第62話 無駄遣い


 エンシェントドラゴンのブレスでも回復できたんだし、筋肉の損傷くらいなら問題なく回復できるだろう。

 そんな考えから、俺はアオイに回復魔法をかけた。


「今、回復魔法を使ったんだが、体の調子発揮どうだ?」

「…………えっ、問題なく動けるんだけど! あー! グレアムが回復魔法を使えること。それから想像の何十倍も化け物なのを忘れてたぁ……! 貯金を崩して大量に回復ポーションを買ったのに、グレアムに頼めばタダだったじゃん!」


 今、回復ポーションを使わずに治ったことよりも、これまで回復ポーションを使って無駄に治してしまったことへのダメージが大きいのか、頭を抱えて膝から崩れ落ちたアオイ。

 実戦で【制限解除】の一撃を成功させた喜びよりも、無駄遣いしたショックの方が大きいみたいだな。


「こそこそ何かの練習をしていたことには気づいていたが、まさか回復ポーションを使って練習していることには気づかなかった。少しでも相談してくれれば、俺から提案したんだけどな」

「だ、だって……いきなり実戦で使う方がいいじゃん!」

「いいじゃんの意味が分からない」

「アオイちゃんの気持ち、私には分かります!」


 膝から崩れ落ちているアオイを慰め始めたジーニア。

 いまいちよく分からないままだが、問題なく動けるようになったらしいし、そろそろ切り替えて先に進もうか。


「シルバーゴーレムの群れの場所まで、まだ距離がある。歩きながら落ち込んでくれ」

「酷い! ……けど、止まってたら野宿になるもんね。お金のことは忘れて進むかぁ」

「練習の成果は出せたんですし、切り替えましょう! 本番はこの先にいるシルバーゴーレムです!」

「……だね! くよくよしてても回復ポーション代は返ってこないし切り替える!」

「それでこそアオイちゃんです! 私も負けていられませんね!」


 気を取り直し、洞窟の中を進み始めた。

 洞窟の中に入ってから、魔物の出現頻度が格段に上がり、出くわした魔物はジーニアとアオイが交互に倒していった。


 ジーニアはヘストフォレストの時と同じようにカウンターでの一撃で仕留めていき、アオイは【制限解除】を使って魔物を沈めていった。

 俺の回復魔法で実質デメリットなしで放てるということで、かなり凶悪的な動きを取っているアオイ。


 元々素早い動きで相手を翻弄しながら、手数で攻撃を行うスタイルだったため、強力な一撃を手に入れたことで覚醒したと言っていいほどの安定感がある。

 ジーニアは今のところ前回から変化が見られないが、何か試しているのは分かるため、シルバーゴーレム戦で何かやってくれると思う。


 若者の成長を特等席で見ることができているこの状況に満足しつつ、洞窟を進むこと一時間。

 ようやくシルバーゴーレムの群れがいる洞窟の奥地に辿り着いた。


「この先にシルバーゴーレムがいる。二人とも、体力の方は大丈夫か?」

「私は大丈夫です。ここまで温存しながら戦っていましたので!」

「私は調子に乗って連発しまくったけど……まだ体力は残ってる! 五体ぐらいならぶっ壊す!」

「なら、行こうか。数は合計十八体。シルバーゴーレムが十七匹で、ゴールドゴーレムが一匹。二人にはシルバーゴーレムを五体ずつ倒してもらう予定だから気合いを入れてくれ」

「はい、大丈夫です!」

「私も大丈夫! バーサークベア戦での失態をここで取り返す!」


 気合いを入れた二人と共に、俺たちはシルバーゴーレムの群れのいる開けた場所に足を踏み入れた。


 【ライト】の魔法だけでは照らし切れないほど広い場所。

 地震か何かの影響で上は抜けているようで、上からここまで降りてくることも可能だったようだ。


 流石に穴が開いていることまでは分からなかったな。

 まぁ有意義な戦闘も行えたし、結果的には良かったと考えよう。


 問題はシルバーゴーレムであり、視界に入っているのは十体のシルバーゴーレム。

 姿を見せた俺達に目も暮れず、ひたすらに鉱石を食べている。


「……襲ってきませんね。目ぼしい貴金属を身につけていないからでしょうか?」

「えっ? 私、結構身につけていると思うんだけど! この短剣とか高いやつだし」


 そういってアオイが短剣を鞘から抜いた瞬間――。

 全てのゴーレムが動きを止め、首だけをこちらに向けてきた。


 その目は赤く光輝いており、無機質な分一際不気味に見える。

 俺たちを獲物と認識したのか、動き出したシルバーゴーレムたちはゆっくりと向かってきた。


 【ライト】の魔法を追加で唱え、二つの【ライト】が辺りを照らす。

 こちらの視界も確保したところで……シルバーゴーレムとの戦闘が開始された。


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