第71話 圧倒
馬車を乗り換え、二つ目の経由地であるアンベジエの街にも無事到着。
レンジェと同じく軽く観光した後、ギルド長が取ってくれた宿で一泊し、翌朝から王都を目指して歩を進めている。
「馬車もよかったけど、こうして歩くのも良いね! いつもとは違った景色を味わえて楽しい!」
「馬車からは景色が見られなかったしな。こうして見知らぬ土地を歩くのもまた一興だと思える」
「王都へと続く道だからか、めちゃくちゃしっかり舗装されていて歩きやすいですしね。歩き出して三時間くらい経ちますけど、一度も魔物と出会っていないですよ!」
「王都のギルド長がしっかりと魔物避けしているからな。道を大きく外れない限り、魔物とは会敵しない」
ギルド長の言っていることは嘘ではなく、魔物の反応はかなり遠い位置からしか感じ取れない。
魔物も意図的に近寄らないようにしているみたいであり、何かしらの魔物避けを行っているのは確実。
ただどんな手を使っているのかは分からないため、非常にモヤモヤするな。
そんなことを考えている間に、人が徐々に増え出した。
ビオダスダールに来たときも経験したが、これは街が近づいている証拠。
「もう王都が近いのか? 人が一気に増え出した」
「ああ、あと二十分ほどで着く。初めての王都なら、グレアムさんもきっと驚くと思うぞ」
人の多さに驚くのか、それとも街の大きさに驚くのか。
その二つはビオダスダールで驚いたし、もう驚くことはない。
――そう思っていたのだが……。
「な、なんだ……この人の多さ。それでなんだあの街の大きさ!!」
「ふふ、良いリアクションを取ってくれるんだな。あれが王都だ」
街に入る前からビビるくらいの人集りが目に飛び込んできた。
ビオダスダールも中に入る前に身体検査を行うために並ぶのだが、そんな比ではない量の人。
中に入るまでに、半日は絶対にかかるであろう人がズラリと並んでいる。
そしてそんな大行列の先にはビオダスダールの三倍以上の大きさの城壁が見え、その衝撃はエンシェントドラゴンを見たときと同じぐらい。
あんなものをどうやって作るのか、非常に興味深い。
デザインも細部までこだわっているし、砦のよあに要り組んだ造りにもなっているからな。
魔法ではあんな細かい作業は無理だから、人力で造ったことは確定。
どれだけの人と年月をかけたのか。
それを想像するだけで……色々と恐ろしくなってくる。
「色々と規格外すぎますね! 街に入る前から既に面白いです!」
「同感だな。ビオダスダールに来たときも驚いたが、王都はその比じゃない」
「街の中はもっと凄いぞ。滞在期間内では確実に回りきれないくらい色々なものがある」
「一生来なかったかもしれないと考えると、機会をくれたギルド長には感謝しないといけないかもしれない」
「感謝はやめてくれ。これから確実に面倒くさいことになるからな。本当に申し訳ない気持ちしない」
ギルドはそう言っているが、俺はもう多少の面倒ごとなら気にしないくらい満足している。
王都探索もめちゃくちゃ楽しみだし、来て良かったって思えているからな。
初めての王都に既に圧倒されながら、俺達は行列の横を通ってズンズンと進んでいく。
どうやら王都でもギルド長特権は使えるらしく、俺達は並ぶことなく中に入ることが出来るらしい。
本来ならば半日かかる行列を一気に抜き、城壁の真下までやってきた。
下に来ると余計に凄まじく、首を真上にあげても壁の先端が見えない。
「ここから身体検査がある。三人とも変なものは持っていないよな?」
「大丈夫! 荷物自体あんま持ってきてないし」
「怪しいのは武器くらいだが流石に大丈夫だよな?」
「武器なら問題ない。それじゃ行こうか」
先を進むギルド長の後を追い、俺達は門の中にある検問所のようなところに向かった。
ギルド長が何やら話をしたあと、すぐに俺達の身体検査が行われた。
「両手を広げて立ってくれ。鞄は全て預からせてもらう」
十人くらいの検査官が一斉に検査を行うことで、あっという間に検査が終わった。
時間は短かったが、しっかり体の隅々まで調べられた。
「よし、全員問題なし。中に入っていいぞ」
「ありがとう。受け取ってくれ」
ギルド長はチップを手渡し、検査官長らしき人物は無言で受け取った。
賄賂的な額ではないし、王都はチップ文化があるのかもしれない。
「俺達も渡した方がいいのか?」
「いや、渡す必要はないぞ。俺が多めに払っているし、三人は気にしなくていい」
「そういうものなのか」
「ああ。それじゃいよいよ王都の中だ」
本当にいよいよだな。
ビオダスダールを出発してから丸二日かかったが、ようやく王都の中に入ることが出来る。
シンプルにワクワクしつつ、俺は門を潜って王都の中に入った。
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