第72話 光と闇
門を潜った先に見えたのは圧倒的な人の数。
それでいて街並みは綺麗であり、共存は不可能と思うことが目の前で起こっている感覚。
「圧倒的な光景ですね! 街が凄く綺麗です!」
「ゴミを捨てたら罰金が課されるからな。見回りの兵士もビオダスダールに比べて多いし、王都は治安維持にかなりの力を入れている」
「へー。それじゃこの国で一番人が集まる街でありながらも、平和な場所なんだな」
「……いや、それは少し違うな」
俺の言葉を否定したギルド長。
具体的なことは教えてくれず、見た方が早いということでいきなり街の中心部から外れ、西側を目指して進み始めた。
人の多さは中心部から外れてもあまり変わらないのだが、すれ違う兵士の数は西に進むにつれて減っていっている。
それに比例するように、人相の悪い人が増え始めた。
「めちゃくちゃ睨まれるんだけど! ねぇ、こっちに来て大丈夫なの?」
「こっちは何が起こってもおかしくない場所だが、グレアムさんがいれば何が起こっても大丈夫だ」
「そんな信頼を置かれても困るんだが……。人相手だと本気でいけないぞ」
「この先に一体何が――ってあっ! な、なんですか? あの明らかに怪しい場所!」
ジーニアが指差した先には、雑に造られた壁が聳え立っており、侵入できないように有刺鉄線が張り巡らされている。
人相の悪い人間が増え出した中で、突如現れた怪しすぎる壁。
「ギルド長、この壁は一体何なんだ?」
「この壁の向こう側では闇市が開かれている。完全な無法地帯であり、王都の闇の部分だな」
「あれだけ綺麗な街でしたのに、こんな場所があるんですか……」
「私はなんかワクワクするかも! 闇市なんて行ったことないし!」
俺ももちろん闇市には行ったことがないため、アオイ同様に少し気になってはいる。
一体どんな物が売っているのかすら、想像がつかないからな。
「ちなみに闇市に入ることはできるのか?」
「入れるぞ。金は払わないといけないが、基本的に誰でも入ることが出来る」
「ふぇー! は、入るんですか? ちょっと怖いんですけど……。ギルド長さん、闇市って何が売られているんですか?」
「基本的に何でも打っているぞ。武器や防具、マジックアイテムの類から、ブランド品の洋服とか宝石なんかも格安で売られている」
「そうなんですか。売られているのは意外と普通の物なんですね」
「まぁ偽物か盗品かのどちらかだがな」
意外にも普通の商品であり、少し興味が湧いた様子のジーニアだったが、ギルド長のその最後の一言で表情を一気に歪めた。
「後は違法薬物や闇医者による治療なんかも行われていて……。まぁ一番の目玉は人間だな」
「人間? 人間が売り物ってことか?」
「ああ。この国で唯一人身売買が行われている」
「怖すぎますよ! 捕まったら売られてしまうんですか?」
「いや、売っていいのは亜人だけと決まっている。扱いは奴隷だが、貴族の使用人として買われることが多く、扱いも酷くないから王都も目を瞑っている状態だな」
凄すぎる世界だな。
人を売り買いするなんて、これまでの俺の考えにはなかった。
「色々と凄まじいな。あれだけ綺麗な場所から少し逸れるだけでこんな場所があるんだもんな」
「まぁ紛れもない王都の魅力の一つだな。そして、俺が闇市を紹介したのは理由がある。……グレアムさん、この闇市で人を買わないか? 孤児院を開くに当たっての施設職員として」
急に言い出したとんでもないギルド長の発言に、俺達三人は口を開けて固まる。
まさか……人の購入を勧めてくるとは思ってもいなかった。
「……だ、だ、駄目ですよそんなの! 人のルールに反します!」
「売られているのは基本的に身寄りのない亜人だ。一定の期間売れなければ処分される。なら、グレアムさんに買われた方が幸せだろう。酷い扱いは絶対にされないしな」
「それはそうかもしれないですけど……。買う人がいたら需要があると捉えられる訳で……」
「もう何百年と続いているし、それは本当に今更な問題だ。それでグレアムさんは今の話を聞いてどう思った」
非常に難しい問題。
感情的にはジーニア寄りだが、ギルド長の言い分も理解できる。
ましてや処分されると聞いた日には、買って助けてあげるという見方もできるからな。
「……とりあえず保留でいいか? 王都に滞在する最終日までに決めておく」
「もちろん大丈夫だ。いきなり重苦しい話をして悪かったな。それじゃ戻って王都観光を行おう」
「とても観光なんて気分になれないんですけど……!」
「これが良くも悪くも王都ってことだ。深い闇の部分があるからこそ、光輝く場所がある。王都の綺麗な部分だけを味わって欲しくなかったってのもあって、いきなり闇市を紹介させてもらった」
ギルド長なりの考えということか。
闇があるからこそ光がある。
煌めくような輝かしい街も、闇市があるから成り立っている部分があるのかもしれない。
そう考えると……街を巡るにあたって色々と深く考えられそうだ。
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