第81話 ダンジョン


 サリースと食事を取った翌日。

 昨日は美味い料理にサリースの面白い過去の話を聞くことができ、そのお陰もあって心身ともにベストなコンディションを作れた。

 朝から軽く準備を行い、いよいよ指定されたダンジョンへと向かう。


「グレアムさん、おはようございます! これから交流戦ですよ! ……緊張しませんか?」

「俺は全くしていないな。戦う相手も昨日見ることができたし、まず負けないと思っている」

「流石グレアム! 凄い自信だね!」

「俺もグレアムさんなら、【紅の薔薇】を瞬殺できると思っている。どう戦うか、そして勝敗をどうするかは全て任せるが、今のところはどう考えているんだ?」

「俺は全勝しか考えていないぞ。散々馬鹿にされてイラッときたし、ギルド長の念願だったサリースの上に行くって夢も叶えてあげたいからな」


 【白の不死鳥】だけはリーダーしかいなかったため、確勝は約束できないが……リーダーを見る限りなら大丈夫なはず。

 ジーニアとアオイも頼りになるしな。


「ふっ、ありがたいが気負わなくていいぞ。俺の抱えているのはただのコンプレックスだからな」

「だとしても、自分が見つけた冒険者がサリースの用意した冒険者に勝ったら嬉しいだろ?」

「そりゃ……嬉しいって騒ぎじゃねぇな。散々馬鹿にされたグレアムさんが、Sランク冒険者全員を蹴散らすところは見たい。――が、これはあくまで俺の願望だ。グレアムさんが嫌う目立つ行為だし、どうするかは全てグレアムさんの思う通りにやってくれていい。手を抜いての全敗でも俺は文句を言うつもりもない」

「安心してくれ。さっきも言った通り全勝を目指す。……まぁ本気でやって負ける可能性はあるが」

「それは絶対にないと俺が断言する。本気で戦うグレアムさんに勝てる人間なんて存在しないからな!」


 少年のような笑みを浮かべて、勝手にそう断言してきたギルド長。

 絶対にそんなことはないし、買い被りすぎなのだが……こう言ってくれるのはシンプルに嬉しい。


「ですです! グレアムさんが負けるはずありませんから!」

「まぁ……考えられないね! 私は想像の中でもグレアムに勝てないし!」

「あまりハードルを上げてくれるな。あっさり負けたら恥ずかしいだろ」


 そんな会話を交わしつつ俺達は王都を出発し、近くにあるというダンジョンへ向かった。

 ダンジョンというくらいだから、てっきり森の中とか山岳地帯にあるのかと思っていたのだが……見えてきたのは大きな街のような場所。


「王都から歩いて数十分くらいの距離なのに街があるのか?」

「いや――ここがダンジョンだ」


 ギルド長の発言に目を疑う。

 ダンジョンらしきものは見つからない……というか、俺はダンジョンを見たことがないのだが、確か魔物が大量に出てくる場所だったよな?


「こんな人で賑わっている場所にダンジョンがあるのか?」

「ああ。ダンジョンには冒険者が集まるからな。魔動カメラで中の映像も外で見ることができるし、一種の大きな娯楽の一つになっている。そんな娯楽がある場所には必然的に人が集まり、商売が始まって活性化。街のようになるのは割と必然的だ」


 そういうものなのか。

 確かに中を見てみると、発展した経緯がよく分かって面白い。


「わー、お祭り騒ぎになってますよ! ……こんな中で交流戦を行うんですか?」

「ダンジョンの中だし、魔動カメラは切るとサリースは言っていたから大丈夫なと思うぞ」

「うひゃー! 初めてのダンジョン楽しみだなー!」


 雰囲気に気圧されているジーニアとは対照的に、お祭り騒ぎの雰囲気を楽しんでいるアオイ。

 ただ戦闘中だと、危険な状況で燃えるのがジーニアで気圧されるのがアオイ。

 色々と正反対なのだがめちゃくちゃ仲が良いし、二人に関しては色々と謎なんだよな。


「ヴぁっはっは! ドウェイン、逃げ出さなかったみてぇだなァ!!」


 二人の反応の違いを見て楽しんでいたところに声を掛けてきたのは、不快な声をしているグアンザ。

 耳を塞ぎたくなるようながなり声に加え、無駄にデカい声量。

 態度も悪いし、絶対にギルド職員から嫌われているだろうな。


「勝てる戦いなのに逃げるわけがない。グアンザも残念だったな。せっかく現れたSクラス冒険者に、いきなり土をつけることになるだから」

「ヴぁっはっは! この期に及んでもまだそんな口が叩けるのは感心だな! 試合が始まるまで、せいぜいイキッているだな!」


 そう言い、大笑いしながらダンジョンの中に消えていったグアンザ。

 本当に一々癪に障る奴だ。


 恐らく俺達に突っかかるために入口で待っており、言うだけ言って消えていったのもイライラポイントが高い。

 ギルド長も俺と同じ気持ちのようで、握る拳が強くなっているのが分かる。


「本当にムカつきますね! あのグアンザってギルド長!」

「あのアホ男は戦わないんだもんね? 出てきたらボッコボコにしてやるのに!」

「なんとか引きずり出せないのか? 正直、【紅の薔薇】よりもグアンザを懲らしめたいんだが」

「グアンザは元冒険者でもないし、引きずりだすのは無理だな。……ただ間近で見ることになるはずだから、偶然巻き添えを食らった――とかなら一泡吹かせられるかもしれない」

「ほぉー……。それは良いことが聞けた」


 グアンザには絶対に一泡吹かせる。

 俺はそう強く決意し、交流戦の会場であるダンジョンの中に入ったのだった。


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