第82話 未知の場所
ダンジョンは地下にあるようで、冒険者ギルドの下がダンジョンに繋がっているようだ。
特に受け付けなんかもする必要はなく、ギルド長が軽く話しただけでダンジョンの中へと通された。
「それでは奥でサリース様がお待ちしております」
「分かった。ありがとう」
通してくれたギルド職員にギルド長がお礼を伝え、俺達はダンジョンの中に足を踏み入れた。
なんというか……不思議な場所だな。
辺り一帯は大量の魔力で包まれており、一歩踏み入れただけなのに別世界のような印象を受ける。
体が浮くような不思議な感覚だ。
「ここがダンジョンの中ですか。かなり不思議な場所ですね」
「ダンジョンは相当謎の多い場所だ。何百年と研究されているのに、未だ未知の部分の方が多いからな。グレアムさんは何か感じるか?」
「ああ。この場所は魔力が相当多い。周囲の魔力を使えば……とんでもない魔法を使えると思う」
「グレアムが言うとんでもない魔法ってなに!? 怖すぎるんだけど!」
「絶対に使わないでくださいね! ダンジョンが崩壊してもおかしくありませんから!」
「俺はちょっと見てみたい……」
慌てて止めにきたジーニアとアオイ。
流石に使うつもりはないが、ダンジョン内は魔法を試すのにもってこいの場所ではあると思う。
「安心してくれ。流石に使わない。それより、ダンジョンの不思議なところって何なんだ?」
「まずはダンジョン内では死んでも大丈夫ということ。どういう仕組みか分からないが、死んでもダンジョンの外に出されるだけなんだ」
「私もそれは聞いたことある! 実際にやったことはないけど!」
「なんだそれ? そんなことがあり得るのか?」
「ああ。だから、ダンジョンは非常に人気が高い場所だ。その代わり……身に付けていたものはその場に残されるから、取りに行けないと失うことになるがな」
それは不思議で片付けられる話じゃないな。
確実に人智を越えている現象。
この膨大な魔力が、何かしら関係している可能性が高そうだ。
「ちなみにだが、俺のように片腕を失った場合とかはどうなるんだ? ダンジョンを出た瞬間に治るのか?」
「いや、“死”以外はそのままだ。片腕を失ったままダンジョンを出てしまうともう戻らない。四肢を欠損してしまったら、自死して生き返るというのがダンジョンの中では正しい行為だな」
「死ななきゃいけないってのは恐ろしくもありますが、手足を失っても大丈夫というのは凄いですね!」
俺の腕も戻るのかと少し期待したが、死んでも戻ることはないのか。
「だからこそ、サリースはダンジョンを交流戦を行う場として選んだんだろう。本気の殺し合いができる唯一の場だからな」
「てことは、交流戦はパーティ同士での殺し合いが行われるの!?」
「そうだ。殺しても大丈夫だからこそ全力で戦える。近くにダンジョンがある街では、喧嘩になったらダンジョンで戦うってのが割と通例になっているしな」
改めて凄い世界だな。
本気で殺しにいっても大丈夫というのは面白そうだが、本当に生き返るのどうかが非常に怖くもある。
後で、自殺して試すとしよう。
自分で体験できれば、本気で戦えるからな。
「――っと、そんな話をしていたら着いたぞ。ここがダンジョンを改造して作った特注のコロシアムだ」
「こんなものまで作ってるのか。それに意外とギャラリーが多い」
「魔動カメラは切ると言っていたが、直接見に来る者の目は塞げないか。交流戦の噂を聞きつけた奴らだろな」
ザッと五十人くらいはおり、既にわーわーと騒いでいる。
他の人に見られるとなると戦いづらいが、これぐらいならまぁいいか。
「よし、ドウェイン達も来たな。これで全員集まったことだし、早速交流戦を始めようと思うがいいか?」
「ヴぁっはっは! もちろん大丈夫だぜ! ドウェインがデカい口を叩いた日から、俺はずっとこの日を待ちわびていたからな!」
「ふぉっふぉ。ワシらも大丈夫じゃ。……【白の不死鳥】どもは覚悟するんじゃな」
「私も大丈夫ですよ。見学からでしょうが楽しませてもらいます」
「俺達も大丈夫だ。いつでも始めてくれて構わない」
ギルド長全員が了承の声を上げ、その声を聞いたサリースは楽しそうにニヤリと笑った。
「ふふっ、準備が早くて助かる。まずはルール説明からさせてもらう。ルールは簡単でパーティ同士での戦いだ。全滅するか降参を宣言するまで戦ってもらう。一応制限時間は無制限だが、あまりにも消極的な戦いをしたところは私の独断で負けにさせる。装備品の使用はありだが、魔道具及び戦闘アイテムの使用は禁止。……とまぁ、ルールはこんなもんか。何か分からないことはあるか?」
「俺達は三人パーティなんだが、五対三で戦う感じか?」
「いや、基本的には数の少ない方に合わせてもらうが……グレアムは昨日、五人相手でも倒せると言っていたよな?」
サリースは挑発するような笑みを浮かべておら、明確には言っていないが五対三でやれということだろう。
「ヴぁっはっは! グレアムゥー、残念だったなぁ!! 弱い上に数的不利。てめぇらに勝ち目はねぇ! 金を賭けたいくらいだぜ!」
親指を下に立て、ムカつく顔で煽ってきたグアンザ。
本当に腹の立つ顔だな。
「金を賭けたいなら金を賭けるか? 俺達か【紅の薔薇】の勝敗で白金貨百枚」
「てめぇみたいなDランク冒険者が白金貨百枚持ってんのか?」
「面白そうだな。私が見届け人となるぞ」
「サリース、本気で言ってんのか?」
「なんだ? あれだけ言っていて、まさかビビったなんてことはないよな?」
「……くっ、くっく、ヴぁっはっは! いいぜぇ、その賭けに乗ってやるよ! ただし、キッチリ白金貨百枚頂くからな!」
「ああ。俺達が負けたらしっかり払ってもらう」
煽りに言い返したことで、とんでもない額の賭けが成立した。
流れ弾で大怪我を負わせてやろうと考えていたが、白金貨百枚は流石のギルド長といえど重いだろう。
負けたら俺もヤバくはあるのだが……まず負けないだろう。
ただ、プライドも金も失わないために本気で戦うとしようか。
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