第79話 因縁


 やはりサリースは他の冒険者と比べても別格。

 目に見えないがオーラみたいなものを纏っており、グアンザが動きを止めたのも納得がいく。


「グアンザ、また暴れているのか? 前にも争うのはやめろと言っただろ」

「こいつが俺を挑発するようなことを言ってきやがったんだ! 絶対に分からせてやる!」

「――やめろ。今回は交流会。それに実力を分からせるというなら後でできる。今回は試合形式で戦ってもらうつもりだからな」


 サリースのその発言で場が一瞬張り詰めた。

 他のギルド長達も聞いていなかったようで、周囲を窺うようなスタンスを取り始めた。


 そんな中、いち早く笑ったのはグアンザ。

 俺を睨みながら笑った後、ギルド長を指差して叫んだ。


「ヴぁっはっは! そりゃおもしれェ! なら俺のところと、ドウェインのところをやらせてくれ! 前回からそうだが、因縁があるし見てる奴らもおもしれェだろ!」

「五組しかいないから総当たりなんだが……まぁいい。初戦はグアンザとドウェインのところで決まりだな。ふっ、グレアムの力はみんな気になっているだろうしな」


 サリースは嫌みなく言ったのに対し、周囲からは嘲笑が起こった。


「グレアム、残念だったなァ! お前の寿命も残り後僅かだ! 大衆の前で恥をかかせてやるから見ておけ!」


 ムカつく顔で煽ってきたが、まぁもうなんでもいい。

 目立つのが嫌だったし、適当に過ごしてビオダスダールに帰ろうと思っていたが完全に気が変わった。

 グアンザも【サクラ・ノストラ】もボコボコにしてやりたいし、ギルド長にサリースよりも良い成績を残してあげたいって気持ちもある。


 唯一、【バッテンベルグ】だけは特に戦う理由がないのだが……一番強そうだし、どんな攻撃を用いてくるのか楽しみにしよう。

 そんなことを考えていた中、話が一段落ついたところで――冒険者が一人、会議室の中に入ってきた。


 肌も髪も白い、非常に中性的な男。

 服装も白いため、本当に全てが真っ白で如何にも病弱って感じの見た目をしているんだが……気配は圧倒的。


 【バッテンベルグ】のリーダーよりも気配は強く、隣に立ったサリースにも負けない位の存在感。

 恐らくだが……この男は王都の冒険者代表だろう。


「話が一段落したところで紹介させてもらうが、王都の冒険者代表が【白の不死鳥】だ。今日はリーダーだけだが、交流戦では全員揃わせるから安心してくれ。【白の不死鳥】に関しては馴染みある者が多数だから、わざわざ紹介する必要はないと思うが」


 その白い冒険者の紹介をされた瞬間、シロ爺が立ち上がって思い切り睨み付けた。

 よく分からないのだが、あの白い冒険者とシロ爺に何か因縁めいたものがあるのかもしれない。

 名前も互いに白がついているしな。


「サリース、よう連れてきてくれたのう。ジュリアン、ワシはずっと会いたかったぞ」

「……私は会いたくなかったのですが」


 やはり過去に何かあったようで、ジュリアンと呼ばれた白い冒険者は非常に気まずそうにしている。

 【白の不死鳥】がジュリアン以外のメンバーが来ていないのも、シロ爺に会いたくないからって理由が強そうだ。


「そこの因縁も面白そうですね。私のとこの【バッテンベルク】は必然的に最後になりそうです」

「ここは譲ってもらうぞい。【白の不死鳥】は確実に倒したいからのう。そのために今回は【サクラ・ノストラ】を高い金払って連れてきたんじゃ」


 何かよく分からないが、交流戦の初戦はもう決まったらしい。

 俺達と【紅の薔薇】。【サクラ・ノストラ】と【白の不死鳥】。


「ぐ、グレアムさん。だ、大丈夫ですかね……? Sクラス冒険者と戦うって正気じゃありませんよ」

「大丈夫だと思う。ギルド長が言っていたように、実際に見てみたら負ける気がしない相手だった。多分だが――俺の方が強い」

「うちのリーダーは本当に頼もしいね! 私とジーニアも最低限のサポートはするから!」


 ちなみに【紅の薔薇】に関しては、二人が中心に戦っても勝てそうな感じはある。

 ただ……グアンザがムカつくから、俺が徹底的に叩かせてもらうが。


「よし、話し合いを行う前に決まったな。交流戦は明日行うから、各自ダンジョンまで来てくれ。試合はダンジョン内で行う」

「ヴぁっはっは! てめェらの命も明日までってことだ! サリース、もう用は済んだから帰っていいよな?」

「この後みんなで食事でもと思っていたんだが、交流戦を行うとなったら食事会って気分でもないか。……ああ、作戦を立てるでも何でも好きに時間を使ってくれ」

「うっし、じゃあ俺達は帰らせてもらう!」


 グアンザは最後まで俺を睨みつけたまま、【紅の薔薇】を連れて会議室を後にした。

 続いて部屋の出て行ったのはジュリアンであり、シロ爺の目を気にしてそそくさと出て行った。


 それからシロ爺率いる【サクラ・ノストラ】、眼鏡のギルド長率いる【バッテンベルク】が出て行き、最後に部屋に残ったのは俺達とサリース。

 部屋の中はピリついていたのだが、サリースは満面の笑みを浮かべていて本当に楽しそうにしているな。


「ふふ、どうだ? ドウェイン達だけでも一緒に食事をするか?」

「いや、俺達も今日は早めに――」

「あっ、行きたいです! 私はサリースさんのお話が聞きたい!」

「私も行きたいですね! グレアムさんはどうですか?」

「俺は……二人が行くなら行く」

「よし、決まりだな。ドウェインも来ないとは言わないよな?」

「…………分かった。その代わり、良い店に連れていってくれよ」

「任せてくれ」


 こうして最後に残った俺達とサリースで食事を行うこととなった。

 アオイとジーニアは、相当サリースのことを気に入っているっぽいな。

 男だとサリースは少し気後れしてしまうのだが、同じ女性だと憧れの対象って感じなのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る