第83話 交流戦
交流戦が始まる前に、俺は自死を試してみることにした。
本当に復活するのか半信半疑だから試すのだが、半信半疑だからこそ自殺するのも怖い。
「それじゃ俺の装備品とかは回収しておいてくれ。復活したらすぐに戻ってくる」
「わざわざ試す必要ないと思うんだが……エリアスさんがそうしたいなら止めない。装備品の回収は任せてくれ。裸で復活されるから、部屋の中にある服を着るんだぞ」
「ああ、分かった」
ギルド長に返事をし、ジーニアとアオイが心配そうに見つめる中——俺は恐怖を振り切って自分の首を自分で撥ね飛ばした。
強烈な痛みが体を襲ったのも一瞬、すぐに死んだと判定されたようで、気がつくと俺は知らない場所で倒れていた。
「これは…………本当に不思議だな。そして、面白い体験ができた」
死んだと思った次の瞬間にはこの部屋で倒れており、素っ裸で首の傷は少し残っていない。
記憶障害も恐らくなく、体はピンピンとしている。
とりあえず……本当に死んでも大丈夫なんだろう。
俺はギルド長に言われた通り、すぐに部屋の中に置いてあった布の服に着替え、先程の場所まで急いで戻る。
さっき俺が死んだ場所では、ギルド長が俺の装備品を持っていてくれており、ジーニアとアオイの二人がソワソワとしているのがこの距離からでも分かった。
「待たせてすまない。死んで戻ってきた」
「本当に良かったぁ……! グレアムさんの首が飛んだところはかなりショッキングでしたので、本当に死んじゃったのかと思いましたよ!」
「死を初めて体験できたし、中々に貴重な体験だった」
「……痛かった?」
「痛かったが、即死だったからそこまでだったな。俺が死んだ後はどうなっていたんだ?」
「血とかも出ずに、体が粒子みたいになって消えた! そしたら、グレアムが戻ってきたって感じ」
なるほど。やはり魔力が関係していそうだな。
そんな雑談を行いつつ、俺はギルド長から返してもらった装備品を身につけた。
これでもう準備は万全であり、いつでも本気で戦うことができる。
「ちなみに作戦とかは立てないのか? 【紅の薔薇】は入念に話し合っているみたいだぞ」
「いらないだろ。四人は俺が一人でやるから、ジーニアとアオイは一人を倒してくれ」
「一人を倒せばいいんですね! Sランク冒険者でも、二対一なら勝てる気がしてきました」
「余裕で勝てるだろ。本当なら二人に全員倒してもらいたいところだが……今回は俺が買った喧嘩だからな」
成長のチャンスをあげられないのは残念だが、【紅の薔薇】さえよければ、後でまた模擬戦をさせてもらえないかお願いすればいい。
今回の交流戦は手を抜かないことを決めたため、ジーニアとアオイには悪いが二人の出番はほとんどないだろう。
「……お。向こうも準備ができたようだぞ」
「それじゃ行ってくる。ギルド長はこの特等席から見ていてくれ」
「ああ。グアンザの悔しがる顔を見させてもらう」
「狙えたら、流れ弾もぶち当ててくる」
「ふっはっは、白金貨百枚に流れ弾は流石に鬼だな」
笑うギルド長に親指を立て、俺達はコロシアムの中央に向かった。
真ん中には審判を務めるであろうサリースがおり、反対側からは【紅の薔薇】がやってきた。
やはりSランク冒険者なだけあって、身に付けている装備品は一級品のものばかり。
俺やジーニアと比べると天と地ほどの差がある。
「両者とも揃ったな。第一試合だが緊張はしていないか?」
「しておりません。Eランク冒険者に負けるなんてありえませんから」
「Eランクじゃなくて、俺達はDランクだ。……俺も全く緊張はしていない。天地がひっくり返ろうとも負けないからな」
「よくそんな大口が叩けますわね。昨日から思っておりましたが、あなたは身の程を知った方がいいです」
姿勢良く俺を指を指してきたリーダーであろう金髪の女。
まぁ普通に考えたら、片腕のおっさんなんかに負けるなんて思わないか。
「ふふっ、戦いの前からバッチバチでいいな。それじゃ早速始めるが大丈夫か?」
「ああ」
「ええ。大丈夫です」
「それでは位置についてくれ。第一試合——始めッ!」
サリースの掛け声により、【紅の薔薇】との試合が開始された。
開始と同時に動いてきたのは【紅の薔薇】であり、後衛の二人が魔法を唱え始めた。
前衛の三人は突っ込んできており、一歩前に出ているのはリーダーであろう金髪の女。
武器はレイピア。何らかのスキルを使用しているようで、一歩踏み込むごとに速度が上がっている。
狙いはどうやら俺一人のようで、まず後衛二人が唱えた魔法が俺に向かって飛んできた。
その魔法が放たれたと同時に金髪女が間合いに踏み込み――高速の突きを心臓目掛けて放った。
連携も完璧。対応させないための工夫もあり、Dランクのおっさんだからといって、手を抜くようなこともしていない。
流石はSランク冒険者といった一連の攻撃だったが、俺を仕留めるには……あまりにも遅すぎる。
「まずは一人。瞬殺ですわ!」
突き行った体勢でドヤりながら、そう言葉を漏らした金髪の女。
刺した感触もあったから仕留めたと思ったのだが……魔法による煙が晴れると同時に、俺と金髪の女は目が合った。
笑みを見せていた金髪の女だったが、俺が消えていないことに違和感を覚えたようで、徐々に表情が固まっていく。
そしてゆっくりと視線を落とし――その視線の先には俺の脇の下を通っているレイピアの刃。
「思っていたよりも良い攻撃だったぞ」
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