第78話 一悶着


 席に座ったのだが、周囲からの注目が凄まじい。

 ギルド長が啖呵を切ったことが影響しているのか分からないが、かなりの注目を浴びている。


「ヴぁっはっは! おーい、ドウェインさんよぉ! 例の“グレアムさん”ってのはそのおっさんのことなのかァ?」

「ああ。そうだ」

「……うっくっく、ヴぁっはっは!! おい、聞いたかよ! 何の存在感もないただのおっさんが“グレアムさん”だとよ!! それに、このおっさん片腕までねぇじゃねぇかァ!」


 机を叩き、腹を抱えて笑っているグアンザ。

 馬鹿にされるのは慣れているとはいえ、ここまで堂々と馬鹿にしてくる奴はいなかったな。

 割と本気でムカつくし、ギルド長が手を出したのも納得できたのが良かった。


「ふぉっふぉっふぉ。これこれ、グアンザ。笑いすぎるのはよくないぞい」

「シロ爺だって笑ってるじゃねぇか! まぁビオダスダールは元々ネタ枠だしどうでもいいわ! サリース以外は揃ったことだし、自己紹介といこうぜ! まずは俺のところからだな! 最近Sランク冒険者パーティに認定された【紅の薔薇】だ!」


 グアンザの紹介と共に、やる気なさそうに軽くお辞儀した女性冒険者達。

 【紅の薔薇】は一切悪くないのだが……この中では一番弱い冒険者パーティを引き連れているのに馬鹿にしてきているのが更にムカついてくる。


「べっぴんさんで羨ましいのう。それじゃ次はワシの街の冒険者パーティじゃな。【サクラ・ノストラ】じゃ」

「……おいおい爺さん。強い冒険者が集まるって聞いていたんだが、女に子供にそれから片腕の弱そうなおっさん。期待外れもいいところじゃねぇか」

「これこれ、挑発するようなことを言うんじゃない。これはあくまでも交流会じゃからな」

「雑魚と交流することなんてねぇよ。爺さん、報酬は二倍払ってもらうからな」

「そりゃ、これからの仕事次第じゃな。二倍じゃろうが三倍じゃろうが払わせてもらうわい」


 こちらもこちらで嫌な会話をしている。

 【サクラ・ノストラ】と名乗ったスキンヘッド集団は常に威圧的だし、【紅の薔薇】よりかは気配は強いが……別にこちらも大したことはない。

 ギルド長が言っていたように、Sランク冒険者といってもまちまちであり、そうでもない者が多いのかもしれない。


「やれやれ、血の気が多くて嫌ですね。私が連れてきたパーティは【バッテンベルク】。ダンジョン都市で一番強い訳ではないのですが、今回は一番の才能を連れてきました」

「バッテンベルク家の使用人をしております。ソニア・エルガーと申します」

「同じくバッテンベルク家の使用人をしております。ゾーラ・ダウンズと申します」


 リーダーであろう少年の後ろに控えていた女性二人が、丁寧な挨拶と共に深く頭を下げた。

 やはりお辞儀の所作一つを見ても無駄がなく、相当強いことが分かる。


「そして真ん中に座っているのが、【バッテンベルク】のリーダーのデューク・ウィリアム・バッテンベルクです」


 眼鏡をかけたギルド長が代わりに自己紹介をし、デュークと紹介された少年は無表情のまま動かない。

 愛想は悪いが……【サクラ・ノストラ】の面々に比べたら、絡んでこないだけマシだろう。


「最後は俺か。俺が連れて来たのは……あれ? グレアムさん、パーティ名ってあったか?」

「いや、つけていないな」

「はァ?? パーティ名もないような奴を連れてくるとは何考えてんだァ! ヴぁっはっは、どうしようもねぇ嘘を吐くとここまで滑稽なことになるんだな!」

「――っち。こっちの男性がグレアムさんで、その隣がジーニア。そして一番奥がアオイだ」


 アオイの名を言った瞬間に、冒険者達も含む全員の視線が寄った気がする。

 サリースもアオイのことは知っていたし、俺が思っている以上に有名人なのかもしれない。


「グレアムだ。よろしく」

「じ、ジーニアです! よろしくお願いします!」

「アオイです! よろしく!」


 これで自己紹介は終わったか。

 色々と仲良くしたくない連中ばかりだが、シロ爺とやらも言っていた通り名目は交流会。

 馬鹿にする気満々の連中とも、仲良くしないといけないと思うと億劫になる。


「自己紹介が終わったところで、本題に入るとするかァ! んで、グレアムさんよぉ。相当強いらしいけど、実際のところはどうなんだァ?」

「俺自身はそこまで強いとは思っていない。周りのみんなは持ち上げてくれるがな」

「ヴぁっはっは! そりゃそうだよな! 覇気もねぇ片腕のおっさんが強い訳が――」

「ただ……グアンザが引き連れている【紅の薔薇】なら、五人まとめてでも負ける気はしないな」


 俺がそう言葉を発した瞬間、場の空気が凍り付いた。

 グアンザだけでなく、【紅の薔薇】の面々もピリついたのが分かる。


「グレアムさん、こらえるって約束だったろ」

「軽く言い返しただけだ。それに手は……向こうから出してこない限りは出さない」


 耳元で心配そうに呟いたギルド長に言葉を返す。


「……ふっ、ヴァっはっは! 五対一で勝てるだと? ――いい度胸じゃねぇかァ! ドウェインと同じく糞みてぇな見栄を張ったことを後悔させてやるよ!」

「後悔させてやる? お前が戦うような口ぶりだが、そっちの【紅の薔薇】に戦わせるんだろ? 女の後ろでデカい口を叩く。果たして見栄を張ってるのは俺とお前どっちだろうな?」

「いいだろう。そんなに死にてぇなら――殺してやるッ!!」


 グアンザがそう叫んで立ち上がったと同時に、会議室の扉が開いた。

 中に入ってきたのはサリースであり、サリースの姿を見た瞬間に立ち上がったグアンザは動きを止めた。

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