはなかった。


 リーダーであるカトレーヌの一撃は、近くで見ていた私ですら完璧に捉えたと思ったぐらいだしな。

 ……ただ、グレアムは余裕で対処し、そして返しの前蹴り一発でカトレーヌを瞬殺。


 三人の首を斬り飛ばしたのは、正直何をやったのか分からなかった。

 ドウェインが太鼓判を押していた時から、強いのだろうとは思っていたが、まさかここまでの人物だったとは。

 周囲の人間達も、あまりの圧勝ぶりに完全に静まり返っている。


「グレアム、まずは勝利おめでとう」

「ああ。サリースも審判を務めてくれてありがとう」

「ふふっ、私は開始と終了の合図しかしていないがな」

「グアンザを詰めていた時は、静観していてくれただろ?」

「いや、ちょっと呆けてただけだ。グアンザに何かしたのか?」

「そういうことにしておこう。次の試合の審判もよろしく頼む」


 そういうことにしておこうーーと言われても、本当にボーッとしていただけなんだが……。

 何か勘違いをしたまま、ドウェイン達の下に戻っていったグレアム。


 それしても、やはり話しているだけだと一切オーラを感じない。

 強者というのは、特有のオーラを纏っているものなんだがな。


 とにかく……私自身もグレアムと戦ってみたくなった。

 やってくれるかは分からないが、後で頼んでみるとしよう。




※    ※    ※    ※




 とりあえず【紅の薔薇】に勝てて良かった。

 対峙したときから勝てるとは思っていたが、何が起こるのか分からないのが戦いというもの。


 戻ってきたグアンザからはずっと睨まれているが、完全なる負け惜しみで睨まれるのは心地が良い。

 それに……俺が視線を向けると、視線を外して見ていなかったフリをする。


 グアンザには、完全に立場を分からせることができたと思っていいだろう。

 さて、次の試合なのだが、俺達とグアンザ並みに因縁があると思われる【サクラ・ノストラ】対【白の不死鳥】。

 俺の予想では【白の不死鳥】の完勝だが、果たしてどうなるだろうか。


「ひょっひょ。あのグレアムとやらが想像以上に強くて、場が完全に白けて完全に白けてしまっておるが……関係なく潰させてもらうぞい」

「シロ爺には本当に感謝をしていますので、戦いたくはないのですが……戦うにしても、もっと盛り上がっている時に戦いたかったですね」

「それは同感じゃな。ドウェインがかましてきただけじゃと思っておったが、あのグレアムとかいう中年……。SSランク冒険者に匹敵する力を持っておる」

「優れた人物を見るときになる、シロ爺の目が真っ赤になっているのを久しぶりに見ました。それだけの人物ってことですか?」

「そうじゃな。お前さん達がどうでもよくなってるぐらいにはーー化け物じゃと思ってよい」

「それは…………少し妬けますね」


 意外にも穏やかな感じで、何やら長話をしているシロ爺と【白の不死鳥】のリーダーであるジュリアン。

 それから握手を交わした後、審判であるサリースが前に出た。


「いよいよ始まりそうですね! さっきまでは緊張してましたが、関係ない試合だとワクワクします!」

「確かに! Sランク冒険者同士の試合なんて見られないもんね! グレアムはどっちが勝つと思う?」

「【白の不死鳥】だな。【サクラ・ノストラ】が嫌いっていう個人的な主観が大いにあるが」


 そんな雑談をしている内に、戦闘が開始された。

 最初に動いたのは【サクラ・ノストラ】であり、全員が一斉にジュリアンに斬りかかっていった。


 後衛がゼロという極端な構成のため、試合開始直後から要り組んだカオスな状態になっているが……ジュリアンは冷静に対処している。

 太刀のような武器を上手く使い、【サクラ・ノストラ】の攻撃をいなしつつ、味方に指示を飛ばして的確に攻撃。


 ただ【サクラ・ノストラ】も想像以上に個々の能力は高く、ジュリアンが捌き切れなかったところを一気に二人がかりで仕留めにかかったがーー何らかのスキルでジュリアンが閃光と共に爆発。

 巻き添えを食らい、一気に二人やられたのだが……ジュリアンは平気な顔をして立っている。


 確実に自爆したように見えたが、消えていないということは自爆はしていないということ。

 一気に数的不利となった【サクラ・ノストラ】は押され始め、意地で魔法使い一人を斬り殺したがーージュリアンに殲滅され、【白の不死鳥】の完勝で試合が終わった。


「ハイレベルな戦いでしたね! あの白い人強いですよ!」

「二人を殺したあの技は何なの!? 端から見ていたのに全く分からなかった! グレアムは分かった?」

「いや、爆発したように見えたんだが……よく分からないな」

「グレアムさんでも分からない攻撃だったのですか! これは一番の強敵かもしれませんね」


 剣捌きも中々のものだったし、【白の不死鳥】と戦うのは非常に楽しみ。

 【サクラ・ノストラ】も悪くはなかったが、単純な近接戦一択なら負けようがない。


 注意するべきは戦前の予想通り、【白の不死鳥】と【バッテンベルク】だけだな。

 次はどことやるかだが……サリースが手招きをして俺を呼んでいる。


 そのサリースの隣には、【バッテンベルク】の女二人組がいるため、次の対戦相手は【バッテンベルク】のようだ。

 戦うのが楽しみではあるが、未知の相手のため油断は一切せず叩きのめすとしよう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る