第84話 お灸


 俺の言葉を聞いた金髪の女は、脇の下に挟まっているレイピアを引き抜こうとしたのだが、俺がガッチリとホールドしているため抜くことができない。

 レイピアを諦めれば、もう少しだけ長く生きられたと思うのだが……俺からレイピアを取り返すべく殴りかかってきた。


「このおっさんが――返しやがれっですわ!」 

「両手を使っても剣を抜けないということは、単純に力負けしているんだから逃げないと――な」


 女性に手をあげるのは抵抗があったが、これは真剣勝負の場。

 中途半端に手加減をすると、かえって苦しめることになるため――俺は全力で前蹴りを放った。


 金髪の女の頭は一瞬で潰れ、そして首があらぬ方向に曲がった。

 一瞬の静寂が流れた後、周囲から軽い悲鳴が聞こえる。

 俺自身も少しショックを受ける絵面だったが、すぐに光の粒子に包まれてこの場から消えた。


「まずは一人。それもリーダーだったっぽいが……まだ戦うか?」


 リーダーがあまりにもあっさりとやられたことで、残っている【紅の薔薇】の面々に緊張感が走った。

 このまま降参してくれれば、これ以上手を出すことはしないんだが……。


「おいッ! 何を止まってやがるッ! さっさとそこにいる片腕のおっさんを殺せ!」


 そんなグアンザの怒声を聞き、再び体勢を整え出した。

 これはもう……流れ弾が当たったとしても文句は言えないな。


 試合を無駄に長引かせても意味がないため、俺はグアンザに流れ弾が当たってもおかしくない位置取りを行い――。

 飛ばす斬撃で残っている四人中三人を斬り裂きながら、後方にいるグアンザの腕を斬り飛ばした。


 【紅の薔薇】の三人は、首を撥ねたことで瞬殺。

 グアンザだけは腕を斬り飛ばしただけで留めたことで、地面を這いつくばりながら大騒ぎしている。


「Sランク冒険者が一瞬で壊滅……。やっぱりグレアムさんは凄いです!」

「ねぇグレアム。グアンザが倒れてるけど、あってわざと?」

「ああ。ムカつくからわざと生かしてある」

「少し可哀想ですけど……苦しんでいる姿を見て、スカッとしてしまうのは私の性格が悪いからですかね?」

「大丈夫! 私も気分がいいし!」

「あの状態にした俺が一番性格悪い。とりあえず……二人には約束していた通り、残っている一人を倒してもらいたい」


 そう告げてから、わざと生き残らせた魔法使いの女を見た。

 ほんの少し前までやる気だったし、遅いかかってくるかと思ったのだが……。


「――ひ、ひぃッ! す、すみませんっ! こ、降参します!」


 握っていた杖を手から放し、両手を上げて降参してしまった。

 三人一気に瞬殺は、少しばかりやりすぎてしまったか。


 知能の低い魔物じゃないんだし、恐怖を与えたら降参してしまう。

 ジーニアとアオイに経験を積ませてあげられなかったのは残念だが、こればかりは仕方がない。


「あれ……? あ、あっさり終わってしまいましたね」

「グレアムが強すぎるんだよ! 私とジーニア、本当に突っ立ってただけなんだけど!」

「弱い相手が悪い。それじゃ俺は……グアンザのところに行ってくる」


 二人が戦っている間も苦しんでてもらおうと思ったのだが、降参してしまったから早く決着がついてしまった。

 そして決着がついたからには、あのまま放置というのもまずいため、俺は倒れながら喚いているグアンザの下に向かった。


「――うグああアアア!! いでェー! いでェよ、ぢくしょオおお!!」

「グアンザ、大丈夫か? すまないな。偶然、グアンザにも当たってしまった」

「て、てめぇ!! グレアム”ー! 絶対に許さねェぞ!!」

「こうして謝っているのにな。それで……許さないってどうするつもりだ? ご自慢の【紅の薔薇】は一人を残して死んでしまったぞ?」

「殺すッ! 殺してやるッ! ――うガぁッ、いでェよ」


 目を血走らせ、唾を撒き散らしながら吠えているグアンザ。

 既に胸がすくような気持ちではあるが、グアンザには詫びの一つでも貰わないとな。


「殺してやる? 色々と違うぞ。腕が痛いんだろ? なら、殺してくれ――だろ? 死ねばその痛みから解放されるぞ」

「……は?」

「すみませんでした。ドウェインのことはもう二度と馬鹿にはしません。――ほら、早く言え」

「だ、誰が……お前なんかに謝る――」

「殺すのだって技術と力がいる。もし殺し損ねたら、今の何倍も苦しむことになるぞ」

「……………………」

「謝罪と約束だけで痛みからも解放されるんだ。ちっぽけなプライドを捨てろ」


 だらりと大粒の汗を流したグアンザ。

 周囲からの視線を感じるが、俺は構わず謝罪を要求する。


「……す、すみ……ま、せんでした。も、もう……ドウェインを……馬鹿には……」

「声が小さくて聞こえない」

「すみませんでしたァ! もう二度とドウェインを馬鹿にはしない! だ、だから――俺を殺してくれェ!」

「ああ。分かった」


 謝罪と約束を聞いてから、俺は刀を引き抜くと同時にグアンザの首を撥ねた。

 首が宙を舞うと同時に、グアンザの体は光の粒子に包まれて消えた。


 少しやりすぎた感はあるが、あれぐらいやらないとグアンザは懲りないだろうからな。

 俺は納刀しつつ、特等席で見ていたギルド長の下に向かう。


「終わったぞ。……やり過ぎだったか?」

「いいや、あれでも足りねぇくらいだ。……グレアムさん、ありがとうな! めちゃくちゃスッキリしたぜ」

「ふっ、それなら良かった。俺もスッキリできたからな」


 二人で笑いあったところで、サリースによって試合終了の合図が出された。

 結果は俺達の圧勝。グアンザにもお灸を据えることができたし、最高の結果と言えるだろう。

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