第74話 完璧超人


 ギルド長室の中はまさに豪華絢爛。

 ここまでも一線を画していたが、ギルド長室は頭二つ抜けて豪華な造りになっている。


 ビオダスダールのギルド長室が汚部屋だったということもあり、余計に凄まじく思えてくるな。

 そんな部屋の真ん中に座っているのは、赤髪の超が付くほどの美人。


 鎧を着ているのだが、鎧の上からでも分かるほどの大きな胸。

 それでいて筋肉質なスラッとした体型でスタイル抜群。

 この女性が王都の冒険者ギルドのギルド長であり、元Sランク冒険者か。


「ドウェイン、随分と早かったな。最後まで渋っていたし、来ないかと思っていたぞ」

「渋っていたのはグレアムさんに迷惑を掛けたくないだ。グレアムさんから許可を頂けたので、なるべく早く来ただけだ」

「ふふ、良い心掛けだな。みんなが集まるまでは本当に自由にしてもらって構わない。滞在にかかった費用は全て私が払わせてもらうからな」

「えっ! ということは、どれだけ散財してもいいってこと!?」


 アオイがギルド長同士の会話に割って入った瞬間、王都のギルド長の視線がアオイに向いた。

 その瞬間にアオイは、蛇に睨まれた蛙のように背筋をピンと伸ばして固まった。


 目が大きいこともあって、見ただけなのにかなりの圧がある。

 事前の情報を聞かずとも理解できるくらい、実力者であることはその立ち振舞いから分かった。


「ふふ、どれだけ散財してももちろん構わないぞ。名前は何と言うんだ?」

「あ、アオイです!」

「アオイ……。そうか君があのアオイか」

「わ、私のこと知っているんですか?」

「もちろん。ソロでBランク冒険者は珍しいからな」


 何故か敬語を使っているし、名前を知られていることを嬉しそうにしている。

 ……敬語なのがなんとなく納得がいかないな。


「そっちのお嬢さんは何と言う名前なんだ?」

「へっ!? わ、私ですか? 私はジーニアと言います!」

「ジーニア? ……すまないな。ジーニアは聞いたことがない」

「あ、当たり前ですので謝らないでください! まだ冒険者になったばかりのDランク冒険者ですので!」


 ジーニアもたじたじとなっており、そんなジーニアを見て、王都のギルド長は爽やかに笑っている。

 立ち振舞いから全てが完璧であり……ギルド長と同じく、何となく俺も苦手かもしれない。


「それで――そっちの隻腕の彼が例の“グレアムさん”か?」

「ああ、俺がグレアムだ。そっちの名前は何て言うんだ?」

「あー、すまない。大抵の人間が私のことを既に知っているから、自己紹介をするのを忘れてしまっていた。私はこの王都の冒険者ギルドでギルド長を務めている――サリース・フォン・フレイザーだ」

「なら、これからはサリースと呼ばせてもらう。……それともサリース“さん”の方がいいか?」

「いいや。サリースで構わない」


 いきなりファーストネームを呼んでも怒る気配どころか、気にする素振りすら見せないサリース。

 本当に懐は深いようだな。


「なら、遠慮せずにサリースと呼ばせてもらう。それにしてもサリースは俺を馬鹿にしないんだな。大抵の人間は俺を馬鹿にしてくるんだが」

「確かに強さは一切感じられないし、隻腕で年齢もかなりいっている。――が、グレアムはドウェインのお墨付きだからな。それに私は初対面の人を馬鹿にするような低俗な人間ではない」

「それは失礼した。ギルド長から、他のギルド長はクズばかりと聞いていたから、サリースもそうなのかと思ってしまった」

「ちょっとグレアムさん、そういうのは言わないのが約束だろ」


 少し焦っているギルド長と、嬉しそうに笑っているサリース。


「ふふふ、ドウェインが馬鹿にされて怒った理由が分かった気がする。何かはさっぱり分からないが、グレアムは何かを持っている気がする」

「何か――ではなく、圧倒的強さなんだが、その実力を直接見ない限りは信じられないか」

「ああ、今のところは信じられん。……とにかく今回はわざわざ王都まで足を運んでくれて本当にありがとう。全員が揃ったら召集をかけさせてもらうから、それまでは王都を満喫してくれ」

「分かった。それじゃ全員揃ったら呼んでくれ」


 こうして王都のギルド長であるサリースとの挨拶を済ませ、俺達は冒険者ギルドを後にした。

 完璧過ぎて付け入る隙がなく、苦手なタイプではあるが、サリースが悪い人ではないことは分かった。


「サリースさん、かっこよかったですね! めちゃくちゃ美人でしたし、佇まいがただ者ではないって感じがしました!」

「そうかな? まぁ強そうではあったけどさ!」

「気圧されて敬語を使ってたのによく言うな。蛇に睨まれた蛙みたいになってたぞ」

「そんなことないって! ……でも、全然悪い人ではなかったね!」

「まぁサリースは出来た人間だな。単純に俺が気にくわないってだけだ」

「それは嫉妬で――か?」

「まぁそうだな。冒険者としては俺がAランクでサリースがSランク。ギルド長としても俺は大した実績をあげられない中、サリースは歴代で見ても圧倒的な実績を既に残している。まさに目の上のたんこぶであり、俺が苦手な理由だ」


 全ておいて上をいかれているって訳か。

 少々可哀想ではあるが、サリースと比べたら誰でも劣るだろう。


 ただ……俺はギルド長の方が好きだし、今回は勝たせてあげたい気持ちが出てきた。

 今回の集まりで何をやるのか分からないが、少し本気を出してもいいかもしれない。

 俯いてショボくれているギルド長を見て、俺はそんなことを思ったのだった。


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