第69話 馬車
あっという間に約三週間が経過した。
この期間は、予定通り依頼をこなす日々を過ごしており、俺達はようやくDランクに昇格することができた。
Eランクから非常に長かった感じはあったのだが、受付嬢さん曰くビオダスダールでは最速でのDランク昇格らしい。
今では前とは別の意味で有名になっており、『隻腕のグレアム』という異名までつけられた。
今までの呼び名が『おっさんルーキー』だったことを考えると大躍進だし、名前をしっかりと呼ばれるようになったのは嬉しい。
後は大層な異名じゃないこともありがたいところ。
英雄とか勇者なんて枕詞をつけられた日には、外を歩くのすら恥ずかしくなる。
まぁ呼び名自体いらないといえばいらないんだけどな。
「グレアムさん、おはようございます! いよいよ今日から王都に向けて出発ですね!」
「そうだな。想像していたよりも早くて驚いているが、丁度Dランクに昇格したしタイミング的にはベストかもな」
「トントン拍子で決まったってギルド長は言ってたね! 昇格試験は楽しかったけど、依頼をこなす日々は退屈だったし王都に行けるのは嬉しい!」
「私は依頼も楽しかったですが、王都に行くのも楽しみですね! 費用は全て冒険者ギルドが負担してくれるのも大きいです!」
「だね! ふっふっふ。本当に全部払ってくれるみたいだし、この際豪遊させてもらおう!」
「あんまり良くない提案なんだろうが……ありだな。ギルド長の頼みで王都に行く訳だし、普段は絶対に食べないようなものなんかもご馳走してもらおう」
珍しくアオイの提案に乗っかり、二人で悪い笑みを浮かべる。
ちなみに出発の時間は朝ではなるが朝早くとかではなく、いつもの依頼を受けに行く時間と同じくらい。
結構遠いらしいし、もっと長い時間移動するのかと思っていたが、どうやら王都までは二日かけて向かうらしい。
馬車も手配してくれており、まずは最初の中継地点であるレンジェの街に行く。
レンジェで一泊して翌朝から別の馬車に乗り換え、次はアンベジエの街に向かい、アンベジエから王都までは徒歩とのこと。
王都はもちろん、経由地である二つの街も行ったことがないし、馬車に乗るのも初めて。
色々と分からないことだらけではあるが、ギルド長がいて何とかしてくれるのも心強いし、アオイが行っていたように今回の旅では一切の金銭がかからない。
面倒くさいことに巻き込まれてしまった感は強いものの、こんな機会は滅多にないし……四十二歳の俺にとってはラストの可能性まである。
そう考えたら良い機会をくれたと思えるし、提案された時とは違い、意外にも楽しみな感情を持ってこの日を迎えている。
浮足立った状態で冒険者ギルドに辿り着くと、既に外にはギルド長の姿があった。
どうやら他のギルド職員はついてこないようで、ヘストフォレストに行ったメンバーで王都に向かうことになるようだ。
「グレアムさん、ジーニア、アオイ、おはよう。そして、今回は改めてありがとう」
「もう気にしなくていい。王都は結構楽しみだしな」
「道中は馬車も用意してくれたんですもんね! 私とアオイちゃんはウキウキですよ!」
「そうそう! 遠慮せずにガンガン食べたい物とか買わせてもらうからね!」
「遠慮なく言ってくれ。費用は全て王都の冒険者ギルドが負担してくれるとのことだし、向こうでも一流のホテルに泊まれるはずだからな」
それは本当に楽しみだな。
今宿泊している『椿屋』で大満足しているのだが、一流ホテルに泊まることで満足できない体にならないかだけが怖いが……あくまで旅行だから大丈夫だろう。
もう二度とない機会かもしれないし、ここは思う存分満喫させてもらおうか。
「一流ホテル! 食事とかお風呂とか凄いのかな!」
「お部屋とかもきっと綺麗ですよ! どんなベッドなんですかね?」
「さあな。『椿屋』で宿を取るまではカピカピの布団だった俺には、想像すらできない」
見るからに浮かれている三人で一流ホテルについてを話しつつ、外に待機させていると言っていた馬車まで向かった。
ギルド長特権で検査なしですぐに街から出られ、外に止まっていた豪華な馬車に乗り込む。
「うっわー! 中めちゃくちゃ広いですし、ふっかふかなソファーみたいになってますよ!」
「馬車を引いてたのって魔物だよね? 見たのも初めてなんだけど、高級な馬車だと魔物が引くんだ!」
「デザートホースって名前の魔物で、砂漠地帯に生息する。馬よりも圧倒的に馬力がある上に、砂漠地帯にいるから水分補給を一週間行わなくても大丈夫なほど飢餓に強いのが特徴」
「初めて聞いた名前の魔物だ。ちなみにこのデザートホースはどうやって従えさせているんだ?」
「御者が魔物使いって職業なんだ。魔物を従えることのできる特殊な職業で、王都には冒険者の中にもいるぞ」
魔物を従えることのできる職業なんてのもあるのか。
今後の参考に話を聞いてみたいが、流石に仕事中に話を聞くのはやめておこう。
「……ベインさんを従えていますし、グレアムさんも魔物使いなんですかね?」
「あれは勝手に従ってるだけだし違うだろ。ベインが裏切ろうと思えば、いつでも裏切れる状態だしな」
「いやー、絶対に裏切らないでしょ! 気持ち悪いぐらい心酔してるもん!」
「……ん? 三人は一体何の話をしてるんだ?」
「いや、なんでもない。それよりいつ出発するんだ?」
「もう間もなく出るはずだが……おっ、噂をすれば走り出したぞ」
俺達はデザートホースが引っ張る馬車に揺られ、最初の経由地であるレンジェへ向かったのだった。
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