第61話 アオイの成長


 抜け穴を見つけた俺は二人の下に戻り、今度は二人を引き連れて先ほどの抜け道を目指す。

 待機時間が良い休憩になったようで、スムーズに抜け道までやってくることができた。


「うわー、こんな狭い穴なんですね」

「入り口が狭いだけで奥は広くなっているはず」

「真っ暗で何も見えない! この先にシルバーゴーレムの群れがいるの?」

「気配はこの奥から感じるから間違いないと思う」


 俺は【ライト】の魔法で洞窟内を照らしながら、狭い抜け道を進んでいくと……予想通り段々と道が広くなってきた。

 ゴーレムの棲み家なだけあって鉱石が多く、見える範囲でも大量の銅鉱石がある。


「凄い。本当に洞窟になっています」

「まだ魔物がいる気配はないけどね! 何か珍しい鉱石ないかな?」

「アオイ、そろそろ集中した方がいい。山道はまだ易しい魔物ばかりだったが、ここから先は結構強い魔物がいるぞ」

「本当ですか? どんな魔物が――」


 そんな話をしていると、凄い勢いで何かが近づいてくるのが分かった。

 どうやら地中を掘り進んでいるようで、壁側から近づいてきている。


「話をしていたら早速だ。一度俺の後ろに下がってくれ」


 二人を後ろに下げさせ、俺が守るように前に立つ。

 凄い勢いで掘り進んで出てきたのは、モグラのような魔物。


 全長は二メートルくらいで、前腕が異様に発達した変なフォルムをしている。

 掘って出てきただけあって爪は丈夫そうな感じがあり、大きな口からは牙も覗かせている。


「変な魔物が出てきました! グレアムさん、この魔物強いですか?」

「ヘストフォレストで戦ったバトルエイプよりは強いが、バーサークベアよりは弱いって感じの立ち位置だな」

「なら、私達でも戦えますね!」

「ああ。大丈夫だと思うが……肉食だからか強烈な血の臭いする。くれぐれも食われないように気をつけてくれ」


 異様なフォルムをしているが、二人でも問題なく倒せる相手。

 ギルド長がいれば、この魔物の名前から詳しい情報まで分かったのだろうけどな。

 

「アオイちゃん、どっちが戦いますか? それとも二人で戦う?」

「私に行かせてほしい! 練習していたのを試したい! 次はジーニアに譲るからどう?」

「大丈夫ですよ! 私は少し離れた位置で見ておきます」


 どうやらアオイのみで戦うようで、シルバーゴーレム相手に練習してきたことを試すつもりらしい。

 俺に知られないように練習していたようだから、見るのは楽しみだな。


「それじゃ一気に決める! ……ふぅー」


 モグラの魔物の前に立つと、両手をだらけさせて脱力した。

 完全な無防備状態であり、そんなアオイに向かってチャンスとばかりに襲いかかっていった。


 俺の目線からでも一方的に食われるのではと思ってしまうような状況のため、いつでも助けられるように刀の柄を握っておく。

 ギリギリまで待って、モグラの魔物の牙がアオイに届くと思った瞬間――後に動き出したはずのアオイの拳が、モグラの魔物の顔面を捉えた。


 そして殴られたことでぶっ飛んでいったモグラの魔物は壁に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。

 ……正直、アオイが何をやったのか全く分かっていない。


 この短期間で、あれほどの威力の一撃をマスターしていたとは思っていなかったな。

 どうやったのかも気になるが、まずはモグラの魔物が死んだかの確認が先決。


「アオイちゃん、凄いです!」

「バーサークベアだろうと倒せる一撃を何とか会得できたんだ! ……グレアム、どうだった?」

「正直驚いたな。今の攻撃はバーサークベアでも耐えられていなかったと思う」


 そう返事をすると、アオイはニヤニヤと嬉しそうな笑みを見せ、恥ずかしくなったのか口元を押さえたが目がニヤけたまま。

 俺はそんなアオイを横目で見つつ、モグラの魔物の確認を行ったのだが……ちゃんと絶命しているな。

 頭の半分が潰れており、一撃で絶命したのが死体から見て取れた。


「……にへへ。失敗したらどうしようかと思ったけど、成功して本当に良かったぁ!」

「カラクリは何なんだ? 急に筋力がついたとは考えられないし……スキルか?」

「そう! 【制限解除】ってスキルを使った! 肉体の制限を解除させて100%の力を発揮できるってスキルなんだけど、その分コントロールもできなくなるから使い物にならないスキルで、今まで使ってこなかったスキル!」


 強力なスキルだな。

 通常、人間は30%ほどの力しか使えないように制限されている。

 その制限をスキルで解除し、100%の力を使えるようにしていたからこそのあの威力ってことか。


「リスクを負ったからこその強烈な一撃ってことか」

「そういうこと! ただ、その反動で筋肉が痙攣してて動けない! 練習もこの状態がしんどくて、色々と苦戦していたんだよね」

「毎回動けない状態になっていたんですか?」

「うん! 治すために貯めてたお金を使って、高級ポーションを買いまくってた! めちゃくちゃ高いけど、ポーションを使えば反動後も動けるようになるんだよね!」


 そういうと震える体でホルダーからポーションを取り出し、使用しようとしたアオイ。

 俺はそんなアオイの行動を慌てて止める。


「ちょっと待て。ポーションなんか使わなくてもら俺は回復魔法も使えるぞ」

「……え? さ、さすがに反動を回復できないよね?」

「分からないが、欠損さえしていなければ治ると思うぞ」


 左腕をくっつけることはできなかったが、大抵の状態は回復魔法でなんとかできた。

 エンシェントドラゴンも、聖炎で焼いたのにすぐ回復する俺を見て、顔を歪ませていたのが懐かしい。


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