第86話 バッテンベルク


 サリースに呼ばれたため向かうと、【バッテンベルク】の女二人組であるゾーラとソニアは俺に深々と頭を下げてきた。

 俺も会釈を返してから、サリースに話を伺う。


「俺達の次の対戦相手は【バッテンベルク】なのか?」

「ああ。次は【バッテンベルク】と戦ってもらう。【紅の薔薇】がグレアムに派手にやられたせいで、まだ準備が整っていないようだからな」

「なるほど。それでまだ戦っていない【バッテンベルク】との試合というわけか」

「そういうことだ。準備はできているか?」

「ああ。一戦目は一切疲労していないし、すぐにでも戦える」


 準備運動にもならなかったくらいだし、早く戦いたい気持ちが強い。

 【バッテンベルク】のリーダーであるデュークには興味があるため、剣を交えるのが非常に楽しみだ。


「ということだが、【バッテンベルク】の方も準備は大丈夫か?」

「もちろん大丈夫でございます」

「グレアム様、よろしくお願い致します」

「ああ。こちらこそよろしくお願いする」


 ゾーラとソニアの二人と握手を交わしてから、俺は一度ジーニアとアオイの下に戻った。

 

「サリースさんに何て言われましたか?」

「もう次の試合らしい。【バッテンベルク】とだ」

「あの小さい子のところか! そこそこ強いんだっけ?」

「俺のパッと見の印象だが、【紅の薔薇】や【サクラ・ノストラ】よりは強いと思った」

「負けた二組よりも強い――ですか。手強そうですね」

「パッと見はただの子どもにしか見えないのにね! Sランク冒険者なんだから凄い!」


 あの年齢でどれだけの強さを持っているんだろか。

 【紅の薔薇】の時のような気持ちはゼロで、ただ純粋に楽しみな気持ちだけで戦えるのは嬉しい。


 三人で色々と感想を言い合いあってから、俺達はサリースの前に立った。

 【バッテンベルク】も向かい合うように立っており、リーダーのデュークは俺を睨んでいる。


「両者共に準備はできていそうだな。それじゃ早速だが始めさせてもらうぞ」

「ああ、いつでも大丈夫だ」

「私達もいつでも大丈夫です」

「なら位置についてくれ。第三試合——始めッ!」


 サリースの合図と共に、試合が開始された。

 両者共に様子見の状態であり、誰一人として動こうとしない。


「き、来ませんね。どうしますか?」

「向こうから来てほしかったんだが……来ないなら俺から行くか」

「私達は後方待機?」

「ああ。すまないが、この交流戦では出番がないかもしれない」

「ふふっ、全然構いませんよ! グレアムさん、やっちゃってください!」

「私は少し戦いたいけど……やっちゃっていいよ!」


 二人からの許可ももらえたことだし、攻撃開始といこうか。

 刀を抜き、まずは二人組の女であるゾーラとソニアから仕留めるとしよう。


 俺は抜いた刀を振り、飛ばす斬撃にて首を飛ばしにかかる。

 【紅の薔薇】は対応できなかったため、ゾーラとソニアも対処できないと踏んでいたのだが――。


 二人は構えた剣で軽々と防いできた。

 やはり強いと思っていただけあって、単純な攻撃は防いでくるか。


「――おお。やはり凄い攻撃ですね」

「見えないので、手に衝撃が来たときは驚きます」

「……でも、もう対処はできるよな?」

「はい。射程距離が長いだけの剣撃であり、振りが大きいですので何も問題ございません」

「初見でしたら対応できていませんでしたが、タネさえ分かれば簡単です」

「流石は俺の見込んだゾーラとソニアだ」

「「ありがとうございます」」


 俺の飛ばす斬撃を防ぎ、余裕そうな態度でそんな会話をしている三人。

 本当は三人ともに実力を確かめながら、ゆっくりと倒すつもりだったが……今の一撃だけで対応できると思われたのは少し悔しいな。


 もったいない気もするが、ゾーラとソニアの二人は飛ばす斬撃で仕留めてしまうとしよう。

 そう決めた俺は、小さく口角を上げてから刀を構える。


 今まで行ってきたのは、首元を狙った単純な攻撃だが……ここから行うのは連続での攻撃。

 果たしてゾーラとソニアの二人が対応できるのか見ものだな。


 まずはゾーラに狙いを定め――刀を振り下ろす。

 初撃は対応してきたが、すぐに二撃目、三撃目と斬撃を飛ばしていき、刀を振る度にその速度を上げていく。


 最初は俺の振りを見ながら楽に対応してきたが、速度が上がるにつれて反応が鈍くなり……そして、とうとう飛ばす斬撃がゾーラの腕を掠めた。

 鮮血が飛び散り、小さく声を漏らしたゾーラ。


「攻撃が……速いですっ! まだまだ速くなり――これは対応できません! デューク様お気をつけください!!」


 その言葉を最後に、俺が飛ばした斬撃がゾーラの首を捉えた。

 空を舞うと同時に光の粒子に包まれ、ゾーラはダンジョンの外へと消えていった。


「一戦目を見ていたから分かっておりましたが、あのお方本当にお強いですね。デューク様どうなされますか?」

「あいつの攻撃をもう少し見させてくれ。ソニア、悪いが犠牲になってほしい」

「分かりました。少しでも多くの攻撃を誘い出します」


 ソニアはデュークを守るように俺の前に立つと、笑顔で攻撃を行うように挑発してきた。

 これが実戦ならば、わざわざ誘いに乗るようなことはせずに魔法か何かで倒すところだが、デュークがどう対応してくるかも気になるため――俺はソニアにも飛ばす斬撃で攻撃を開始。


 ゾーラへの攻撃を見ていたからか、ゾーラよりも長く耐えてきたが……ガードが間に合わずに十八撃目で絶命。

 あっという間に残ったのはデュークだけとなり、心細くなっているかと思いきや――デュークは楽しそうに無邪気な笑みを見せた。


 その笑顔は子供らしくはあったが、強がっているようには見えないため何かしらの対策を思いついたのだろう。

 一辺倒で面白くないかもしれないが……どう対応してくるのか気になるため、ここは飛ばす斬撃で仕留めにかかるとしよう。



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